ハルは身体の傷痕全てを検査された。
それは胸やお尻など表面的な部分のみでなく、膣や肛門の内部までに及んでいた。
普通の女性なら、純粋に医療目的だとしても羞恥でとても耐えきれないような検査もあった。
初めは興味本意で立ち会った裁判関係者も、その痛々しさに、徐々に後ろへと退いていった。
しかし検査を受けているハル自身は、毅然とした表情を崩さなかった。
医師からの報告で、ハルの身体に残る痕跡は、ハル自身の証言、軍曹が供述した目撃内容と完全に一致した。
しかし貴族側は、ハルと軍曹が言うところの、「拷問をした尋問担当の士官」の存在自体が疑わしい、反論し裁判は長引く可能性が高まった。
14歳の少女が、収容施設で監視役をしていた軍曹の無罪を証明するために法廷で裸体になった、とのニュースはあっと言う間にビオン全体に広がった。
ビオンシティの執政官府では、主席秘書と官房長が会話していた。
「主席秘書殿、執政官殿に仕事をするように言っていただけませんか。
決済事務が溜っております。」
「嫌ですよ!
今、リオ殿にそんなこと言ったら、どんなことになるか..」
「何時もなら、ハルが言ってくれてたのに..」
「そのハルが裸を晒したって記事を読んだ時は、リオ殿は拳銃を抜きかけてましたからな..」
「なんだ。私は本当に一連射したって聞いてましたが..」
「可愛い愛娘が衆人環視の中で裸に..、と言う心境でしょうか?」
「いえ、新妻..かもしれません。」
長引くかと思われた裁判は、急展開した。
あの尋問士官が法廷に現れた。
逮捕されてではなく、ハルの記事を読み、翌日自ら出頭したのだ。
「ハルに拷問を加えたのは私に間違いない。
軍曹がハルの手足を拘束したのは、私の明確な命令による。」
何故、今になって?
自分も逮捕訴追されるのに?
「私がハルを好きだからだ。
ハルが自ら恥ずかしい目をみたのを知ったからだ。
施設でハルを拷問した理由も同じだ。
普通の人に理解されないのは、分かっている。」
直ちに法廷で事実に関する尋問があり、供述が証拠とされた。
事実関係において、軍曹の無罪が確定した。
逮捕され連行される士官に、ハルは僅かな時間だが面会できた。
「ハル、今もお前が好きだ。
私に愛されたのが不幸だったな。
今のお前はとてもきれいだ。
それでは罪を償ってくる。」
それだけ言うと、士官は連行されていった。
ビオンシティに戻り、執政官室でリオに報告しようとしたハルは、途中で言葉が止まった。
「士官が出頭した理由は、私を愛して..」
何故私を愛したの?
愛してくれるのは、ご主人様だけで良いのに..。
憎くかったり、面白くて拷問してくれてたら、こんなに私は苦しくなかったのに..。
もう一度初めから言い直そうとしたが、同じところで言葉が止まった。
久しぶりに、ハルの目から涙が溢れた。
主席秘書官はその場にいた全員に、室外に出るよう合図した。
執政官殿は仕事用の椅子の上で、子供のように泣くハルを膝に抱き、あやしてあげた。
「主席秘書官殿。やっとハルが戻った。
執政官殿はこれから仕事をしてくれますな。
おや、休暇願?
スタッフの誰かが、午後から休暇でも?」
「官房長殿。残念ですが、執政官殿と秘書官補佐は午後からお休みです。」
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