私は29のOLで家族と暮らしています。
ある日の昼間、仕事中に見知らぬ番号から着信があり、とってみると宅配便の人からでした。
宅配便の人は私の住所と名前を言い、○○という会社から荷物が届いていると…通販で買った洋服が届いたようでした。
「ご不在のようでしたから不在票を残そうと思ったんですが、玄関は開いてるようだったので一応電話してみました」とのこと。
いつもは母が居るはずなのですが、鍵をかけ忘れのかも…と思い、親切にありがとうございますと御礼を言いました。
「いえいえ、では荷物は中に置いておきますので…」と言われた時、一瞬「えっ?入るの?」と思いました。
咄嗟に「外に置いておいてください」と言ったのですが、電話の向こうの音をよく聞くと、どうやらもう入っている気がしました。
というのは、夜家に帰った時の廊下の物音の響き方みたいなものが、電話越しに何となくわかった気がしたんです。
「あ、あの、ほんとに大丈夫ですから…」と続けると「あ、わかりました!」と言う声の響きはまさしくうちの玄関から廊下の響きと似ていて…この瞬間胸がドキっとし不安を覚えました。
電話を切ろうと思うのですが気になってしょうがなく、「サインとかはいらないんですか」などと聞いてみたりしながら、電話の向こうの物音に耳を立てていると、「大丈夫ですよ」と言う向こうの声の響きが変わったんです。
響かなくなってはいましたが、外に出たような喧騒の音はせずさっきより静まりかえっていて…
その時かすかに「カチャ」という聞き慣れた音がしました。
「え…」大きな不安から私は電話を切ってしまい、すぐに母の携帯に電話しました。
買い物に出てるということ。鍵をかけ忘れなかったかを聞いても「そうだったかしら」とのほほんとしているので、私は会社に早退を願い、急いで自宅へ戻りました。
会社から自宅までの40分がこんなに長く感じたことはありませんでした。
マンションに着き、ドアを確認すると、言われた通り玄関は鍵がかかっていません。
恐る恐るドアを開けると、荷物が置いてあり、誰もいない様子でした。
ですがひとりで家に入るのはちょっと怖かったので鍵をかけ、近所のスタバで母が帰るのを待ちました。
やがて母が帰り、一緒に自宅に入ったのですが、特に変わった様子もなく、ひとまず安心しました。
数ヶ月経ち、そんなこともすっかり忘れた頃です。秋口でそろそろ冬物の準備をしたいなとクローゼットの洋服の整理をしていた時、キャメルの膝丈のコートを見て絶句しました。
シャンパンゴールドの裏地に大きな変なシミというか、カピカピに固まってしまっている部分を見つけたんです。
「これなに…」と思った瞬間、あの時の電話越しに聞こえた「カチャ」っという音が何の音だったかわかりました。
私の部屋の白いクローゼットの扉を開けた時の音に間違いない…と。
恐る恐るそのカピカピの部分の匂いを嗅いでみました。魚臭いというか、生臭い変な匂いがします。
私は「嫌っ」と声をあげ、すぐにそのコートを捨てました。
他の服も確認したほうが…とも思ったんですが、何ヶ月か前のことだし、怖くてほとんどそのまま…ただ着る時に必ずチェックしてきました。
あれから一年経ち、その間着た服については異変を感じませんでしたが、古くてもう滅多に着ない服やフォーマルなんかはまだ未チェックです。
服だけでなく、部屋のどこかも…と思うといまだに怖いです。
下着とかに悪戯されていたならすぐに気づいたと思うのですが…。
それ以来、通販する時は必ずコンビニ受付にしています。