「鎌田くん、レポートまだでしょ。このままだと合格点はあげられないわよ。私も少し手伝ってあげるから、残りなさい」
研修レポートの出来しだいで、その後の配属先が決まる。
新人にとってはもちろん、初めて教育係を任された陽子にとっても、いい加減なものでは済まされない大事なレポートだった。
「わかりました。よろしくお願いします」
表向きは真面目にうなずきながらも、胸の奥では別の感情が跳ねる。
「私が贔屓してると思われるのも困るから、第一会議室で待ってて」
「は、はい」
陽子から個別で見てもらえる。
その事実が、配属先についての不安よりも嬉しい。
その気配を悟られないように、俊雄はできるだけ表情を引き締めて返事をした。
陽子は、教育係を進めるうちに、三人いる男性新人の中でも、次第に俊雄をよく見るようになっていった──ように、当時の俊雄には感じられた。
他の二人は、いわゆる優等生タイプだ。
マニュアルどおりにきちんとこなし、質問にも模範解答を返してくる。
教える側としてはやりやすいのだろうが、どこか“予定調和”のようにも見えた。
その点、俊雄は少し不器用で、反応も表情もすぐ顔に出る。
失敗して青ざめる顔も、ほっとして緩む顔も、全部見透かされている気がして、余計に意識してしまう。
講習のたびに向けてしまう自分の視線を、陽子が痛いほど分かっていることも、薄々感じていた。
もし彼女が何か仕掛けてきたら、自分はきっと抗えない──そんな予感すらあった。
まだ数人の社員がフロアに残っている時間帯だったが、俊雄は第一会議室で陽子を待った。
ドアの外で気配をうかがったあと、陽子はゆっくりとその取っ手に手をかけた。
扉が開く音がして、俊雄は振り向いた。
陽子は、すでに私服に着替えていた。
日中のタイトなスーツとは違う、柔らかい素材のブラウスに、落ち着いた色のスカート。
研修のときに感じていたぴりっとした空気は影をひそめ、代わりにどこか艶っぽい雰囲気をまとっている。
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