空想・幻想小説

木村家へお世話になって早いもので6ヶ月を過ぎ
9月に入った。
　しかし猛暑の余韻は残っているものの蜩の寂し
い鳴き声はいつしか消えていた。
　木村の息子とも最近は会話が弾み次第に明るく
なっていく秀喜の姿に静子はわが子のように嬉し
かった。
　しかし夫の容態は一変し糖尿の合併症で入院、
夫、和彦の看病で木村家への通勤はお休みとなっ
た。
それから二週間、和彦はわずか53歳の若さで他界
したのでした。
　メモリアル法泉で葬儀は営まれ、親戚の少ない
恩田家は親族のわずか数人と町内、静子の職場、
和彦の職場の人たちで行われた。
　人々は霊柩車を見送ると三々五々に別れて散っ
ていくのでした。
　喪服姿の静子は位牌を胸に悲しさと寂しさに耐
えていた。
　結婚は紹介で知り合った。
和彦の父が静子をみそめ、是非うちの息子にと口
説いたのである。
　後で聞いた話では義父茂三は静子に特別な気持
ちを持っていたとの事である。
　
　夕方、娘夫婦と帰宅したがその夜には娘夫婦
は近いこともあり自宅へ帰っていった。

　木村は訃報の知らせを聞いたが葬儀には間に合
わず静子の家に弔問したのは夜8時を回っていた。

「こんばんわ・・・」

木村は初めて静子の家に訪問したのである。
街外れの小さな家で周りは雑木の垣根で囲われた
たたずまいであった。

「ハイ、どなたですか」

「木村です、遅くなりました」

インターホン越しに聞こえる木村の声で静子は慌
てて玄関の戸を開けた。

「木村さん、わざわざこんな所まで」

静子は恐縮した様子で木村を迎え入れた。

「お気の毒でした、葬儀に間に合いませんで申し
訳ありません」

木村は深々と頭を下げた。

静子は
「狭いところですが・・・」

と言って遺骨と遺影が置かれている部屋に木村を
案内した。
木村は喪服姿の静子がいつもより美しく可憐に見
えた。
静子は一見、女優の原日出子似の女性でぽっちゃ
り美人で近所の評判であった。
線香の一筋の煙が立ち昇り木村のそばに座る静子
のうなじが綺麗であった。

「旦那さんも無念だったでしょう」

線香をあげて木村は静子に話しかけた。

「ええ、こんなに早くいくとは思いませんでし
た、この遺影は一年前のものです」

遺影の和彦はにっこり笑みを浮かべている。
木村はこんなに近くで静子と座って離した事は一
度も無かった、しかも隣の静子は今では未亡人。

　「木村さん、6ヶ月間お世話になりました、私、
少し家の整理が済んだら娘の所へ行きます、もう
お目にかかれなくなりますが息子さんにもよろし
く」

と挨拶するのだった。

「もう辞められるのですか・・・」

「ハイ、そうしようと思っています」

その言葉は静子との別れ、木村は動揺したのだっ
た。
こんないい女、二度と会えないかも・・・・
一度は抱いてみたい女と常づねから思っていた。
今はもう旦那は亡い、今抱くしか機会がない
メラメラと燃える木村の欲望と肉欲の牙が静子の
柔肌に向かうのであった。












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