春は戸口から外に出た。
周りは匪族の荒くれ者が拳銃を構え、ずらりと取り囲んでいる。
その中を、春は真っ裸で前も胸も隠さず、刺青や焼き印をした肌を晒して真っ直ぐに王首領のところに歩いた。
「本当にこれが黄の悪魔か?」
「淫乱の呪いとか聞いたから、色っぽい女だと思っていたのだが..、まだ子供じゃないか。」
「俺の娘より年下のようなんだが..」
手下どもの囁きが聞こえた。
春は馬上の王首領の前に立つと、よく通る声で訴えた。
「王首領、先程の条件、お呑になってくださいますか?」
「お前は?名前から聞こうか?」
「私は黄首領の第一夫人の義理の娘、名は春!生まれは日本。歳は13です!」
「日本人か。中国の拷問は日本の腹切りより辛いぞ。」
「はい、存じております。それを承知の上で義に厚い王首領におすがりします。
どうか私の命で旦那様と奥様の命だけは!」
もう周囲には野次馬の村民なども集まっている。
こいつ、自分の命を対価に、周りの野次馬を証人にして、俺から言質を取るつもりか..。
憎いやつではあるが、小娘なのに健気と言えば健気なやつ。
お前だけ許そうと言っても、小娘本人も周りの野次馬も納得しまい!
「春とやら、分かった。しかし、俺も悪人黄を退治するという責任を負わされている。
そこでだ!黄を追うのは、お前が自分で言った方法で処刑され死んでからとする!」
良かった!私が頑張れば頑張るだけ、旦那様と奥様は遠くまで逃げられる!
春の目が輝いた。
王首領はさらに言った。
「今からでは遅い。この悪魔に取りつかれた小娘の処刑は、明日の朝8時から衆人に見せながらの公開処刑とする。皆の衆にも、黄の飼っていた悪魔が死に絶えることを見せて安心させよう。」
観衆はどよめいた。
その頃の娯楽の少ない中国では、公開処刑は大きな娯楽だ。
その娯楽を与えてくれる王首領の株が大いに上がった。
春は王が自分の考えていたことを全て見通した上で、自分に情けを掛けてくれたことを知った。
「大謝、王大人!」
こう言うと、春は王首領の馬前の泥の中に膝まずいた。
普通ならここで、降伏した敵は縛られ死刑囚用の首枷を嵌められる。
春は自分から両手を背中に回した。
春を縛ろるように命じられた手下は、まだ春が悪魔だと半分信じていた。
ここで、自分が縛ったら、こいつから呪われるのではないだろうか?
おどおどしながら、春の手首に縄を掛けようとすると、春から小さい声で言われた。
「お世話になります。どうか、悪魔らしくきつく縛ってください。」
その声は、悪魔のでも羅刹のでもなく、引っ込み思案な内気の少女のものだった。
縛り終えると、その手下はつい言ってしまった。
「痛くないように...縛ったつもりだけど..」
彼は春から穏やかな口調で、「ありがとう。貴方は優しい人ですね。仏様の御加護がありますように。」と言われ、俺は呪われない!きっと死んでも成仏できる!と信じることができた。
春は縄を掛けられた姿で、王首領の馬の後を歩かされた。
1年ちょっと前に、サーカスから旦那様に渡されて、集落に連れて行かれた時みたい..。
旦那様、奥様、どうか仏様を拝む時は、王首領のためにもお祈りください。
私が旦那様達を逃がすための時間稼ぎをしてるのを分かってて、明日まで出発を待ってくれたんです。
王首領の行く先は、道の両側に大勢の民衆がたむろし、王首領を讃えると共に、引き回されている春に石を投げ侮蔑の言葉を掛ようと待ち構えていた。
しかし王首領の後ろを歩かされてる悪魔が、痛々しい刺青をされた小娘だと言うことが分かると、さすがに投石をする者はいなかった。
歩きながら、春は股間から出血し始めた。
「どうした?怪我をしていたのか?」
王首領が声を掛けると、春は「月の障りです。私のお腹には赤ちゃんはいませんから、遠慮なく処刑してください。」と落ち着いた口調で答えた。
「何?お前、未通女ではなかったのか?」
「違います。旦那様から一年程前からお相手を許されています。」
王首領は、やはり黄を退治するべきではないか?と思った。
12歳の幼い少女を犯した上、このような酷い刺青を施し、戦いの場に全裸で出させるとは!
「お前は、黄からかなり酷いことをされたようだな。」
王なりの同情だった。
「馬車を用意しろ。こいつは馬車に乗せて運べ!」
さらに副長格の部下に命じた。
「こいつに誰も、絶対に近づかせるな!明日の朝までの命だ。せめて今晩はゆっくりさせてやれ!」
その声が民衆にまで聞こえた。
何であんな悪魔に情けなんか..、と思う者もいたが、多くは「さすがに王大人!退治する悪魔にも情けを掛ける!」と王首領の株がまた上がった。
春は倉庫の中に1人で監禁されたが、藁の中でぐっすり眠った。
早朝、春の処刑をするために呼ばれた拷問職人とでも言う人が春を訪ねてきた。
荒くれ男でも冷酷な人でもなかった。
これでも昔は貴人の為に、拷問や処刑の仕事をしていただけに、言葉も上品で理知的だった。
「胸と下腹部の肌を削ぐのはそれほど難しくはない。直ぐに止血を施せば二時間くらいは問題ないだろう。」
「問題は股間から子宮を抜き取ることだ。前もって貴女の女陰全体を刃物でえぐってから、鉄の鉤を引っかけ、それを強く引いて子宮を抜き出すことになるが、下手をすると動脈を傷つけ、出血多量となって死に至る可能性がある。」
春が止血の方法について具体的な説明を求めたところ、「蓬や莨等の薬草は間に合わない。
やはり焼きごてで出血部分を焼いてやった方が良い。」との答えだった。
さらに小さな声で「ここに阿片から精製した薬がります。これを飲み込んだら、拷問中でも苦しまずに済みます。一番最初に貴女の口に入れますから、何時でも呑み込んでください。」とまで言ってくれた。
春は、ありがたい、と思ったが、丁重にその申し出を断った。
」とまで話してれた。
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