夜の10時頃リオがハルに「先に休むように」、と言ったら、「ベッドを温めておきましょうか?」と言われたので、「頼む。」と答えた。
その2時間後にリオが寝室に入ると、パンツ一枚でベッドを温かいているハルがいた。
リオが寝室に入って来たのを見ると、直ぐにベッドから出て脇に膝まづき、「お布団、お温めしておきました。お夜伽の御用は如何いたしますか?」と無表情で事務的に言った。
ベッドを温めるって、こう言う事か!
いやいや、夜伽ってお前はまだ女になってないだろ!
確かに俺は熟女よりロリコン気味だけど..。
リオは心の中で一人で突っ込んでいた。
そうでもしないと、この新しい家族に人間としてしてはいけない虐待を絶好にしない、と確信できなくなっていた。
「夜伽とか必要ない。自分の部屋で休みなさい。」
リオがそう言うと、ハルは「分かりました。ご主人様、おやすみなさいませ。」と言って素直に寝室から出ていった。
灯りを消しても、しばらくはハルの白い肌や細い華奢な身体が目にちらついて眠れない。
一時間ほどして、一度トイレに立った。
ガウンを着て、階段を下りトイレの方へ曲がろうとした時、廊下の反対方向の食堂の床に何かいるような気がした。
不審者?
用心しながらそっと近づくと、それが床から立ち上がった。
「ご主人様、ご用でございましょうか?」
ハルか!何故ここに?
そうか、俺はハルの部屋のことも、布団のことも全く指示してなかった!
ハルはパンツだけの姿で、梱包用に使われていた布を被って床に寝ていた。
しかもその表情や口調は、リオが近づいて初めて目を覚ましたのではなく、すでに目を覚ましていたようだった。
これは、いや、この子は犬なのか?
既にトレーナーから仕付けられた子犬が、新しい主人の家に買われて来たみたいじゃないか!
とりあえず、今夜はどうしよう?
「俺のベッドに寝なさい。」
そう言うしかなかった。
「お夜伽でしょうか?それであれば、用意をいたします。」
違う!ここは寒いだろう。だから、俺のベッドで寝なさい。」
ハルは初めてご主人様に逆らった。
「そんなもったいないことは出来ません。ご身分が違います。」
どう説明、いや、命令でも良い、すれば良いんだ?
「俺はね、君が寒かったりお腹が空いたりするのが嫌なんだ!君のこと、大切にしたいんだ!」
しかしハルの反応は薄く見えた。
「ありがとうございます。
でも、私はそんな価値はございません。」
ああ、もう!とにかく寒いからベッドへ..。
「わかった。布団も温めてくれてありがとう。
しかし、俺は足が冷えやすいんだ。
お前、一緒に布団に入って体温で俺の足を温めてくれるか?」
「はい、仰せ承りました。」
結局ハルは、リオの足元に丸くなって寝ることになった。
「足を温めろ」は口実だったが、ハルは本当にリオの足を両手で自分の胸に抱くようにして温めてくれた。
リオは、困った!と思いながら、いつの間にか心地よく、ぐっすり眠ってしまった。
翌日、昨日の通訳がまた仕事に来てくれた。
リオが昨日の事を話して、まいったよ!と言うと、ちょっと考える風をしてから、話し始めた。
昨夜飲み屋であの奴隷商人にまた会ったが、逃げようとしたから捕まえて白状させた。
あの奴隷は欠陥品だったのを、事情を知らない異星人の中尉に売り付けたそうだ。
チルは人工生殖で生まれるが、元々快楽用の奴隷だから、基本的に主人に媚びるような性格に調整されている筈なのに、ハルは感情が欠落している。つまり、愛想が無い!
他のスペック、想像力、我慢強さ、勤勉性、記憶力、理論的な思考、等が桁外れに優れていたが、愛想がなければ性的な快楽用として高値では売れなかったのだ。
「どうします。感情がないんじゃ飼っててもつまらんでしょう?売りますか?」
リオはハルの無表情の顔を思い出し、そういうことか!と理解はしたが、引っ掛かるところもあった。
夕食が旨かったと言った時に、ハルの目は嬉しがってなかったか?
俺には、嬉しいのを必死に隠そうとしているように見えたが。
「ハルは売らない。ところで、ハルに教育をさせる方法は無いかな?」
「チルに教育を受けさせる人なんていませんからね。いくら教育しても30くらいで死んでしまうから、知識を蓄積してそれを役立てるまで持たないですよ。」
それからハルは、リオから毎日読み書きを習うことになった。
ハルの知能指数は高かった。前に教えたことを忘れていたことは、殆ど無かった。
これは上手く育てたら、秘書とかに向くのではないか?
目立たない、表情を出さない、なんて秘書として理想的では?
リオは既に親バカになりつつあった。
しかし政治情勢は厳しくなった。
帝国の軍により、テラ連合とビオンとの宇宙航路の連絡線が切られた。
リオは一人でビオンに孤立したテラ側の代表となった。
ある晩、リオはハルがそっと布団の足元から起き上がるのに気がついた。
トイレだろうと気にしなかったが、しばらくして階下で銃声、男の怒鳴る声、食器などが落ちたり割れる音が響き渡った。
リオがガウンを羽織り、拳銃を持って駆けつけると、裸のハルが腕から血を流して立っていた。
食堂の窓が破れ、室内は激しく荒れていた。
床にビオン独特の長刀と、気絶した一人の男が倒れていた。
「私が見たのは3人、この人以外は窓から逃げました。」
ハルの声は震えても昂ってもいなかった。
「こいつは?」
「確保しました。気絶してるだけです。」
「お前、怪我を..」
「申し訳ありません。ご主人様の財産を破損させてしまいました。」
いや、そうじゃなくて!
お前は、怪我なんかして!
この馬鹿者!
ハルはもう一度「申し訳ありません..」と謝ると、ポロッと涙が一粒だけ頬を流れた。
ビオンシティの治安組織が駆けつけ、ハルが確保した男の身柄を引き継いだ。
ハルは右腕に貫通銃創を負っているが、その痛みも全く顔に出さなかった。
チルの回復力は高い。
翌日までは手を首から吊っていたが、その翌日には傷にテープを貼っただけになった。
その姿で、ハルはリオに申し訳なさそうに報告した。
「ご主人様、申し訳ありません。昨日の被害関係です。
窓の破損。修理は治安当局がすでに業者に依頼済み。こちらの支払いはありません。
食器関係。中皿三枚、買い換えねばなりません。
調理器具。フライパン一枚、柄が曲がって..」
「ちょっと待て!お前、あの男をどうやって確保した?」
「これから報告するつもりでした。フライパンで頭を...。」
「銃で撃たれて、よく助かったな。もう危ないことはするなよ!」
「はい、どうやら彼らは、私が裸でいたことに驚いたようで...」
リオは、報告を打ち切らせた。
」
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