「はい、今日の授業はここまで。ちゃんと家でワークやってこいよー」
川島直明、31歳。ある高校の数学教師だ。生徒と比較的年齢が近いため、生徒からは教師というより友達感覚で接してこられることが多い。先輩教師からは「教師なんだから、もう少し威厳を持たないと」と注意されることもあるが、直明本人は、生徒とは フランクに接したいと考えているため、今のような関係性が理想である。年を重ねれば自然に変わっていくだろうが、しばらくはこのままでいいかな、と考えている。
そんな直明はごく普通の高校教師だ。特に変わったところもない、平凡な数学教師あえて言うなら、少しばかり風変わりな趣味があることだろうか。その趣味について、彼は誰にも話したことがない。
直明の最初の特殊な癖は、スマホで手袋や工具の画像を見ながら自慰にふけることだ。この癖のルーツは、彼の学生時代に遡る。彼が当時ひそかに想いを寄せていたのは、一つ年上の先輩、嶺田結衣だった。彼女は地元の小さな町工場で働いており、汗と油にまみれながらも、いつも活き活きとして見えた。彼女の働く姿を思い起こさせる工具や軍手の画像は、直明にとって、結衣先輩そのものだった。彼女本人の写真を見るのはさすがに気が引けたが、これなら彼だけの秘密の楽しみだった。
もう一つの特殊な癖は、竹刀を見ることだ。竹刀を目にすると、彼はどういうわけか興奮を覚えるのだ。バスケットボール部だった彼は高校時代、剣道大会が開催される日は、決まってドームの近くで、こっそりと自慰行為に耽っていた理由は言うまでもない。竹刀を手に戦う結衣先輩の姿を思い描いていたからだ。
誰にも言えない秘密を抱えながら、直明は今日もごく普通の高校教師として、生徒たちに数学を教えている。しかし、授業の合間、ふとした瞬間に彼のスマホの画面には、工具や竹刀の画像が表示される。それは、直明にとって、彼だけの特別な世界への入り口だった。