「足、もう少し開いて、腰を突き出すのよ」
「えっ……」
ためらいながらも、俊雄はゆっくりと足を開き、言われたとおりに腰を突き出した。
自分で、自分の一番恥ずかしい部分を、よりさらけ出す形になる。
「そう。よく見えるわよ」
陽子の声が、俊雄の羞恥心をさらにあおっていく。
次の瞬間、ポケットのあたりで何かが光った気配がした。
「動かないでね」
陽子がスマホを構え、少しニヤッと笑う。
カシャッ。
静かな会議室に、シャッター音がやけに大きく響いた。
俊雄は、反射的に股間を隠したくなる衝動にかられたが、両手を上げたまま、姿勢を崩さなかった。
(ああ、写真まで……)
証拠として残ってしまったという事実が、恥ずかしさより先に胸を締めつける。
これで、自分はもう完全に陽子の手の中だ──そんな感覚が、じわじわと広がっていった。
「まあ、恥ずかしい格好。あなたも見てみる?」
陽子はスマホの画面をのぞき込み、それからゆっくりと俊雄の前に差し出した。
画面には、ドアの前で両手を上げ、腰を突き出して立つ自分の姿が、そのまま切り取られている。
自分の痴態を他人の目線で突きつけられた瞬間、俊雄は、もう後戻りはできないと悟った。
会議室で陽子に堕ちたあの夜から、二人の関係は俊雄に地方への転勤辞令が出るまで続いた。
地方に移ってからは、仕事に追われる日々が始まり、やがて安らぎを求めて結婚もした。
出世、育児、家のローン。気がつけば、陽子のことはすっかり記憶の奥底に沈んでいた。
それが──「あのこと」の一言で、鮮明に蘇った。
「忘れたなら思い出させてあげるわよ」
陽子のどこか冷静で余裕のある口調は、二十年前とまったく同じ高さと、同じ温度をしていた。
研修会議室で自分を見下ろしていたあのときと同じように、陽子の視線は一切ぶれずに俊雄だけを射抜いている。
変わってしまったのは、自分の方なのかもしれない──。
そう思った瞬間、胸の奥で、封じ込めていた何かが静かにきしむ音がした。
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