電車の最寄り駅から一時間もかからない場所にポツポツと温泉宿があってそこでパートしてました。
とりたてて観光名所がある訳でもないので、ラブホテル間隔で来るお客さんがそれなりにいて、そのおかげで経営が成り立ってるようでした。
密会するには確かにちょうどいいんです。
お客さんは本当に様々で、人間ウォッチングには事欠きません。
本当の事を語らなくてもなんとなくわかるようになってきます。
ラブホテルではないので、避妊具などは置いてませんがゴミ箱には大抵捨ててありました。
入浴のみでも食事を部屋で取れるサービスもあります。
表向き仮眠用となってますが布団も使用できますし、そこは従業員もお客さんも暗黙の了解ってことになってました。
一番多いのはやはり中年男性と若い女の子。
ありきたりすぎてなんとも思わない組み合わせです。
私が一番興味をそそられたのが、その真逆の中年女性と若い男の子でした。
珍しいけどまれにあります。
それで、ある時、40くらいの妙齢の女性と大学生くらいの男の子が飛び込みで来ました。
なんの変哲もない平日に宿泊希望で。
もちろん部屋はいっぱい余ってますからお泊まりいただきました。
お茶をお出しする時に簡単な当たり障りのない会話はするんですが、かいつまんでいうと、成人の記念に親子で旅行に来たという。
お母さんの方は仕事を持っているので、前々から予定を立てるのが難しく、ちょっと何日かゆとりができたから急遽出掛けることにしたらしい。
「もう、親につきあってくれる年齢でもないから、海外旅行になんてつきあってくれないし、それなら手頃な近場の温泉で美味しいもの食べるくらいならって…息子も温泉は大好きだし…
要するに記念にかこつけて親のわがままにつきあってもらったってことなんですよ…」
お母さんは感じの良い話し方で私に説明してくれた。凄く気品のある人だがかしこまりすぎた感じはない。
それに、なかなか綺麗な人だった。
カジュアルなスーツ姿だったがスタイルの良さがわかる。
黒のストッキングが似合っていた。
こんなお母さんなら自慢に思えるのかもと思いながらも、どこかで二人がただならぬ仲であって欲しいという下世話な自分もいた。
それがあっさり判明した時は逆に拍子抜けすらした。
あくまで一瞬だったが。
二人が泊まる部屋には露天風呂が付いていた。
なので大浴場の入浴を伝えるのを忘れてしまったのだ。
部屋の扉をスライドさせるともう1つ部屋に通じる扉がある。
外から声をかけたが反応はなかった。
でもスリッパはそのままだったから中には居るはずである。
まだものの10分も経っていない。
部屋に通じる扉も鍵はかかっていなかったから、開きながらおそるおそる声をかけた。
部屋は二間横に並んであるが、どちらにも気配がなかった。
そうなると、声の聞こえない場所は露天風呂しかない。
心臓が早鐘を打ってきた。
まさか一緒に入ってる?…
私は爪先立ちで、あくまで確認するだけと脱衣場に近づいた。
脱衣場からも気配は感じられないからたぶんお風呂だ。
それなら扉を少し開けても気づかれないはず。
私は意を決して扉をゆっくり開けた。
従業員が使用すり裏の喫煙スペースで私はタバコに火をつけた。
いくらなんでも健全に親子がお風呂に入る年齢ではないでしょ?
私は自らに問いかけた。
それなら親子というのは偽りか?
ただ、確かに親子にも見えるのだ。
そうなると、まさかまさかの禁断の関係?
変な話、それが最もしっくりくるのだ。
なんだか凄いの見た…
私はメチャクチャ1人で勝手に興奮していた。
チェックインしたのが飛び込みで夕方だから、まだ夕飯までは時間がある。
一回戦こなすには十分だろう。
リアルでもあるんだなあ、こんなの。
天然記念物でも見つけたような気分だった。