「そうそうお前ら見た?課長、さつき上着のジャケットを脱いでたの見た?」
「えー?知らない、何それ?」
「あーっ課長のソレ私見たわーっ スカートの珍しさよりもビックリしちゃったわっ。やっぱり…アレ気付いた?」
「課長の上着の中、結構なノースリーブだったんだよな〜っ、しかもっ!…結構透けててさ」
「そうそうっ マジで結構ブラウスが薄くて中まで透けてたのよね〜」
「マジでぇ?俺も課長のブラジャー透けてるの見たかったなあー!」
「それがブラジャーが透けてたんじゃなかったのよ〜っ!」
「ん?ん?どういう事?何が透けてたんだよ?」
「それが…オッパイよ…っ!乳首までしっかり透けて見えてたのよっ!」
「そうそう!最初見間違いと思ったけど…課長ノーブラだったんだぜ!」
「でしょっ!アタシもはっきりと見たわよっ、胸の形どころか乳首まで透けて見えてたのよっ、見間違いじゃないわっ!」
「だよな!しかも手で隠す素振りもしないで、両手を頭の後ろで組んでたからバッチリだったんだぜ」
「ウッソ〜っ何で教えてくれなかったんだよ〜俺全然気付かなかったんだよ〜」
昼休憩時、食事で集まった業販課の一部の連中がヒソヒソと面白おかしく美鈴の噂話しに盛り上がっている。
その輪の中には伊藤理香も加わっており、皆の噂話しの様子を伺っていたが、誰かが理香にも話しを振ってきた。
「ねぇねぇ、そういえば伊藤さんもいたよね?伊藤さんは気付いた?」
普段は真面目を装い、こういった話題には積極的でない理香は、あくまでそんな話題には興味が無い振りをしつつ
「アタシは課長がどうだったかなんて細かいとこまで気が付きませんでしたけど…確かにノースリーブだったのは…少しどうかと思いましたけど…そういえば朝、課長を偶然見掛けたんですけど…」
皆が美鈴の話しで盛り上がる中で、理香はあくまでも自分は興味無い素振りをしつつ油を注ぐ発言をする。
「…そういえば朝、課長を〇〇線の◯◯駅で見かけたんですけどぉ…あの〇〇線の1番ホームで電車待ってたの見かけたんですよねー、朝の通勤時間のあそこって普通…」
「え〜っ?課長、あそこから乗ったの〜?!普通、女だったらあそこからは乗らないわよっ!痴漢被害で有名じゃん、マジで課長がそこから乗ったのっ?」
美鈴の話題で盛り上がっていた場は、理香の発言によって更に火が点く。
「それってマジで課長だったの〜!見間違いじゃない?」
「いえ、間違い無いですよー、そういえば駅のホームでも事務所と同じように上着脱いましたねぇ」
理香は、自分は興味無いという振りをしながら、皆の興味を煽り続けた。
「オイオイ…マジかよ?あのオッパイ透け透けの格好で?あのホームから乗ったって事なのかよ?」
「…ちょっと信じられないわ…そういえば課長、今日珍しくスカートだったわよねっ」
「だとしたら課長…マジで痴漢の恰好の餌食じゃん」
「ねぇっ伊藤さんっ、その後はどうだったの?見た?」
「さぁ?私が見たのはあの1番ホームの中に課長がいたのを見ただけですねー、その後は知りませんよー でも、あんなとこから乗るなんて…まぁその後どうなるかなんて自業自得じゃないですかねぇ?」
理香ははっきりとは言わなかったが、暗に美鈴がどうなったかは皆には間違いなく伝わったであろう。
「そうよね〜さっきのあの格好の課長が、あんな所から乗ったら正に自業自得よね〜…てゆうか、もしかして課長…わざとかしら…?」
「だよなぁ、もしかしたらわざとかもしれんなー」
「だったら課長…ひょっとして、そういうのが好きな人なのかも…?」
「そうそうっ、そういう性癖…?ってヤツかもね」
「きゃーっマジぃ?マジで課長…そうだったらヤバいわよぉ〜、なんか今後から課長を見る目が変わっちゃいそうだわ」
「だよね〜、幻滅って言うか…興味津々かも!」
「そうそうっ 私も気になる〜っ」
その場の理香は、美鈴に対して勝手に話しを盛り上がっている皆を眺めつつ
(あ〜あ…みんなで好き勝手に盛り上がっちゃって…課長が聞いたら卒倒するんじゃないかしらっ…)
そして、その頃お昼休憩を別で取っている美鈴は、
「…さっきは…どこかスリルにハマっちゃってたかも…危なかったわ……でも大丈夫よ、上着脱いだのは絶対バレてないはずよ
…」
勝手な思い込みをする美鈴だったが、無理にでもそう思い込んで自分を納得させるしかなかったのであった。
が、現実は…
その後の午後、美鈴だけが気付いていない。
皆がチラチラと美鈴に気付かれないように視線を向けていた事を。
それは美鈴に対して、(もう一度そのジャケットを脱いで…)と願っているものばかりで、その視線は今までのような上司に対する尊敬の念とは違うものであった。
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