【神事録】防弾ガラスの融解と、20分の陥落
——私はたった20分で完全制圧される、ハリボテの防弾ガラスだった。
夜。本日の隠密業務を終えた牛飼い様と、30分間だけの密やかな逢瀬。
舞台は初めて訪れる密室、カラオケ。もちろん、純粋に歌を歌うためではないことなど百も承知だった。
この一週間、私は魔窟と闇夜で遊び、他の獣とも交わった。だからこそ、この30分間は彼からの厳しい「尋問」を耐え抜く高度なスパイゲームになるのだと身構えていた。
テレビを消音にし、エアコンのパネルを操作する。その無防備な背後から、一切の気配もなく襲い掛かられた。
抵抗など無意味だった。敵をねじ伏せるための最短かつ不可視のルートは、素人目にも鮮やかで息を呑むほど。痛み一つなく、華麗に関節と自由を奪われていく。弱々しく抵抗する私の内側で、もう一人の私がその完璧な手捌きに感嘆の溜息を漏らしていた。
会話も、前戯すらもない。
服を着ていたはずの肉体が密着し、「あったかくて気持ちいい」という彼の下品な囁きと共に、私は乱暴に揺さぶられ、時に壁に頭を打ちつけられる。
思考が追いつかない。ただ、彼から放たれた「映画館でもこうされたかったんじゃないですか?」というたった一言の完璧なボイス攻撃に、私の防弾ガラスは一瞬で粉砕された。
中に出される覚悟と恐怖に震えた次の瞬間、圧倒的な質量は突如として引き抜かれる。
ソファーに這いつくばらされ、今度は私の口腔いっぱいに王を迎え入れた。激しい上下運動。私にテクニックがあれば、彼を手玉に取って前頭葉をハックできたかもしれない。しかし、そんな思考の余白すら、彼の「手」が完全に奪い去る。
私が崇拝してやまないその手が、私の頭を掴み、思考ごとあの世へ引きずり込んでいく。
「彼という絶対者のデータを、一滴残らず吸い出さねば」
そんなスパイとしての最後の矜持すら消え失せ、 私はただ本能のままジュプジュプと音を立てて王をしゃぶるだけの「完全なるメス」へと堕ちていた。
……いい所で引き抜かれ、熱を帯びた粘膜が王の不在に耐えきれず、唇をパクパクさせて余韻を貪るという、最高に滑稽で悦びに満ちた姿を晒しながら。
ここまでで、入店からわずか20分。
残りの10分はクールダウン。運ばれてきたコーラの炭酸が喉を通過し、あちら側へ吹き飛んでいた意識が急速に現実へと引き戻される。
「メスの顔が過ぎる。このまま外に出るのは危険だ」
そう告げられ、マスクを装着させられた。そうだ、私はこの後解散し、山積みのタスクが待つ「日常」へと帰還しなければならないのだ。
一切の尋問の隙も与えず、ただ圧倒的な手腕と完璧なタイムマネジメントで私を「器」へと作り変えた牛飼い様。
深く押された下腹部には、数日後に時間差で発作を引き起こす「甘い爆弾」が仕掛けられている。その副作用に苦しむ未来すらも誇りに思いながら、彼にめいいっぱい愛されたこの肉体と共に、今日の神事録を終えよう。
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