首領は奥方である太々を抱いた。
縄張りの巡回に出る前には、必ず太々を抱くことにしていた。
太々にとっては、それが夫である旦那様が今でも自分を大切にしてくれていると分かる証だった。
しかし、年齢がいっても衰えない首領の精力には付いていけなかった。
最初の一回目だけ太々が抱かれて、次からはお気に入りの春が抱かれる筈だった。
三人とも全裸だった。
春は暖炉の火でお湯を沸かし、事が終った首領と太々の身体を拭いてあげていた。
突然複数の銃声が鳴り渡った。
事故ではない!敵の襲撃か?
首領は油断していた。
子飼いの精鋭達は、偵察と連絡のために先に出発させている。
残っているのは10人程の親衛隊と言えば聞こえは良いが、実際は人質兼見習いとして地主や金持ちから差し出されている子弟だった。
実戦経験が殆ど無い。
攻め込んだのは対立する匪族のグループで人数は20人あまり。
親衛隊のいる場所と首領のいる寝室との連絡ができなくなった。
首領はズボンだけ穿くと、愛用のモーゼル拳銃を持ってドアを開けた途端に肩を撃ち抜かれた。
倒れた首領を庇うかのように、太々が白い寝間着を一枚羽織っただけの姿で自分のブローニング拳銃を持ってドアに立つが、これも持っていた拳銃を撃ち飛ばされた。
「太々!」後ろから春の声がした。
こんな激しい春の声は初めて聞く。
振り替えると、そこに全裸で首領のモーゼル拳銃を持った春が立っていた。
開いたドアから入る建物が燃える明かりで、青白い肌、乳首の回りの赤い花の刺青、そしてまだ生えていない下腹部の黒い「淫乱」の刺青がはっきり見えた。
「ああ、この子に刺青をさせたのは私だった..。」
太々は春のモーゼル拳銃が自分に向けられるだろうと覚悟した。
部屋の中では、首領がそれを見ている。
春の背中の焼き印は自分が押させた。
妻の太々が先か自分が先か、この小娘から殺されるのは仕方あるまい。
そう考えていた。
しかし、春はこう言った。
「太々は、裸はだめ!私が出る!」
そう言うと、大人の男でも扱い辛い大きく重いモーゼル拳銃を両手で握って、全裸のまま銃弾が飛んで来る外に飛び出した。
表から馬に乗った一騎が来る。
頭に巻いた派手な布や目立つ服から、襲撃してきたリーダーらしい。
そいつが春の近くまで来て拳銃を撃とうと振りかぶった時、ギョッとした顔になった。
小娘が全裸。それも胸と下腹部に刺青!
呆気に取られている間に、春が見よう見まねで一度も撃ったことのない拳銃を撃った。
偶然だが相手の眉間に命中し、相手は落馬した。
後に続こうとした襲撃隊の男達は躊躇て立ち止まった。
春は大きな甲高い声で、「一人やっつけた!皆、出てきて!」と叫びながら、裸のまま銃弾が飛び交う中、親衛隊が動けなくなってる所へと走って行った。
襲撃してきた男達は皆、自分の目が信じられなかった。
まだ女になってないような青白い全裸の少女。
しかし胸と下腹部に淫らな刺青。
背中には焼き印まで押されている。
それが大きな拳銃を撃ちながら走り回っているのだ。
親衛隊の若者も驚いたが、中に春の事を知ってる者もいた。
庭の掃除や台所の手伝いをしてた女の子だ!
痩せて大人しい女の子なのに、何かに取りつかれたようだ。身体におかしな模様がある。あれは悪魔が乗り移ったのか?
とにかくこの子が敵のリーダーを倒したんだ。このチャンスに首領を助けなければ!
形勢は逆転し、襲撃してきたグループは死んだリーダーの死体を抱えて逃げ去った。
味方の方も首領の他に何人も怪我人が出たし、重体の者もいた。
死に際で末期の水を求める男は、自分の頭が小さな膝枕に乗せられ、口に入った茶碗が当てられるのを感じた。
水を一口飲み目を開くと、そこには幼い裸の少女がいた。
少女は自分も泣きながら、死にかけている男の頭を自分の胸に抱き締めてあげた。
怪我の手当てが終った首領の指揮で、街の火事も鎮火し、騒動も収まりつつあった。
太々が女たちを指揮して春の行方を探していたら、雪解けの泥の中で全裸のまま、死んだ男の頭を抱いているのを見つけられた。
知らせを聞いて駆けつけた太々は、自分の着ていた上着を裸の春に掛けてやった。
それから匪族のグループに変な噂が流れた。
あの首領は悪魔から守られている。
その悪魔の姿は、全裸のまだ幼い女の子であるが、両方の乳首に赤い花を咲かせ、下には黒い陰毛の代わりに禍々しい呪いの文字が書かれている。
反対に街では、「首領を守って戦った男が死ぬ時、女神様が見守ってくれて、天国に導いていった」と言う噂が流れた。
噂の主は、太々から上着を着せ掛けてもらうと同時に久しぶりに大声で叱られてやっと正気を戻り、自分の部屋に戻ると直ぐに自分の仕事着に着替えて小者や召使い達と共に働いていた。
首領の巡回の出発は延期され、手打ちの話し合いが持たれ、数日してそれがやっと終った後に春は首領と太々の前に呼ばれた。
「褒美をやらねばならん。」
首領と太々はそう言った。
春は必死に辞退した。
「お願いです。裸で外を走り回って、恥ずかしい姿を見られて、本当なら旦那様や奥様に大きな恥を掻かせたから、ここから追い出されて当然なんです。どうかお許しください!」
太々が「しかし、現にお前が敵を打ち倒し、動けなかった親衛隊を動かしたのは確かではないか!それを賞しないとは旦那様の権威に関わる。」と理詰めで言った。
春は困った。そして頭に浮かんだことを言葉にした。
「あの夜は敵を倒したのは、旦那様を守るために仏様から使わされた恐ろしく醜い悪魔だった、と噂されてるのを聞きました。だからそのままでよろしいのでは..」
太々は高い席から降りると、這いつくばっている春を立ち上がらせ、抱き締めた。
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