都への旅は遠く、辛かった。
殿様やお付きの人達は、馬車や馬に乗って移動するが、家畜は雨や風の中でも道を歩かされた。
夜の泊まりも、倉庫や文字通り家畜小屋に寝ることもあった。
肩に担ぐ荷物は重く、道中は勝手に休むことも許されない。
喉が渇く..。水瓶座欲しい..。
そんな時に、道の脇に流れる小さな流れの水を飲もうと列を離れた家畜の少女が一人、馬に乗った家畜の管理が仕事の家臣から見つかり、激しく鞭打たれた。
しかも殿様に報告され、その夜は旅に同行している多くの男性家臣全員の玩具にせよとの罰を受けた。
翌朝、その少女は太股に血を流しながら痛々しく歩き始めたが、道半ばの家もなく乾いた荒れ地で座り込み、動けなくなった。
はるはその少女に、荷物を担いであげるから頑張って、と声を掛けたが、その少女はしくしく泣くばかりで座ったまま動かなかった。
結局、はるは自分のとその少女の二人分の荷物を背負い、後からその少女が列に追い付いてくることを願ってたが、その夜少女は宿営地には辿り着かなかった。
しかし、はるはやっと与えられた食事を前にして、年上の召し使いに呼び出された。
「お前は誰に言われてあの家畜の荷物を担いだ?」
怒っている口調だった。
はるは土下座して謝った。
「勝手なことをいたしました。
申し訳ありません。」
召し使いは、
「家畜が勝手なことをして、お前が自分で潰れてしまったら、殿様から私達が罰を受ける!」
そう言うと、はるを立たせ、その頬を数回平手打ちした後、
「二度とこのような事をしてはならない。」
と言うと家畜の寝床に戻らせた。
はるが戻ると、はるが受け取って置いていた食事は何者が奪い去っていた。
奴隷や家畜がお互いに助け合うなどと言うことは、ゆとりのある環境で温情ある主人から飼われている場合が殆どだ。
ぎりぎりの生活をさせられている家畜達は、自分より弱い新入りのはるの食料を奪うことを躊躇わなかった。
はるは何も言わなかった。
水だけ飲んで、ぼろぼろの毛布にくるまった。
くたくたに疲れていたが、空腹で眠れなかった。
毛布にくるまっても、身体もなかなか温まらなかった。
薄くても温かな母のスープが懐かしかった。
涙が出そうになった時に、また別の女奴隷がはるを呼びに来て、小屋の外で荒い布の包みを渡した。
「上の召し使い様が、今日脱落した家畜の分のパンが無駄になった、と怒って、これをお前のところに持って行くように言われた。」
と伝えられた。
包みの中は、一人分のポロポロした硬いパンだった。
召し使いは、新入りの生活がどんなに過酷なのか、自分も経験していたのだ。
甘えさせる訳ではない。
家畜の管理をするために、必要なのだ。
翌朝殿様は召し使いから、
新規に購入した若い家畜が一人脱落、多分死亡。
との報告を受けた時に、それがお気に入りになりかけていたはるではないことを聞くと、
「使い潰したか。早かったな。」
と、その家畜については軽く言っただけだった。
続けて殿様から、
「はるはまだ生きているな?」
と聞かれて、上の召し使いは昨日のことを全て報告すべきか、と僅かに迷ったが、次のように報告した。
「はるは、倒れた家畜の事について、命令も待たずに出すぎたことをいたしましたので、夜にに頬を少々打って叱っております。」
殿様は
「良かろう。」
と上機嫌で言われた。
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