カナは、これまでの羞恥と屈辱で、倒れそうだったのを、母を思って必死にたえてきた。
しかし、これからいよいよ、この前に立つ男から、女にされるんだ。
無意識にカナの顔はひきつり、蒼白となっていた。
「男とした経験がないのは、本当のようだな。」
カナは、ごくりと唾を飲んだ。
「よし、お前を私の部下として採用する。」
男はそう言うと、カナの身体検査をした女に、これからのカナの教育を申し付け、それから仕掛けていた書類の作成を始めた。
「あの..、」
カナは、いよいよ女にされるもの、と思っていたのに、首領が自分に目もくれなくなったことが、かえって不安だった。
早速教育係の女から、叱咤が飛んだ。
「密偵に質問は許されない!」
カナは思わず、
「はい!」
と気を付けして答えた。
するとまた、
「密偵が軍人の真似をしたら、身分がばれる!」
と叱られた。
やっと首領が顔を上げてくれた。
「お前は処女だ。
それを活かした、大きな仕事を計画している。」
「一つだけ、質問してよろしいですか?」
「言ってみろ。」
「母は..、母を助けることが、出来ますか?」
首領は母を思うばかりに、今まだ全裸でいることすら忘れているカナに、こう言った。
「全ては答えられない。
しかし、我が国の方針、我が軍の作戦に重大な利益をもたらしつつ、かつ、お前の母を助けるべく、計画を立てている。」
不安そうなカナに、首領は言葉を続けてくれた。
「お前が訓練を受ける時間は少ない。
それに、お前は母を助けたいと言う動機でしか、行動しないだろう。
だから、お前がすること、払う犠牲は、全てお前の母を救うためだと思うことだ。」
そして最後にカナに新しい名前を与えた。
「沢田カナ、はもう敵の組織に名前が知られている。
これからは、田中春、と呼ぶ。」
こうして、14歳の軍事密偵、田中春が誕生したが、その命は短かった。
※元投稿はこちら >>