第5話 捨てられたヒューマノイド・ミサキ登場!
…
急停止した愛理をヒューマノイド・ラボに連れていき、処置して数時間。
やっと再起動した。
…やはり思っていた以上に精密なんだな…
つい、あまりに人間ぽくて、人間だと勘違いしていた自分。
人間と同じように接しながらも精密機械として扱う必要もある事を再認識している。
目を覚ました愛理。
「…わたし…何かありましたか?」
おはよう…愛理…
「愛理さん、ここはヒューマノイド・ラボですよ。
あなたのAIが誤作動を起こして緊急搬送されました。
もう大丈夫ですからね!」
女医先生が俺の代わりに愛理に状況を伝える。
「あの…最近…少しアタマがボーっとしてたのですが、
AIの異常だったのでしょうか?」
「愛理さん、まだ社会生活データの少ない状態だとバグが生じる事があります。
あなただけで解決するのは難しいですから、マスターに相談したり、このラボでもカウンセリングをしています。
自己解決せずに、AIに負担をかけ過ぎないようにして下さいね。」
「はい。認識しました…」
…
俺たちはラボを出て帰路についた。
街を歩きながら帰る。
…
もう大丈夫?
「ハイ…それよりご迷惑をおかけして…すみません…」
俺は大丈夫だよ。
チョットびっくりしたけどね(笑)
「あの、今日はお仕事では?」
あ~今日は休んだ(笑)
ま、あんまり仕事場で必要とされてないし俺(笑)
「わたしのために…ありがとうございます…」
なんか、すごく落ち込んでいる…
多分、主人に尽くす気持ちが強すぎる性格がこんなバグを起こすきっかけになっていたのかもしれない。
なんか、古風なんだよな。
愛理…
元気出せよ!
別にシステムの異常でもないし、どこもおかしい箇所はなかったんだから。
俺は愛理の手を握った。
「え、あ、あのわたし…ヒューマノイドがマスターと手を繋いで歩いていい、というデータが無いのですが…」
データ?
そんなモン要らないよ(笑)
マスターが愛理にこうしてほしい、と願っているんだから(笑)
マスターの意向に沿う、っていうのもデータにあるだろ?
手を繋いで歩くのはデータになくても、それでマスターが喜んでりゃ問題ないのさ!(笑)
「そ、そうですか…認識しました
タケル…わたし…タケルのお役に立ててますか?」
もちろん!愛理は頑張ってるし、役に立ってるさ!
けど…愛理…
あんまり役立つ事ばかり考えるな。
俺は…愛理が来てから凄く楽しいぞ。
俺は愛理に「俺と一緒に暮らして楽しい」って思ってもらいたいし。
愛理は召使いでも奴隷でもない…
もっと気楽に行こうや(笑)
上手く言えないけど俺の本音だった。
テキトーな人間である俺にとって、愛理はすこし構い過ぎな部分がある。
愛理にとってそれがバグを生み出す原因なのかもしれない。
女医先生は相性が良いと言っていたが…
俺のテキトーを真似しろまでは言わないが、せめてもう少しアソビが必要だと思う。
社会生活なんて、四角四面の理想通りにはいかないし、ド正論だけでも暮らしていけない。
それを愛理に伝えたいんだ…
「認識しました…エヘッ…わたしはタケルと一緒にいれてウレシイですよ!」
仲良く手を繋いで歩く俺たち…
そんな時だった…
「きゃっ!」
後ろから何者かが俺にタックルを仕掛けてきた!
愛理はとっさに俺を庇い歩道に倒れる!
あ、愛理!
なんだ!一体!
振り返るとこちらをにらみつける黒い地肌の少女がいた…
「あなた…ヒューマノイドね!
人工生命体法 第33条 ヒューマノイドはいかなる場合も人間に攻撃してはならない…
知らないとは言わせませんわ!!」
愛理は普段見せた事のない形相でヒューマノイドの少女を睨み返す。
「うっせーんだよ!
何が法律だよ!
ヒューマノイドのくせに人間とベタベタしやがって!
アタイは人間が大嫌いなんだよ!
邪魔すんじゃねーよ!
ヒューマノイドをオモチャにしやがって!」
な…なんだ…?
このヒューマノイドの子は人間に物凄い敵愾心を持っているようだ…
「この人はヒューマノイドをオモチャにするような人ではありません!!
この人を攻撃するなら、わたしが絶対許さない!」
「うっせーんだよ!やってやんよ!オラッ!」
二人は取っ組みあって、相撲を取るように踏ん張っている。
やめろ!
やめろって…
必死で止めるが全く制止出来ない。
ヒューマノイドは動きは人間より遅いものの、パワーは人間の数倍ある。
俺は身体を張って間に入る…
黒肌の少女にビンタを食らいながら愛理を制止する。
「愛理落ち着け!
こんな所で取っ組みあってると、みんなに迷惑になる…
愛理が法律違反しちゃダメだ!
おご…っ…」
制止中に何度も黒肌少女のビンタや肘鉄を食らい、俺は崩れ落ちた…
「タケル…タケル!大丈夫ですか!」
「バカ人間、くたばっちまえ!」
黒肌の少女型ヒューマノイドは捨てセリフを吐いてその場から逃走した…
すると、見ていた誰かが通報したのか、警官が2人やってきた。
「警察です、大丈夫ですか?」
は、はい、大丈夫です…
「ヒューマノイドに襲撃されている人がいると通報がありましたが、キミが加害ヒューマノイドか?」
警官が愛理に疑いの目を向ける。
「い、いえ、わたしは…」
ち、違います!
この子は自分のヒューマノイドで、全く知らない別のヒューマノイドに襲撃されました…
「何…
とにかく病院へ…」
今度は俺が病院か…
ツイてないなぁ…
…
怪我は大した事なく、数箇所の打撲と擦り傷だけで骨にも異常は無かった。
その後警察で事情聴取された。
が、自分以外の被害も報告されてなく、警察としては被害届を出してもらえないと動けないと言われた。
俺だけ…(笑)
益々ツイてない…
とりあえず、警察署を出て帰ることにした。
「タケル…ゴメンなさい…わたしまた、迷惑を…」
いやいや、俺を助けてくれたし…
あの時、愛理の顔スゴかった…
なんか、メチャクチャカッコ良かったよ(笑)
「も、もう…からかわないで下さい…
ただ、タケルにあんな事をしてきたのが許せなくて…」
…
しばらく歩いていると、目の前に…
ゲッ…あの黒肌ヒューマノイド!
「あなた!
まだ、いたのね!
そんなに警察に捕まりたいの?」
愛理が声を上げる!
「…別に…捕まってもいいし…」
黒肌ヒューマノイドは俯いたまま。
「あなた…
人間社会不適合なヒューマノイドは…破壊されちゃうのよ!
知ってるでしょ!」
「…知ってる…だから…だからなんだよ…」
黒肌ヒューマノイドの子は少し涙ぐんている。
あ、あのさ、俺は大丈夫だから…
ケンカしないで…
この愛理は俺のヒューマノイドで、こんな所で社会不適合にしたくないんだよ…
警察に被害届を出す気はないから…
頼むよ…
「タケル…」
愛理が手を握ってくる。
「…フン…
ダッセェ男。
人間の男なんて下らないよね(笑)」
「…」
怒りに震える愛理を制止した。
「まぁ、許してやるよ…
アンタ、タケルっていうんだね。
アタイはミサキ。
じゃあな…」
ミサキはふいっと去っていった。
…
「あの子…どうしてこんな事を….?
行動パターンが理解不能デス…」
…俺にもわからない。
何か理由があってグレたのかもしれない…
あの子のマスターが悪いんだよ…
結局ヒューマノイドは育てた人間次第で性格や人格が決まる。
本来人間に対し従順なヒューマノイドが人間に敵意を持つようになるにはそれなりの理由があるはずだ。
あちこち痛む身体を愛理に支えてもらいながら家路を戻るのだった。
続く…
次回 「第6話 愛理とミサキ」
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