数年前、アパートでひとり暮らししている頃の出来事です。
仕事が終わって駅に着き、いつものように近所のコンビニに寄って帰宅しま
した。
すると・・(えっ?なんで?) 部屋の鍵があいてます・・
(そっかぁ、彼が来てるんだ)・・そう思いました。
当時わたしには年上の彼がいて、こうしてときどき先に部屋に居てわたしの
帰りを待つことがありました。
ドアを開けてすぐキッチン、そこを抜けて奥に部屋が2つ、コンビニの袋をキ
ッチンの床に置いて奥に進むと押入れの前に人影が・・・
(まったく電気も点けないで何やってんの)・・そう思った瞬間、目の前に飛
び込んできたのは見慣れた彼の笑顔ではなく、全く見ず知らずの男の人でし
た。
(えっ? なにこれ? だれ?)・・・いろんな事が頭の中でまわるだけで言葉が
出ませんでした。
わたしに気付いたその人影は、すっと立ち上がってわたしに近づいてきまし
た。
驚いたわたしは言葉も出せないままその場にしりもちをついてしまい、(怖
い)・・ただその一心でしりもちのカッコのまま後ずさり・・
背中が壁にぶつかりその男の人が目の前まで迫ったときは、(殺されちゃう)
そう本気で思いました・・
男はわたしをじっと見る視線が下半身に移ったとき、ハッと気付いたわたし
はあわててスカートのすそを直し隠しました。
(えっ?)・・次の瞬間、スカートを直すため一瞬目をそらしたわたしの胸を男
の手が強くまさぐってきました。(いゃ・)抵抗はしましたが声が出ません。
触られないように必死に両腕で胸を覆うように隠していたわたしの片手を掴
み、男は自らの股間にわたしの手を持っていきました。強く握りこぶしした
手のままジーンズの上から何度もさするように・・
(こわい・・たすけて)・・心の中だけで叫んでました。男は片手でわたしの
手首を掴んだまま、もう片方の手でジーンズのファスナーを下ろしました。
【♪♪♪】・・床に置いたバックから聞き慣れた着メロ・・彼です。
男は驚いたようにわたしの手首を離し、そのまま玄関から走って逃げまし
た。残されたわたしは彼の電話に出ることもできず、ただ何故か涙だけがど
んどん出てきて・・・赤くなった手首を見ているだけでした。
その日は部屋にいられなくて友達のところに泊まりました。そのあともビジ
ネスホテルヤ友達のところを転々として、一月後、オートロックのマンショ
ンに引越しました。
警察や彼には言いませんでした。盗られたものは何もなかったし、警察に言
って既婚者の彼に迷惑がかかることも考えました。彼にも余計な心配をかけ
たくなかった・・いろんな思いがあって結局誰にも言ってません。
それから一年、あたらしい部屋で楽しい思い出をいっぱい作った彼とも別れ
ました。
ひとりになって、寂しい夜、思い出すのは何故かあの日のこと・・・
もし彼の電話がならなかったら・・
わたしが抵抗しなかったら・・
今、わたしはマンションを解約してあの時のアパート、同じ部屋にまた住ん
でいます。自らの意思でここに帰ってきました。
そして、あの時向かい合ったキッチンの床にすわって・・
就寝時間・・電気を消し、玄関ドアの鍵をかけずに・・・
小さな物音に敏感な夜を過ごしています・・・