束の間のいい気分に浸った後、僕はワクワクする気持ちとちょっとした不安な気持ちがやってきた。
このヌードの女性が本当に西嶋なのか、なら誰が描いたのか、西嶋の裸体を眼に収めるという僕の前では一度もなかった幸福を誰が味わったのか。
「ところでさ、この絵の女性ってもしかして、西嶋?」
僕は意を決してストレートな質問をした。
「えっ・・・?う、うん・・・」
やっぱりか。覚悟はしていたが、腹の中に鈍い痛みが伴い、心の中にも少し嫌なものを感じる・・・
「マジか・・・えーと、どんな人が描いたのかな?」
当然だが、僕は西嶋に気まずそうに聞いた。
「あ、あーそれは・・・」
僕の質問にさらに恥ずかしそうになる西嶋。顔も赤く染まり、複雑な気分だが、それはそれで可愛い。
「私が答えるよ。描いたのはかほのいとこよ」
高橋が話に割って入り、作者を明かした。西嶋のいとこ?そんなの初耳だ。
「西嶋のいとこ?どんな人?」
男なのか、女なのか。西嶋の裸体と見た性別の期待と不安がごちゃまぜになる。
「かほよりちょっと年下の男の子。だから従弟よ」
男・・・高橋ははっきりと断言し、右手の人差し指で「従弟」の字を虚空に描いた。
西嶋よりちょっと年下と言うからには高校生くらいだろうか。従弟というからには僕よりも長く西嶋と交流していたのか。
「はあ・・・そっちの従弟ね。年齢的にプロの画家志望?」
「いや、そっちの道に進む気はないけど、それなりに画は上手いのよ」
裸の西嶋がモデルとはいえ、プロになる気もないのに絵画の素人の僕でも心をドキッとさせるほどの上手さ。ずいぶんと贅沢な奴だ。
「なら、かほのヌードを出展した理由が気になるわよね?そりゃあ、もちろん賞金が目当てよ」
先にも述べたが、このコンテストで優勝すれば賞金がもらえる。その額は100万円。普通に仕事をしてそれほどの額を一度に得るには時間がかかる。
「でも私欲のための賞金じゃないわよ?ほら、かほのご両親って神社持ってて、かほも巫女をやってるじゃない?」
そういえば聞いたことがある。西嶋はある地域の有名な神社の娘で期間限定で巫女も務めていると。しかし、西嶋はそれなりに裕福だったはずだ。
「単刀直入に言うと西嶋家が所有する田舎の神社が天災にあって、その修繕費用が1番の理由よ」
なるほど、そういうことか。でもそれなら、
「あっ、それならご両親が何とかしてくれるとか思った?かほもいい歳だから自分で何とかしたいって思ったのよ」
すべては西嶋の自立心から、というわけか。
「で、かほと従弟君が人肌脱いだってわけ。まあ、かほの場合は全部脱いだんだけどねー」
冗談交じりに西嶋のヌードデッサンの経緯を話す高橋。最後の言葉は余計すぎる上に僕も西嶋も恥ずかしさのあまり赤くなった。
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