旅は殿様以外の家臣、奴隷、家畜達にとって、辛く長かった。
都にはあと数日、となれば辛さももうすぐ終わると言う新たな元気も出てくるだろうが、都に着く予定はまだ1か月先だった。
一行は新たな都市に数日滞在した。
殿様は不機嫌だった。
その都市でも、殿様は都からの特命高等役人として、以前からの懸案事項について判断し決定を下す予定であった。
前もっての連絡にも関わらず、その都市の地方役人は必要な下準備をしていなかった。
それだけでは無い。
献上されてきた少女は数人いたが、全く殿様の好みに合わなかった。
身の程知らずの希望ばかり抱き、現実を知らされて泣きわめく者ばかりだった。
献上してきたのは、叩けば埃が出る手合いのそれなりの身分のある者だったが、殿様はその者に容赦はしなかった。
一度は献上された少女も、殿様のお泊まり所から叩き出された。
もっとも、少女達にしてみればそれの方が幸せだった。
殿様が不機嫌なら、それは順に下に伝わってくる。
上級家臣は下級家臣に、下級家臣は奴隷に、奴隷は家畜に、家畜の中でも古株ははるのような新入りにと辛く当たった。
殿様のお近くに仕える二人の召し使いが、密談をしている。
「ドライ様..」
「フュンフ、言いたい事は分かっている..。」
年上の召し使いは、殿様にとって3人目の役に立つ召し使いだった。
年下の召し使いは4人目。
アイン、つまり1人目と、ツバイ、2人目は既にいない。
アインは病死。
高熱に犯されながら、豪雨の中で殿様のお帰りを奴隷、家畜をまとめてお迎えした後、殿様の濡れた身体を高熱で火照った身体で温めるように命じられ、その後直ぐに亡くなった。
23歳。
ツバイは自死。
殿様がお客様と雑談中に、お客様が「お主の家臣どもの中で、本当にお主のために命を捨てる者などおらぬだろう。」と言われた場に居合わせ、殿様が「その者は、死ぬぞ!」と言ったため、その場で頸動脈を自分で切断して死亡。
21歳。
ツバイが死んだ時にドライはまだ15歳。
それ以前からツバイの手伝いをしており、かつ殿様のお気に入りだったことから、召し使いの先任となっている。
現在22歳。
フュンフは現在18歳。
ドライと二人で殿様のご寵愛を争っている、仲が悪い、と噂されるが、実際は自分がドライと比べて、まだまだ能力が低いことを自覚しており、常にドライを立てているし、どうしてもドライに返せない負い目があった。
「はるを、殿様に..」
「旅はまだ長い。
殿様の一夜を過ごして、もし翌日から出発となった場合、はるは耐えられるだろうか..」
「しかし、もはや殿様もご辛抱が..。
今のこの集団に、殿様にご満足頂ける者はおりません。」
「私達でも..、だめであろうか..。」
「ドライ様、私はともかく、貴女様の身に何かあったら、この集団は動けません。
それに、殿様の好みは、既に年若く幼い者に移っております。」
「だが...、はるは..」
「あと一つ、役に立たない古い家畜どもが、はるを潰しかねません。」
「分かった。
殿様もはるが気にいられた様子。
都まで崩さずに連れて行かれることを祈ろう。」
次の日、はるは二人の召し使いに呼ばれ、夜に殿様のお伽をすることを命じられた。
ドライとフュンフ、二人の召し使いに連れられて、殿様のお部屋へと進む。
今夜のはるは、肌が透けて見える薄い一枚の布を身体にまとっていた。
その布を通して、左の乳首に嵌められた銀のリングが見えた。
ドライもフュンフも、不思議に思ったことがある。
殿様の部屋に連れて行かれるのに、はるは震えていない。
はる達の到着を、警護士が殿様にお伝えする僅かの時間に、フュンフははるに聞いた。
「お前は、恐くないのか?」
はるは答えた。
「殿様が、私が死んだらお母さんに伝えてくださると約束してくださったから..、恐くはありません。」
その答えを聞いて、ドライは深いため息をついた。
殿様は、既に寛いだガウン姿だった。
「はる。そなた、先日ドライに叱られたそうだな。」
はるは床に土下座し、お答えした。
「申し訳ございませんでした。
まことに勝手なことをいたしました。」
殿様は面白そうに聞いた。
「友が苦しんでいるのを助けたかったか?
人間らしい思いやりをしたかったか?」
はるは、小さな、本当に小さな声でお答えした。
「その時は、まだ..、自分が人間だと..勘違いしておりました...。」
「今は、どうだ?」
「この身は、殿様の物でございます。
自分で勝手なことは、こらからはいたしません。」
殿様は片手に持った酒のグラスをゆっくり回しながら、こう言った。
「実は余は、か弱い女の子同士が助け合う姿見るのは、嫌いではない。」
そうして、後ろに控えていた二人の召し使いに言った。
「お前達、見せてやれ。」
するとドライ、フュンフは着ていたメイド服を脱ぎ始めた。
紺色のワンピースを脱ぎ、ブラウスを脱ぎ、スリップを脱いだ。
はるは、息を飲んだ。
ドライは右、フュンフは左の乳房が無かった。
先天的なものではない。
鋭利な刃物で切断された痕があった。
「以前、人肉を食する文化を持つ民族から客人があってな..」
殿様が話して始めた。
その客人に、家畜の一人の乳房を切断して料理することとなった。
殿様は当時まだ下層の家畜で、15歳だが乳房の美しいフュンフを選んだ。
「お前、今晩乳房を切り取って料理する。」
フュンフは利発で我慢強い少女だった。
殿様の命令に、「畏まりました。」と答え、身を清めるためにシャワーを浴びた。
シャワーの音で周囲には聞こえないと思ったのだろう、フュンフは泣いた。
そして、
「乳房を切り取られたら、そのまま屠殺してもらえるようにお願いしよう。」
と決めるとシャワー室から出て、自分が料理される部屋へと向かった。
そこにドライがいた。
殿様に、
「フュンフに代わって私の乳房でお客様をおもてなし下さい」
とお願いしていた。
殿様への要求は、けっして許される行為ではない。
しかし、その時の殿様は寛大だった。
フュンフの左乳房、ドライの右乳房を切り取ることで二人を許した。
それどころか、それ以来フュンフをもドライに次ぐ地位に着けたのだった。
「切断した乳房は、二人の見ている前で調理したよ。
客人も大変喜んだ。」
そう話した殿様は、大変機嫌が良くなっていた。
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