山之内未来音〈やまのうち みくね〉は全国シェア第2位を誇る山之内書店、創業家のご令嬢だ。
未来音は羞恥心が強く表に出ない目立たないタイプだが、さりげない他人への気遣いや、配慮に長け、人懐っこい一面がある為、男女共に人気が高い。
両親には幼少期からピアノ、書道、水泳と習い事に通わされ、厳格な祖父から厳しく作法教育を受け、物静かで大人しい古風な性格が形成された。
母親は厳しく一流のお嬢様教育を受けさせられながらも父親は一般社会との交流を重んじた教育を望み、中学生時代には敢えて一般的な中学校に通っていた。
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しかし一般社会に溶け込んだ生活とは思いのほか簡単な事ではなく、中学生の頃の未来音にはいい思い出ばかりではなかった。中学高では既に未来が山之内書店の令嬢だと言う事は知れ渡っていた。
それに加え、山之内家が現在窮地に立たされた状況だと言う事も世間では有名な話だった。
その事を懸念した両親は周囲に令嬢、裕福な生活と言うイメージを連想させない様に努めながら未来音を通わせた。
中学での未来音は人柄は大人しくお淑やかで、周囲に気が利く優しさがあり、特に上級生の女子からは妹の様に可愛がられた
時には一部の親から悪い噂を植え付けられた生徒達が未来音をイジメにくると彼女達が未来音を守った。
同じクラスの楠本葉音里〈くすもと はおり〉もその一人だ。
葉音里はショートカットでボーイッシュな明るい女の子で運動神経がよく、男勝りでクラスの女子にも頼られる存在だった。
男子生徒にさえ、すぐ手を出し喧嘩する。
真面目な子だが、気性がすごく荒く短気で命令されたりする事を嫌い、気に食わない事があると無意識に手が出た。
一般的な生活に慣れていない未来音は、その事を理解し、優しく教えてくれる葉音里がを慕って習い事のない日はいつも葉音里の家に行き遊んでいた。
未来音の全てを一流に育て上げたかった母親は葉音里と一緒にいる時間を酷く嫌い反対したが、父、康介は世間に馴染むいい機会だ、経営において一般社会を知る事は非常に大事な事だと未来音に
「それも授業の一貫として学んできなさい。だけども未来音は真似してはいけないよ」
と言って許した。
葉音里の両親は離婚して母親しかいない。
未来音はそう言う家庭がある事もそこで初めて知った。
スマホゲーム、他の友達と大勢でするゲームも、葉音里が部屋着にジャージを着る事、15時におやつの時間がない事、習い事に行かない事、寝ながらお菓子を食べる事、エアコンは風量少なくして扇風機を回した方がお金がかからない事、足の指だけで靴下を脱ぐ方が楽な事、全てが新鮮で楽しい時間だった。
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