玉乗りはまだ良かった。
一輪車も割れ目を擦るが、あまり見られるこたはない。
しかし団長は春に、逆立ちして舞台を歩き回れ、と命じた。
逆立ち歩きの訓練も受けている。
しかし、逆立ちして歩くと、どうしても足を揃えることが出来ない。
女性の先輩達は、レオタードの下に肌色のタイツを穿いているから、わざと足を広げて逆立ちし、男性の観客を喜ばせる。
しかし、今の春は幼い割れ目を剥き出しにするしかなかった。
大陸では事変が起こり、軍隊と共に、一旗上げようと目論む日本人が大勢大陸へと渡って行った。
春のいるサーカスも大陸に渡ったが、上海や天津等の大きな街での興行等出来ず、やもを得ず東北部の奥地の町を巡回するようになった。
春は学校には行かせてもらえなかったが、サーカスの花形で空中ブランコの少女から字を教えてもらった。
春より6歳年上の少女は、春を妹のように可愛がってくれた。
春は少女のことをお姉ちゃんと呼び、自分の夢を話した。
「私、早くお姉ちゃんみたいに大人になりたい。お姉ちゃんと一緒に空中ブランコして、お客さんから拍手してもらうの。」
お姉ちゃんが舞台で着るキラキラ光るスパンコールを着けたレオタードと、その下に穿く黒い網目タイツ姿は春の憧れだった。
しかしお姉ちゃんは悲しそうな顔をして言った。
「大人なんかに、ならない方が良いのよ..」
その言葉の意味はしばらくして分かった。
辺境地方での興行で、地元の顔役と役人に嫌がらせを受けたが、団長は軍隊や財閥など大きな後ろ楯は持っていなかった。
賄賂を送ろうにも金も無い。
それでお姉ちゃんは役人に差し出されたのだった。
もう何度もそんなことは経験してるが、その役人は無慈悲で変態だった。
翌日人力車に乗せられて帰ってきたお姉ちゃんは、おもちゃと言うより拷問道具のような張り形で苛まれ、下半身が血だらけのままだった。
それでも1日休んだだけで、また舞台に上げさせられた。
人家が全くない荒野を何日も歩く辛い旅が続いた。
そして一座はついに、匪族の一群に捕らえられた。
「日本人、通行税を払ってないな。何か差し出す物があるか?」
周りを武装した恐ろしい人相の男達に囲まれ、凶悪そうな首領から聞かれた。
団長は震えながら、いつもの手を使おうとした。
空中ブランコの女の子を一晩首領の夜伽に差し出します、と言ったのだ。
しかし、首領の答えは冷たかった。
「何人もの男から慰み物にされた女など要らぬわ。」
団長は必死に、この娘はまだ18です、生娘とは言いませんが、まだ十分に初々しく..、と説得しようとしたが、首領は部下に略奪を命じかけた。
逆らえば、殺されるだけだ。
その時、団長は急に春のことを思い出した。
まだ12で、初潮も無いし毛も生えていない。
女の中には入らないが、そんな子供が好きな男もいるかもしれない。
直ぐに春が呼ばれた。
シベリアから吹いてくる冷たい風の中で、春は裸にされて匪族の首領の前に引き出された。
「この娘はまだ男を知りません。それに、この娘なら差し上げます。」
団長の勘が当たった。
首領は春を受け取り、一座は無事に解き放たれた。
春は裸のまま、馬車に積んだ秣の中に乗せられて匪族の隠れ家へと連れて行かれた。
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