1ヶ月程後、ラントは外周の大国との折衝に疲れてしまった。
その日、外国の使節との接見の後、国内の孤児院の子供達の訪問を受けた。
これも優しい王様と言う国民の期待に添うための仕事だ。
孤児達は皆、粗末だが清潔な制服を着て、緊張感して立っている。
外国使節達の慇懃無礼な態度を見た後で、ラントは救われる思いだった。
孤児の中で一人、12才の少女が宮殿の台所で下働きに採用されるとの報告を受け、その少女を謁見した。
痩せて背も低く、近眼の眼鏡を掛け、色は白いが茶色いソバカスが顔に一杯広がっている。
美人タイプではないが、ラントは何故かその少女に興味を抱いた。
謁見が終わって、少女が下がった後に気がついた。
あの、殉教画の少女に感じが似てるようだ。
その感情は、優しい王様の臣下への思いやりとは違い、本来なら持ってはいけない感情だと自分で分かっていた。
あのようなか弱い、いたいけな少女を毒牙にかけて弄び、不幸にしたい。
惨めな裸で、泣いて赦しを乞う姿を見たい。
家臣達に気付かれないように、表情を変えないままだが、ラントは心の中で、そう考えていた。
その日、ラントは夜遅くまで仕事をし、深夜になって、近臣も遠ざけ一人で自室のテラスで酒を飲んでいた。
疲れた..。
善き王の人生とは、なんと辛いものなのだろうか。
これで、高貴な家柄の女性を后妃に等迎えたら、この夜の孤独な一時さえ無くなってしまうだろう。
后妃となる女性は、きっと自分の家柄を誇って、私を蔑ろにすることだろう。
ああ、もし私が庶民なら、昼間見た貧しい少女を買い取って、密かに自分の好きなように弄び、飼ってやることも出来るだろうに..。
その時、ラントは女の子の泣き声を聞いたような気がした。
明らかに、成人した女の泣き声ではない。
かと言って、幼児のような大声を出して泣きわめく泣き方でもなかった。
それにしても、何処から..?
テラスから周囲を見回すと、下の石畳に白いものを見つけた。
目を凝らすと、それは裸体の少女が踞っている姿だと分かった。
確かにその少女がすすり泣いている。
ラントはテラス脇の外階段を降りて、少女の前に立った。
下半身に質素なドロワーズを一枚穿いているが、上半身は裸体で、履き物も履いていない。
「そなたは、何者か?」
少女は、前に立った人物を仰ぎ見たが、それが国王だと分かると、頭を石畳に擦り付けた。
そしてすすり泣きながら、
「王様。どうかお慈悲を..」
と訴えたのだ。
「顔を上げよ。そなたは、何者なのだ?」
ラントが重ねて命じると、その少女は顔を上げた。
昼間の少女だ..。
この子は、台所の下働きとなった筈..。
何故、こんな時間に、裸でこんな所に?
ラントがさらに聞こうとした前に、少女が言った。
「私は覚悟をいたしました。
大人しく処刑されます。
絶対逃げたり抵抗とかしません。
だから、だから、お願いです。
孤児院の先生に、最後の手紙を書かせてください!」
処刑?こんな少女を?
全く聞いてないが..?
しかし、少女の声も表情もいたずらとは思えない。
そもそもいたずらで、こんな寒い時間に冷たく硬い石畳に、こんないたいけな少女が膝まづくだろうか?
ラントは、宿直の近臣を呼ぶべきか悩んだ。
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