小5の冬休み、まだオナニーという
行為を知らなかった。
漫画(“るろ剣”だったかな)を借りようと入った祖父母宅の従姉妹(中1)の部屋で、エロ漫画を見つけた。
ティーンズ向けの、ソフトなボーイズラブもの?
一見少女漫画風の絵柄だけれど、性描写が満載なやつ。少年同士がキスしたり、チンを見せ合ったり、触り合ったりしていた。
男同士でなにやらかにやら…な内容は、よく意味が分からなかったけれど、“これはエロいヤツだ”とは、本能で感じ取ったらしい。
なんとなく悶々としながら読み耽っていた。絵柄が可愛らしかったためか、“男同士でこんなこと…気持ち悪い!”とは、不思議と思わなかった。
そんな最中に、従姉妹が部活から帰宅。
恥ずかしがられ、怒られた(自分も恥ずかしかったけど)けれど、『居間に持ち出さないでここで読むならいいよ』と言われた。
俺は従姉妹の布団に寝そべりながら、エロ漫画の続きを読み始めた。
従姉妹は、隣で『テニスの王子様』を読み始めたと思う。
しばらくして、従姉妹が声かけてきた。
『ねえ、勃ってる?』
オナニーは知らずとも“勃つ”の知識も自覚もある。恥ずかしいけれど
「うん、勃ってるよ」と答える。
『アレ、やりたくなった?』
「アレって?」
『アレだよぉ。お・な・に・い。知ってるでしょ?男の子はみんなやってるんでしょ?』
本気で分からなかった。素直にそう告げる。
『おちんちんをいじると、気持ちよくなってセーシが出るんだって。』
「そうなの?」
『うん、そうそう。やってみてよ。』
「そうかあ。まあ、いいけど。」
ズボンの上から触ってみる。確かに、なんか変な感じがする。“気持ちよい”という言葉と結び付く感覚ではなかったけれど。
『パンツ脱いで直接触って、動かすんだよ』と、手を筒状に丸め、上下動のジェスチャーをしてくる。さらに、エロ漫画をめくり、少年がオナニーしてる場面のページを開いて見せてくる。
真似してみた。
さっきの“変な感じ”が、より鮮明になった。
『ねえ、気持ちいい?』と聞いてくる。
「ん…。分かんない。」と答えつつ、手の動きは止めない。いや、止められなかった!
“なんか変な感じ”が、やめられない。
『ふぅん、つまんないの…。』
従姉妹は再び自分の漫画に目を戻した。
俺は、手の動きを続けた。“なんか変な感じ”をやめたくない。その、今まで未知だった感覚に、我知らず夢中になっていたのかもしれない。
それは、突然やってきた。
「????」
チンの根元、玉袋の付け根、性器と尻穴の間あたりから、電流が走ったかのように、“なんか変な感じ”の何十倍もの“変な感じ”が、ヘソから背中を駆け上がった。
「あぁ?あああああぁぁ。」
叫びに近い呻き声を発していたと思う。
膝を震わせ、背中を震わせ、うずくまってしまった。生まれて初めての“絶頂”だった。
何秒そうしていたか…?
気がつくと、従姉妹が驚いたような、心配げなような顔でこちらを見ている。
『大丈夫?』尋ねてくる。
すぐには言葉が出ない。息もぜえぜえいっている。でも……、ふと気がついた。これが“気持ちいい”ってことなのだろうと。
「……なんか、急に身体の力が抜けちゃった。すっげぇ気持ちよかった。」と告白。
『うそ、シャセーしたの?セーシ見せてよ。』と言って、俺の股間を覗き込む。
『あれ?ないじゃん。つまんないの。』
「……?……」
初めての絶頂の余韻でうつろだった俺には従姉妹の落胆の意味は分からなかったけれど、たしかにあれが、俺の初めてのオナニーだった。
射精しなかった俺(男のカラダの神秘)への興味が失せた従姉妹は、再び漫画に戻っていった。漫画のことを誰かにバラしたら、あんたが私の部屋でエロいことしてたこともバラすかんね、と釘を刺された。
従姉妹とは今でも親戚づきあいとしてたま~に顔を合わせるが、“エロい系のこと”は、その後はなかった。
俺が“オナニー”や“射精”の意味を知らないはずがない年齢に差し掛かった頃、それを教えた従姉妹は、どんな気持ちで俺と接していたのだろうか。いつか聞いてみたいと思いつつ、その機会はまだ得られていない。