ハンドバック作りは思うほど、簡単ではなかった…うまく型紙が出来てなかったせいか、イメージ通りに合ってくれなくて、修正ばかりでなかなか進まない。
試行錯誤しながら夢中になっていると、ダーン!
ダダーン!!と地響を感じる様な大きな音がした。
思わずカーテンを開け外を見ると、眩しいくらいの緑とピンクの火花が丸く静かに散った後、遅れてまたダーン!と大きな音が鳴った。
「わぁ。綺麗…」
続けてヒュルル〜と光の筋がもっと高い位置まで上がりパッと弾けるように、緑色の光の粒が散ってさっきの倍くらいの球体を作った
ダーン!
真っ暗の公園が一瞬明るく照らされた。
「わぁ…すごーい」
毎年恒例のお祭りで公園の表通り側はたくさんの出見世が立ち並び、池の近くに設置された小さなステージでカラオケ大会が行われる。
花火の打ち上げは、このお祭り一番の見せ場で池の周りから1000発を10分程度で打ち上げ、打ち終わりと同時にお祭りが終わる。
夏の恒例だったが、猛暑の影響を受け、近年は秋に行われていた。
チラシは目についていたけど、今日とは知らず、思いがけないサプライズだった。
私は久しぶりにベランダのガラスを開け、時間も忘れて花火に目を奪われていた。
打ち上がる度に「わぁ」「すごーい」と声を上げ、笑顔になる。
そして3本の光の筋をポカンと口を開いたまま目で追った。
ヒュルル〜と一番高い位置まで上がり、スッと消える。
その直後、静かに光の粒が弾け、今日一番の大きなオレンジ色の花火が3つ重なり開いた。
公園は昼間の様に照らされ、パチパチパチパチと音を立てながら花が散るように光が落ちて花火は終わった。
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最後の花火が公園を照らした瞬間…途切れた生垣の上に靴らしい物が見えた。
ここから、生垣まで、せいぜい7,8メートルくらいしか離れてない為、2階からなら靴のサイズくらいの物はよく見える。
あの日、片方だけ無くした靴はパパが大学合格祝いにくれたお気に入りのベージュのバレエシューズ。
後日、ベランダから生垣を見た時は、あそこには何もなかった…
本当に無くした靴かな?
誰かが見つけて置いた?
公園管理の人?
片方だけになったバレエシューズはあの日の出来事の戒めとして捨てずに片方だけ置いたままになっている。
嬉しい気持ち半分、奇妙で怖い気持ち半分。
本当に無くした靴かどうか確認してみたい…
数秒考えた後、お気に入りの靴だし、見つかったのなら嬉しい事だからと部屋を出て裏口へ歩いていった。
裏口を出て生垣へ向かう…
普段は暗く人通りのないこの道も、お祭り終わりでこの辺りの住宅街の住人がちらほらライトを揺らしながら、私と逆方向にすれ違っていく…
足早に人の流れに逆行してた私は足は急にかけられた言葉に硬直した。――――――――――――――――――――――――――――
私に気づいて声をかけてきた人…
「おー美月ちゃんじゃない、最近は見かけないねーどうしたの」
笑みを浮かべて声をかけてきた人はマキちゃんのお父様…
生唾をゴクリと飲み込み、唇が震え言葉が出ない…
「また戻るの?忘れもの?」
マキちゃんのお父様は忘れ物をして公園に戻ると思っているらしい…
靴の事?あの時無くした事知ってる?
一瞬どう言う意味かわからず混乱する。
言葉の詰まる私に立て続けに話してくる。
「あんな遠い所から歩いてきたのかー」
「え…あ…はい…」
マキちゃんのお父様は私が一人暮らしと言う事を知らないから実家から来たと思ってるんだと理解できた。
それにしても、あの事に触れずにどう言う事だろう…忘れてる?
そんなはずない!
謝って秘密にして欲しいと伝えなきゃ…
そう思い、私は思い切って口を開いた
「あ、あの時は…す…すみませんでした。」
聞こえないくらいの声量になっていた。
「ん?あの時?あの時ってどの時?」
とマキちゃんのお父様は笑みを浮かべながら返してくる
「え?あ…その…」
忘れてるの?あんな大変な出来事…
どう言わけかはわからないけど、マキちゃんのお父様はあの日の事を忘れてる…
「はっ…ごめんなさい…なんか私…人違いで勘違いしました」
「ははは、なんだ美月ちゃん、おじさんビックリするじゃないか」
と、どう見ても、あの事を知ってる反応には見えない。
続けてマキちゃんのお父様は言う
「この辺は人通りがないから、そろそろ真っ暗になるから、早く帰った方がいいよ」
「あ…はい…お気遣いありがとうございます。」
間違いない…私、実は見間違え?
私、パニックで勝手に思い込みで勘違いしてたのかも…
「それじゃ気を付けてね」
とマキちゃんのお父様が手を軽く上げて背中を向けて歩いていった。
「お…おやすみなさい…」
と私はマキちゃんのお父様の背中を暫く見つめた後、ハッと靴の事を思い出して生垣の隙間まで向かった。
「あっ!」
あった…やっぱり…私のバレエシューズ…
なんでこんな所に?
私は靴を拾い上げ、靴を見回した。
不可解な感じに素直に喜べないまま、マンションに戻った。
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