朝一番にハルの部屋を訪れた看護師は、部屋を間違えたかと思った。
キラキラした目。バラ色の頬。
「おはようございます。」
明るい朗らかな声。
そもそもこの部屋の少女は、こんなにきれいな子だったか?
医師も僅か一晩でのハルの劇的な身体的精神的な回復に驚いた。
執政官のスタッフも驚いた。
今日の執政官殿の機嫌の良いこと!
バリバリと嫌いな筈の書類仕事をこなしているが、なぜ目の下に隈を作ってあくびばかりしてる?
「リオ殿は、昨夜抜いたのか?
誰か女が呼ばれたか?」
「いやいや、我らがリオ殿はロリコンだから。
まだ女の子は夜に出歩けないだろう。」
僅か1ヶ月後、ハルは退院して懐かしいあの家に戻った。
「お布団を暖めてておきましょうか?」
「ああ、その前にお風呂も頼もうかな。」
色々と言葉を選ぶ必要もなかった。
ハルは傷だらけの身体を隠さず、リオは目を逸らさなかった。
ハルの白い透明感のある肌に、所々赤く黒く癒えない傷痕が見えるが、リオにとってはハルが自分に献身してくれた証に思えた。
リオはシーツの上に仰向けにハルを横たえ、右乳首の跡に頬を乗せ、左の乳房や乳首を弄んだ。
左の胸も刺し傷、鞭の痕、火傷の痕がいっぱいだが、リオの愛撫にハルが反応してくれるのに、何の問題も無かった。
乳首をそっと摘まむと、ハルの甘いため息が聞こえた。
「大丈夫?痛くない?」
あれだけの拷問を受けたのを知っていながら、リオは聞かないではおれなかった。
それほどハルの反応は初々しく、顔は羞恥に満ちていた。
ハルは「いいえ」と言うように、目を閉じたままの顔を僅かに左右に振った。
リオの手のひらが、ハルの左乳房全体を包み込む。
硬く尖った乳首をリオはそっと吸った。
片手がハルの股間に伸びる。
ご主人様の指って、なんて素敵なんだろう。
私、淫らになってしまう...。
私が、チルだから?
いいえ、私がご主人様のこと大好きで、ご主人様も私を大切に思って下さってるから。
リオの指がハルのクリトリスをそっと触った。
あっ、ご主人様、大丈夫ですよ..。
今、私がピクッて動いたのは、痛いからじゃないの。
私の身体が、「幸せだ」って言ってるんです。
音がしちゃってますね。
ピチャッピチャッって。
いやらしいですか?
でも、ハルにも止められないんです。
ごめんなさい..。
あっ、とても..硬い..。
どうぞ、ご主人様。
私の中へ.._。
ハルの精神は空中に浮いていた。
空中から、下のベッドでリオに可愛がってもらってる現実のハルを見下ろしている。
私って、あんなに可愛かったんだ..。
ご主人様に釣り合わない、ってずっと思ってたのに..。
いえ、ご主人様のおかげで可愛くなったんだよね。
ご主人様、私のご主人様...。
その夜、ハルはリオの足を胸に抱いてではなく、リオの胸に抱かれて眠った。
半年後、リオは未だビオンの執政官の職を離れられない。
ハルは昼間は公務員。肩書きは執政府総務課内執政官秘書補佐。
表向きの仕事内容は、コピー、あまり重要でない書類の送達、来客へのお茶出し、執政官室の片付け掃除。
特に重要な仕事として、お昼時に家から持ってきたお弁当を執政官殿の前に広げてあげ、お茶を入れてあげ、一緒に食べること。
しかしハルがいつも着ている灰色のスカートの下には、大型もモーゼル拳銃が吊られていた。
抜く時は、膝丈のスカートを腰まで捲らねばならない。
当然穿いてる白いパンツも見えてしまうのだが、それが刺客の目を一瞬逸らせ、リオを守ったことも数度あった。
もっとも、他の警護員の視線も逸れてしまう欠点もあったが。
ハルの本当の役目は、リオの身辺警護なのだ。
それは家との往き来、家での私生活にも及んでいる。
二人の住む家は、今では複数の警護員に守られているが、それでも油断は出来なかった。
数人で襲ってくるテロリストは、警護員が対応し撃退出来る。
しかし関係者を装って昼間に単独侵入し、倉庫の中に隠れて夜を待ち、警護員の警戒が建物外周に移って、家の中にはリオとハル二人しか居なくなった時間に襲ってきた者がいた。
実際、襲われる数分前まで二人は甘い時を過ごしていたのだ。
終わった後、リオはベッドでハルから身体を熱いタオルで拭いてもらっていた。
ところがいきなり、ハルがパンツ一枚で立ち上がると、自分の枕の下から拳銃を取り出した。
「ご主人様、侵入者です!ベッドの後に!」
そう言うと、ガウンも羽織らずに寝室から廊下に飛び出した。
リオも、あわててガウンを着て、自分の拳銃をデスクから取り出し、ハルの後を追おうとしたが、寝室のドアは内側から開かなかった。
パンツ一枚で廊下に出たハルは、素早く近くの長テーブルを寝室入り口にずらして置くと、その陰に隠れた。
廊下の端の階段の方から、何者かが足音を潜ませ上がってくる気配がする。
警護員や味方の人なら、自分の醜い裸体を晒して恥をかくだけで済む。
でも、ご主人様の命を狙う敵なら、ガウンを着る数秒で形勢が不利になる!
ハルが闇を透かして見ると、人の形が一つ現れた。
ハルが拳銃の狙いをつける前に、敵が先に発砲した。
正確な狙いだ。
ハルの隠れた木製テーブルは、一発で割れて弾け飛び、ハルの身を隠せなくなった。
ハルは床に伏せた。
まずい!こちらからは暗い服を着てる相手が見えにくいが、相手からは私の肌が目立って見えてる。
ハルは、相手のおおよその位置に向け拳銃を連射した。
相手も撃ち返してくるが、姿勢を低くしたようだ。
銃声もしたし、寝室でご主人様が警護隊に連絡してくれてる筈。
あと数分、私がここで食い止める!
数回の撃ち合いの後、ハルの拳銃の弾が切れた。
相手には時間が無い。
撃ちながら突っ込んできた。
走りながらなので、床に伏せたハルには当たらない。
相手との距離が4メートルになった時、ハルは起き上がった。
弾がハルの顔と胸を掠める。
そのまま相手の身体に、正面から抱きついた。
ご主人様の部屋には行かせない!
暗闇の中、真っ白な裸のハルと、暗い色の服を着た侵入者が絡み合った。
そのほんの僅かな時間で、侵入者は自分が相手をしてるのが、裸の少女だと気がついたようだ。
侵入者は、最後に一発だけ弾が残った拳銃を、ハルの裸の胸に突きつけた。
そのまま二人の動きが止まった。
警護隊が階下に到着し、廊下に明かりが付いた。
侵入者はついに、少女を、ハルを撃てなかった。
侵入者は拳銃を捨てた。
警護隊員が上がってきた。
銃を所持した侵入者が、執政官の家族に発砲したのだ。
その現場に到着した若い隊員は、興奮した状態で侵入者に向け拳銃を構えた。
「私は撃たれてない!この人、もう銃を持ってない!乱暴しないで!」
ハルは叫んだ。
興奮していた隊員たちはその声が、パンツ一枚の少女の声だと知ると、攻撃的な興奮からは急速に覚めていった。
ハルも拳銃を捨て、両手で胸を隠した。
その時になって、隊員が寝室の前を塞いだテーブルの残りを片付けたので、やっとリオが出て来れた。
素早く裸のハルにガウンを掛けてやる。
逮捕された侵入者は、一度だけ気を付けの姿勢となり、ハルの方を向くと
「お嬢さん、勇敢な方だ!敗れて悔いは無い。」
と言った後、連行されていった。
家の中の安全点検が全て終わり、再び家の中で二人だけになった時、数年前と同じ、リオがハルを怒る声が聞こえた。
違ったのはリオが怒った後に、二人共抱き合って、二人共泣いてしまったことだった。
「ばか!ハル、あんなに言っただろう。あんな危ないことするな!絶対、死ぬな!」
「ご主人様、私の大切なご主人様!死なせません。私が死んでも、絶対死なせません!」
執政官室の近くの湯沸し室、ここが昼間のハルの定位置である。
ハルだけでなく、執政府総務課の職員は誰でも利用する。
大騒動の翌日、湯沸し室に入った職員は、片隅の折り畳み椅子にちょこんと座り、何かを思い出して、目を怒らせたかと思うと、涙を流し、薄笑いしたら、今度はふわーっとした恍惚の表情を浮かべる不思議なハルの百面相を目撃した。
ハルが買われた時に立ち会った通訳は、今では執政府の正式職員だが、ハルの百面相をたまたま見て、
「あの子が、感情がない欠陥品だったなんて..」
とため息をついた。
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