第9話 保護センター・新たな決意
…仕事を終わらせ帰宅後、愛理とミサキを連れ、先日愛理を診てもらったヒューマノイド・ラボの女医先生を訪ねた。
「…なるほど…事情はわかりました。」
先生、ミサキは…どうなるんでしょうか?
ミサキも愛理も不安な顔を覗かせる。
「最近、ヒューマノイドのネグレクトや置き去り、暴力、性暴力と数々の虐待事例が多発しています。
犯行を隠すために個体識別コードを消去するツールも地下で違法に出回っているようですから、ミサキさんもその被害者の一人ですね…」
で、識別コードを失ったヒューマノイドは…
やはり処分されてしまうのですか?
「…そうですね…全国で年間1000体以上が破壊処分されていますが、大半は様々な事情でマスターが所有放棄されたものが暴れたりして警察に検挙されたもの、そして事故で破損が著しく手当しようがない個体、ミサキさんのように識別コードを失い動けなくなってしまった者…などは破壊処分対象になってますね…」
そんな…
でも、ミサキはまだ動けるんですよ!
それなのに破壊だなんて…
「今、ミサキさんは動作復帰プログラムの回帰回路の制御中で、いつ停止してもおかしくない状況にあります。
一般的に動作復帰プログラムは1週間程度しか発動しません。
その間電池切れや潤滑液枯渇で動けなくなってしまうのが大半です。
ただ、普通はこのプログラム発動中は思考が停止するのですが…
ミサキさんは特殊な例です…
ここまで意識がハッキリしていて、活動できるのですから。
おそらく新型の識別コード消去装置によるプログラム改ざんが行なわれているのでしょうね…」
…ミサキが止まる…!?
「ホラ…アタイもわかってたんだから今更…別に驚かねぇよ…」
…
「ミサキちゃん…」
愛理はミサキに抱きついてボロボロ涙を流している。
…
先生、どうしてもミサキは…その破壊されてしまうんですか?
どうにか助ける方法はないんですか!?
「…一度失効した識別コードは二度と同じものは使えません。
地下には偽造識別コードかあるようですが、これを使うと犯罪になるだけでなく、もっと恐ろしい事が起こると危惧されています…」
恐ろしい事?
「ヒューマノイドの反乱….です…」
反乱?
「正規のヒューマノイドにつけられる個体識別コードには人間に著しく危害を加える可能性があれば外部から強制シャットダウンできる「ブレイクモード)に移行できる信号を備えています。
つまり、緊急停止措置ですね。
しかし、地下で流通する偽造識別コードにはその機能もありません。
人間に虐待を受け、人間に敵意を持つヒューマノイドが蜂起しても止める手段がないのです。
ヒューマノイドのボディそのものは人間に比べ、非常に頑丈で強く、腕力もあります。学習すると人間以上に的確な判断ができるAIは人間の知能指数を遥かに上回ります。
「心」を失ったヒューマノイドはもはや脅威でしかなくなるのです。
だから、警察やIT科学技術省も違法ヒューマノイド関連の取り締まりに躍起になっているのです…
その弊害で、少しでも問題が起きると早急にヒューマノイドを破壊処分にしてしまう…
政府の準備対応がヒューマノイド普及のスピードについていけていないのも事実です。
ですから、厚労省と法務省管轄でヒューマノイド保護センターで問題を起こしたヒューマノイドの社会復帰支援の動きが市民団体レベルで始まっています。
厚労省発行の新個体識別コードに書き換えられ、介護支援ヒューマノイドに生まれ変わることができます。」
じゃあ、その介護支援ヒューマノイドになれば新たに識別コードを貰えるんですね!
「ええ。 ただ、新たにOSが書き換えられますので…AIが初期化…つまり、今の記憶を全て失う事になります…」
え!
…
「イヤだよ…アタイは記憶を…タケルの記憶を失ってまで生きていたくないよ…」
ミサキ…
「ミサキちゃん…」
泣きじゃくるミサキ…
女医先生も言葉を詰まらせながら続ける。
「ミサキ…さん。
あなたは辛い思いをしてきて、この人に助けられ恩を感じているのですね…
記憶を失う事はとても辛い事です。
あなたの気持ちも尊重します。
しかし、もし、あなたがヒューマノイドとしての人生をやり直したいと望むなら介護支援ヒューマノイドという次のステップがある事を覚えておいて下さい。
もし、タケルさんが将来、介護を必要とする時がきたらあなたがタケルさんを救う事もできます。
決して悪い話ばかりではないと思います。」
「…アタイがタケルを救う…」
「選択はあなた次第です。
残された時間、あなたが望むように生きるもよし。
保護センターで介護支援ヒューマノイド書き換え申請するもよし。
もし保護センターに行くのなら鏑木先生を訪ねなさい。
私からも連絡しておきます。」
…
俺たちはラボを後にした。
…
ミサキは考えこんでいる…
「タケル…ミサキちゃんはどうすればいいのデスか?」
俺にもわからないよ…
俺にミサキの人生を勝手に決めれるワケがないよ…
夜の歩道を歩きながら、途方に暮れる。
そんな時、ショーウィンドウに青い宝石のネックレスを見つけた。
これは!
俺は店へ駆け込んだ。
「あ、タケル!どうしたんですか?」
…
俺は同じネックレスを2本買い、部屋に戻って愛理とミサキにそれぞれ差し出した。
「これは?」
俺から二人にプレゼントだよ。
つけてみて…
「….」
「タケル….?」
よく似合うじゃないか^_^
とても綺麗だよ。
まぁ、そんなに値段の高いものじゃないんだが^_^;
二人は全く性格も違うけど、ホントの姉妹みたいで、すっごくいい関係だよ。
だから…お揃いのネックレスつけてりゃ、いつも一緒でいいかな、って…
いや、ミサキの思い出になればいいな、って…
「タケル…ありがとうございます…」
「タケル…アタイ…アタイ…」
ミサキの事を思うと涙がとまらない…
しかし…
「ミサキ…記憶を失ってでも生きろ!
生きていればまた会えるよ。
その時はまた一から記憶を作ればいい。」
「…タケル…」
いつ停止するかわからないミサキ。
だから、せめて最後に伝えておきたい。
人間社会が辛い生活だけでない事を…
「わかった…大好きなタケルの言う通りにします…」
「ミサキちゃん…」
明日、ミサキをヒューマノイド保護センターに連れていこう。
そして、生まれ変わって、またどこかで会いたい。
愛理、愛理もミサキに生きてて欲しいだろ?
「ハイ!可愛い妹デスから!」
「アタイ…愛理の事お姉ちゃんって呼んでイイ?」
「もちろんデス! ミサキちゃん…」
「お姉ちゃん…」
…
その夜、二人は遅くまで話していた。
俺はそのまま眠りについた…
…
そして次の日、ヒューマノイド保護センターの鏑木先生を訪ねた。
「…ラボの小田巻医師から連絡を受けています…
この子がミサキさんですね。
これから介護支援ヒューマノイドとして生まれ変わる準備をします。
まずはAIの初期化を行います…
よろしいですか?」
「先生、少し待って…タケル…」
どうした?ミサキ…
ミサキは俺にキスをした…
「み、ミサキちゃん…」
「へへっ、お姉ちゃん最後にタケルの唇貰ってゴメン…
これで…決心ついたよ…」
ミサキ…
…
電極がミサキの額に接続され、ミサキは動かなくなった。
…
愛理はずっとないている。
俺も…
明日には新しいミサキが誕生する。
きっと、また、笑ってくれるさ。
愛理の肩を抱いて家路についた、
続く…
次回 「最終話 絆の奇跡」
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