2025/07/31 16:50:40
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クミがこの街に来たのは、大学の友人である宮前茜の家に行くためだった。クミは人から憧れられるような生き方をしている一方、自身の型にはまった生活タイプに嫌気が差し、自由人の茜に憧憬のようなものを持っていた。一方の茜の方も、成績優秀なクミを尊敬していた。
(学級委員長として色々な生徒を見てきたつもりだけど、二十歳にもなって、こんな変な奴らと出会うとは。しかも、あの橋本くんがねぇ…。そういえば、表札に宮前一明って名前も書いてあったわね…。宮前さんのお父さんかしら。カズアキ…。確か橋本くんと話してた子も同じ名前だったわね…。)
「どうしたの?清水さん」
「宮前さん…。なんでもない」
「そう?ならいいけど」
「ただいまー」
そこに、深緑色の制服を着た少年―茜の弟の宮前智輝が帰ってきた。
(!?)
「ねえ宮前さん。あの子、宮前さんの弟?どこの高校?」
「智輝?七芝高校の系列のあそこ。本校とは違って、昔から気力のない学校で有名だけどねぇ…。」
「ああ、あそこか…」
「あそこの学校に…木戸くんだっけ…その子って、いる?」
「ああ、そういえば居た。智輝と同じ2年2組。クールでかっこいい感じだって言ってたけど、飯塚先生とは折り合いがよくないみたいで。よくボロクソに言ってたよ。」
「そうなんだ。」
(和明くん、ツンデレなのか…。学校では飯塚先生のことを悪く言って、裏では飯塚先生でアレな妄想を…。意外と可愛いというか、なんというか…。)
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翌朝。帰ろうとするクミ。
「宮前さん、昨日はありがとう。人の家に泊まるなんて初めてだったから緊張したけど、楽しかったわ。」
父親の一明、母親の香織が出てきた。
「こっちも緊張しましたよ。茜が友達を家に連れてくるなんて初めてだし、ヒヤヒヤしっぱなしで…」「私もです。だけど、茜も大きくなったって思って。ちょっとだけ嬉しくなったわ。」
「今日はどうもありがとうございました」クミはそう言い、茜の両親に頭を下げた。
帰りの電車の中。他の乗客は行きなのに、自分は帰り。クミは妙な感慨に浸っていた。
「なんだかんだで、この街は楽しかったわ。いつかまた、この町に来てみようかな…」そうつぶやくクミなのであった。
【完】