リオとハルがビオンシティに戻ってから一年。政権は民衆派が握り、良識派の貴族達もテラ連合の指導を受け入れてきた。
しかし、まだ根強く自分達だけのエリート主義を持ち続ける貴族もいた。
ハルが収容されて拷問を受けていたあの収容施設の関係の裁判で、貴族側弁護団は
「確かに拷問、虐待はあった。
しかし、それを行ったのは、無知で道徳観の無い下士官以下の者達で、貴族からなる士官クラスは、むしろそれを止めさせようとしていた。」
と罪を当時の部下に押し付ける主張を展開した。
民衆派は当時収容されていた囚人の証人を探したが、まだ貴族達の力が侮れない状況では、名乗り出る者はいなかった。
お茶汲み係のハルでも、暇な時は湯沸し室で新聞くらい読む。
しかし読む内容の殆どは、
あっ!このおかず、ご主人様が喜びそうだ!
メモしといて明日作ろう!
的なことが主だった。
火曜日の午後、ハルは新聞に目を通していたが、いきなりその新聞を握りしめて執政官室に飛び込んだ。
「ご主人様、ご主人様!
私に、私に、お休みをください!」
緊急事態は別として、昼間のハルがこんなに慌てることは珍しい。
しかも、リオのところに来てこれまで、一度も休んだこともない。
新聞には、あの収容施設でハルに親切にしてくれた下士官、名前はボモ軍曹、が虐待拷問の実行犯として裁判にかけられることを告げていた。
「よし、直ぐ行け!
公務だ。政府便の航空機を使え!」
リオも、裁判が事実認定を誤ると、貴族対民衆の感情的対立が再び激化すると危惧した。
貴族側は、元囚人が名乗り出る筈はない、と踏んでいた。
当時の囚人で、現在証人となる可能性があるのはハルだけ。
しかし、執政官の被保護者となっている現在、「私は過去に、性的な内容を含む拷問虐待を受けました」
とは言えないだろうと考えたのだ。
たとえハルが出廷しても、多くの傍聴人の前で、自分が受けた拷問の具体的内容まで証言は出来まい。
それを保護者の執政官殿もお許しにはなるまい。
そうように舐めてかかっていた。
しかしハルは裁判で証言した。
自分のされた鞭打ち、焼きごて、水責め、局所への針責め、そして催淫剤を投与されての性的な拷問、最後の右乳首を千切られたこと。
それを実行したのは尋問係の士官であり、ボモ軍曹はそんな私を、そっと助けてくれたと証言した。
ハルの証言とボモ軍曹の取り調べ調書は、内容が殆ど一致していた。
しかし貴族側は
「口で言っただけで、嘘ではない証拠がない。」
と反論した。
ハルは民衆派の弁護士との相談を希望し、裁判官はそれを認めた。
傍聴人は、落ち着いた口調のハルに対して、弁護士の方が驚き慌てて、思い止めようと説得しているかに見えた。
20分の後、再開された裁判で、民衆派主席弁護士は裁判官に対し、物的証拠を提示したい旨を申し立てた。
「裁判官、ここに居ますハル=サカモト嬢の、専門医師による身体検査を要求します。
身体に残る傷の痕跡から、ハル嬢とボモ軍曹の証言の正否が判明します。」
「異義あり!専門医師が公平な立場で判明するか疑問があります!」
再びハルが主席弁護士に何が言った。
「ハル嬢は..、今日この公判の場で、検査を受けて良いと..、申しています。」
傍聴席がざわめいた。
ハルが執政官の被保護者であることは、知れ渡っている。
たとえチルであっても、14才の娘が公の場で肌を晒して検査を受けると言うのだ。
裁判官が直接ハルに質問した。
「検査を受けるために、衣服を脱ぐ必要があれば、それを許諾しますか?」
「します!」
「本職以下、裁判進行にかかる人に、もし必要だと判明されたら、傍聴席の人からも見られることになりますが?」
「覚悟しています。」
ビオンの裁判は、テランと違って直接的な証拠と短い日時での進行を特徴とする。
裁判官の権限で、ハルの身体検査が認められた。
裁判所の女性書記官がハルの介添えになり、双方から1名づつ医師が指名された。
ハルは脱ぐ時は臨時に立てられた衝立の中で脱いだが、裁判官の「よろしいですか?」と言う声を聞くと、自分で歩いて衝立から出た。
胸も下も隠さず、裁判官の前に立った。
醜く千切られた右乳首をはじめ、全身にまだ痛々しい傷痕が残っている。
それにも関わらず、その姿を見た人は皆、美しい!と思った。
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