第一話 (約14枚)
「よかった! 滝斗(たきと)さん、意識が戻ったんですね!」
目の中に光がさすと同時に、耳に飛び込んできた声がそれだった。
そこは窓のない、医務室のようなところ。そのベッド上で、僕は目を覚ました。なんだかトマトにかじられたような感覚が残っていたが、夢だったのだろうか。
「……ここは、どこ?」
見回してみる。そこにいたのは、年下らしい、小柄な少女──ピッタリとAカップの微乳の線がわかる、レーシングスーツのようなものを着ている──だけだ。
「君は、誰?」
「普美(プミ)ですよ……わからないんですか?」
あれ……?
考えてみる。なんでここにいるんだ? 今まで何してたっけ? というか、僕はどこの誰?
記憶喪失──
それが僕の症状らしかった。
僕の名は時田滝斗(ときた・たきと)……だそうだ。年齢は……諸般の事情により、高校生だけど18歳以上ということで。
僕は故・時田博士という人の弟で、シンクロイザーとかいうものの操縦訓練中に事故で失神したという。ぜんぜん記憶にないけれど……。
それは、普美に呼ばれて医務室にやってきた、狩畑(かるはた)二尉というベレーをかぶっている研究員の女性と、この医務室の担当医らしき男が教えてくれた。
「で、そのシンクロイザーって……」
肝心の質問をしようとしたその時だ。スピーカーから警告音と放送が流れる。
「警告、警告。魔機(マキ)、接近。」
「もうここが見つかったの!?」
狩畑二尉が叫んだ。さらに、緊張した顔で医師を問いただす。
「……滝斗君は出撃できる!?」
「検査の結果、脳や体には異常ありませんでしたが…」
「じゃあ、シンクロイザーを発進させて!」
「は、発進って、どうすれば……」
「もうっ!」
狩畑二尉がイラついてデスクをたたく。おどおどしながら、普美が口をはさんだ。
「私が誘導します。」
「……それしかないわね。」
普美につれられて僕は、廊下を走った。その間にも、何度か激しい振動が伝わってくる。魔機とやらの攻撃が始まってるらしい。
僕は、普美の後について「始動室」と書かれている部屋へ飛び込んだ。
そこには大きな座席があって、その先にシュートのような入り口が見えた。1人乗りのジェットコースターを連想した。
普美に促され、僕は座席に座る。と、普美が僕のひざの上に座った。
「ちょっ……なにやってんだ!」
「シンクロイザーはこうしないと動きませんから。」
「そもそも、シンクロイザーって、何!?」
言ってるうちに、座席が射出された。
それはまさにジェットコースターだった。しかも、安全ベルトはない。
座席はものすごい勢いでパイプラインの中を落下していく。
「うわああああああああっ!」
僕は恐怖に駆られて、普美にしがみついてしまった。
成熟途上の女の子らしい髪や肌の匂いと、華奢でやわらかい感触が膝からから手から頭から、全身に感じられた……ような気はしたが、喜んでる余裕はない。
「ああっ、それはまだ早っ……」
普美の声が聞こえているうちに、ドンと下からショックがあって、座席の下降が止まった。今飛び込んできた入り口が閉じていく。
そこは機械室……そういうイメージの場所だった。ランプだとかメーターだとかが、薄暗い中にあることがわかる。だがハンドルだとかスイッチだとかが見当たらない。
膝の上に乗ってる普美が言った。
「シンクロイザーのコクピットです。キーを解除して、始動してください。」
「ど、どうやって……」
「えっと……もう!」
普美は一瞬、躊躇したように見えた。が、意を決したように、顔を後ろに向けて、僕に……僕の唇に、触れるだけのキスをした。
その瞬間、周囲でランプがパパパパと点灯し、機械的な音声が聞こえた。
「ユニット、プロト3を確認。パイロット、時田滝斗を確認。シンクロイザー、始動。」
「で、シンクロイザーって、何!?」
エンジン音を尻下に感じつつ、唇を放して悲鳴のように怒鳴る。
「魔機と戦う合身操機です!」
「合身操機て!?」
「平たく言えば、巨大ロボット!」
そんな会話をしている間にも、
「カタパルト始動、シンクロイザー発進!」
という音声が聞こえ、前から激しいGがかかって、普美の背中が強く押し付けられてきた。前方にあるモニターに発射口の様子が写り、それが後方に流れていって空が見えた。
とたんに、自分が乗ってるシンクロイザーとやらが、空へと射出されたことを悟った。
「ちょっと! ハンドルもペダルもなしでどうやって操縦するんだよ! 落ちるーっ!」
「私が操縦装置です。シミュレータとおなじようにしてください!」
「だから、憶えてないんだってば!」
頭は憶えてなかった。が、体が憶えていたらしい。僕はその両手を、普美の、Aカップのふたつの胸の上に置いていた。普美の口から声が漏れる。
「あっ……もっとやさしく……ですぅっ!」
焦りと恐怖から、僕は力いっぱい、普美の小さな胸を握り締めてしまっていた。
そうすると、シンクロイザーは背中のロケットエンジンを激しく噴射していた。
「な、なんか憶えてるみたいだ……こうだっけ?」
「ああっ、お願いやさしくっ!」
左手で胸を軽く揉みしだき、右手は指で普美のお臍の下あたりをなぞった。
「はう、んあっ……」
普美の声とともにGがゆるくなり、シンクロイザーは地面に着地した。
モニターを見ると、ここはどこかの山の裾野らしい。森が見えるが、このあたりは広い草地だ。
いそいで周囲を見回す。見慣れないもの……角の生えた巨大な悪魔のような影が見えた。
「魔機です! 撃破しないと……」
「どうやって!?」
魔機と呼ばれたそれは、シンクロイザーと同じくらいの大きさのロボットだ。機械の尻尾を振り回してこちらに突進してくる。
僕はとっさに、普美の内ふとももを手の指でなぞった。
「ひぃっ!」
普美の体に力が入ると同時に、シンクロイザーは走り出す。なるほど、普美の体と何らかの形で「シンクロ」しているらしい……ならば。
わきの下に手を当て、指を動かす。
「やん、くすぐったい!」
まさに間合いに入ったばかりの魔機のボディに、シンクロイザーの拳が叩き込まれていた。
「よし、わかってきたぞ。」
だが魔機はシンクロイザーの足に尻尾を巻きつけ、転倒させた。
「うわぁっ!」
激しいショックを受けつつ、僕は普美を抱いてかばった。
「あ……」
普美がこっちを見たが、そんなことにかまっている場合じゃない。いそいで普美の足の付け根……女の子のもっとも敏感な場所だということは忘れていたけれど……に布の上から触れた。
「はひぃ! そこはっ、まだ……っ!」
普美が涙目になって叫ぶ。が、シンクロイザーは起き上がった。
「もう一発だ!」
少し湿ってきたやわらかいそこを、布の上から指で刺激する。
「はぁっ、はひぃんっ、だめぇ! こんなの、だめぇ!」
そして、右へくいっと指を食い込ませた。
「かひはっ!」
シンクロイザーが右の回し蹴りを魔機に叩き込む。魔機は衝撃で片膝をついたが、口をあけるとミサイルを撃ってきた。
あわてて普美の両手を掴んでクロスさせる。シンクロイザーの腕でミサイルが爆発し、後ろへ吹き飛ばされた。
「物理攻撃だけじゃだめだ……何か武器は無いのか!?」
普美は荒い呼吸を整えながら必死に言う。
「お、音波砲が……」
「どこに!?」
「お口の中……」
僕はとっさに、左手の人差し指と中指を普美の口の中に突っ込んだ。普美の唾液がまとわりつき、舌や頬の動きが手に伝わってくる。僕はそれを指でかき回した。痛めないようにやさしく。
「はっ、ふふひへっ!」
普美が、悲鳴ともつかない悲鳴を上げながら、僕の指をしゃぶりだした。くすぐったいような、甘いような、不思議な感覚が指先から脳に伝わってくる。
「まだか?」
そうだ、普美の体の中がまだ熱くなりきっていない。
僕はとっさに、普美のスーツの前にあるジッパーを下ろした。Aカップの胸が露出し、下半身も薄い茂みが顔を出した。
「い、いやはあっ! 恥るか……ひいっ!」
首を横に振る普美を無視して、右手をその隙間から下半身に突っ込む。じっとりとぬれた粘膜の感触が、右手の指に伝わってきた。それをやさしく、前後に動かす。
「もふ、もふ、もふぁぁぁっ!」
左手も、口の中を歯の裏から舌の横までなぞった。
もう少しだ!
そして、右手がもっとも敏感な突起を探り出し、その皮をむいて、指ではさんだ瞬間……。
「いにゃはぁああああああああっ! ゆるひれぇぇぇぇ!」
普美の叫びとともにシンクロイザーは口から強烈な音波を照射した。それは魔機へと伸びていき、魔機を振動させ大分解させた。
「お、おわったのか……」
呆然とモニターを見る僕。その腕の中で、半裸の普美が、脱力して半開きの唇からしずくをたらし、肩で息をしている。二人とも汗まみれだ。
コクピットに、電子音声が流れた。
「ミッション、コンプリート!」
「普美って、もしかして僕の彼女?」
帰還して、シャワーを浴びながら、僕は尋ねてみた。すると、隣のシャワー室から普美のけらけらと笑う声が聞こえた。
普美……本名・プロト3は、シンクロイザーの操縦装置として作られた3体目の合成人間だという。ただ触った…いや、抱いた感触はまるで人間の女の子と変わらない……。
プロト3という呼び方が機械的なので、彼女に「普美(プミ)」という愛称をつけたのは僕らしい。
シンクロイザーの操縦は微妙な捌きが必要となるため、機械操作だけでは難しいのだとか。そこで、ファジー理論で作られてる人体型の操縦装置が使われるとのことだけど……。
「今までも、僕はこんなことを君に?」
「今まで、滝斗さんはシミュレータで訓練してました。直接に触られたのは今日が……初めてです。」
最後のほうは声が小さくなった。
でもそのシミュレータにバグがあり、爆発事故が起こって、そのために僕は記憶を失ったようだ。
とりあえず、頭は忘れていても体は憶えているものだ……ということを、僕は実感した。
僕は先にシャワー室を出たが、この施設内のことはほとんど憶えていない。普美に頼らないと、どうやら自分の部屋にも行けないようだ……しかたないので、更衣室の前の廊下で待つことにした。
しばらく待っていると……普美とは色違いのスーツを着た、でももっと起伏があって僕と同年代っぽい、キツい目つきの女の子が歩いてきた。
「グズ滝斗……初陣とはいえ、さっきはずいぶんブザマな戦いぶりだったわね。」
「えーと、君は……」
「ああそうか、記憶喪失ってるんだっけ。プロト2よ。」
「すると、君もシンクロイザーの?」
「うるさいわね!」
プロト2は急に不機嫌になった。
「アンタはプロト3の方がお気に入りなんでしょ。ああいうちんちくりんのないぺたをいじくるのが趣味なんでしょ、このロリコン!」
「はぁぁぁ?」
記憶喪失になる前の僕に、いったいこの娘と何があったんだ? かなり険悪な関係だったような気がする……。
そこへ、狩畑二尉がやってきた。
「プロト2、滝斗君を混乱させないで。今は微妙な状態なんだから。」
「ふん!」
プロト2は、軽蔑したような視線を僕に向けて、立ち去ってしまった。
「さて、今日はなんとかなったようだけど。」
狩畑二尉は、ため息をついて僕を見た。
「最後の訓練が、まだ終わってないのよね。」
「最後の、訓練ですか?」
「シミュレータは壊れちゃったし……上層部では、君にお金を渡して風俗にでも行かせようってことにしてるみたいだけど、それだと予算が……」
「風俗って……どういう訓練なんです!?」
「プロトを絶頂状態にする……ひらたく言えばイカせるための訓練よ。」
「はぁぁぁぁ!!!?」
── つづく
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