春の母は、隣の人から娘が人身御供になると聞いて、顔を真っ青にした。
母は、人身御供の女の子が、どのような最期を遂げるのかの秘密を知っていたのだ。
妹は、庄屋さんの家から帰ってきた姉に抱きついて泣き出した。
春は母から辞めるように説得されたが、
「皆から犯されても、最期に神様が受け入れてくれるのなら、私はそれで良いと思う。」
と言うと、わずかな着物や見回りの品を整理した。
翌日、さっそくお城から使いが来て、春を連れていった。
町人や百姓、下級の武士が見守る中を、警護の武士に先導されて3里の道を歩いた。
やがて城下の、格式の高い神社の境内に着いた。
位の高い武家、神主、寺の坊主、大庄屋等が品定めするように春を見守る。
その内の何人は、やがて春の幼い身体を犯すこにとなる筈だった。
庭に敷いたムシロに座った春を取り囲み、この少女が人身御供に相応しいかが討議される。
春への質問は、名前や生まれた年から、宗派やどこの寺の檀家か、等ごく一般的なことから、次第に、
月のものはあるか?
男女のまぐわいとは如何なるものか知っているか?
男を知っているか?
と露骨な内容となった。
春は恥ずかしくて答え難かった。
その時、この集まりにただ一人参加していた女性である尼寺の住職が、口を開いた。
「これまで神様は、若い人妻でも受け入れてくださっています。
神様は、清い心が欲しいのであって、身体はたとえ男を知っていても構わないとの仰せではないかと存じます。
このような女童に、そのような質問をされることは、神様はお喜びにはなりますまい。」
この一言で、春へのいやらしい質問は終わった。
もともと人身御供になるのは、春しかいないのだ。
春を人身御供とすることに問題点無し、と結論が出た。
春はその日から五日後に、神様がいらっしゃる谷川の淵に落とされることとなった。
春自身は、もしお前は駄目だ、と言われたらどうしよう..、と不安に思っていたから、自分が人身御供に決まったことに安堵した。
その日から、春は尼寺で過ごすことになった。
さっき集まりで春を助けた住職は、自ら春を風呂に入れ身体を洗ってあげた。
見ればまだ幼いのに..、と不憫に思った。
翌日、殿様にお目通りした春は、
「何でも欲しい物、やりたい事を言ってみよ」
と言われて、
「出来たら、おむすびとお酒を持って、今作っている用水路の工事をしている人に会いたい。」
と答えた。
「健気であっぱれな申し出である。
許す。」
殿様のお言葉で、春は尼寺の住職と共に、水路の工事している人夫達に会いに行った。
そこには、汗と垢にまみれ、真っ黒い身体に目だけギョロギョロさせた20人の男達がいた。
「もう一年以上、家に帰ってない。おっ母に会いたい。」
と不平を言う年配の男。
「女郎でも良い。女とまぐわいたい!」
と尼さんの前であるのに、露骨に性欲を訴える若者。
春は、そんな男達の茶碗にお酒を注いでいった。
一番若い男が、春に、
「あんたみたいな良い女を、嫁にしてまぐわいたいものだ。」
と言った。
尼さんが、遮ろうとしたが、春は真面目な顔で聞いていた。
尼さんが、春を一度皆から離れた所に連れていった時、春は尼さんに聞いた。
「男と女のまぐわいは、罪になりますか?」
尼さんは、
「春さんはまだ子供だから、そんな話をするものではありません」
とはぐらかそうとしたが、春は真面目な顔でまた聞いた。
「あの男の人達、みな女の人とまぐわいたがってます。
私のこの身を、あの人達に捧げて楽しんでもらうのは、罪になるでしょうか?」
色んな仏教の説はあるが、自分の身を飢えた虎に食べさせて功徳を積んだと言う話も確かにある。
色に目が眩んで、肉体の快楽に浸かることは、罪かもしれないが、この女童が清い身体を色に飢えている男達に与えることは、自らの快楽とは縁があるまい。
死を前にして、功徳を積むことになりはしまいか?
大勢の男から犯されて、身が汚れたら、神様が嫌うのでは?
いや、神様は身体が清いことより、心が清いことを欲しておられる、と集まりで言ったのは私自身。
しかし、いくら功徳の為とは言え、この幼い女童が20人の男に犯されるというのは、あまりにも..。
「尼様、もし何かの功徳になるのなら、私はこの人達の前に身体を投げ出します。」
尼は、自分が即答しなかったのが、春に決心をさせてしまったことを悟った。
止める間もなく、春はもう着物を脱ぎ捨て、腰巻き一つの姿で、真っ黒な男達の中に入っていった。
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