その日は霧が濃い日で、特に露天風呂は湯気のおかげでさらに視界が悪かった。しかし、だからこそあれが見られた。
この鎮守の森は狗道家と縁が深い旧家・西嶋家が管理する社で正直、社というより両家専用の温泉である。
俺は脱衣所に向かい、身に着けているものを全て脱いだ。そして露天風呂に入ろうとしたその時だった。
ぴちゃぴちゃ、ぴちゃぴちゃ、
露天風呂は濃霧と湯気のおかげで何も見えなかった。その代わりに水が跳ねるような、いや何かをかき混ぜるような聞こえてきた。
幼い頃からこの露天風呂には何度も来ているが、この水音は聞き覚えのないものだ。
では誰かが先にいるのか? その人物がこの音を出しているのか?
俺は裸で霧と湯気が立ち込める露天風呂に足を踏み入れた。
そして俺は霧と湯気の奥をよく観察した。すると誰かの人影が見えた。ぼんやりとしているが、輪郭で性別までわかった。
女だ。裸の女が温泉の縁にある大岩に腰を掛けているのだ。その姿を確認すると俺はドキッとした。
男の俺が入ったことをバレちゃいけない!本能的にそう思った。
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