ガチャリと810のドアを開ける。手前にバスルーム6畳の部屋が2つ奥にリビング兼キッチンがある。
間取りは貴子の部屋とさほど変わりはない。
「手前のへやはつこうてないから・・・」
奥の部屋まで進む二人・・・
「ホンマにいいの?」
「・・・・・」
コクリと貴子がうなずく、ジャケットを脱ぎシワにならないようハンガーにかける立花、
「貴子さん・・・・」
「貴子・・・呼び捨てで呼んでください・・・」
貴子が両手を腰の後ろで組みうつろなうるんだ目で立花をみる。
「貴子!」
強引にベッドに貴子を押し倒す。貴子は押し倒されてもなお腰の後ろで組んだ手をほどこうとはしない。
「貴子!」
今度は両手を高く上げ両手首を重ねる貴子・・・・立花が貴子の熱い荒い息を吐くつややかな唇を奪おうとした瞬間!貴子が立花を渾身の力で突き飛ばした!
「立花さん!違います!違うんです!」
「これは、私の望んだ憧憬ではありません!!」
貴子は立ち上がり、ぼろぼろと大粒の涙が貴子の目からこぼれ落ちる・・・
「ごめんなさい・・・立花さん・・・でも、立花さんなら私の事分かってくれると思いました・・・」
立花は突然の貴子の変わりように唖然として言葉が出ない。
「今日はとてもうれしかったです!!!でも!これは私の憧憬じゃないんです!違うんです!!」
「私の待ち望んだ憧憬ではありません!!」
「分かってください 立花さん!」
「もっと私を把握してください・・・お願いします・・・」
「かえります・・・ごめんなさい・・・」
貴子は嗚咽を漏らしながら玄関に向かうバタンとドアが閉まる音がしてシンと静まり返った部屋に立花が取り残される。
貴子が自宅に帰ると母親はもう寝ているのだろうか・・・家の中は静まり返っていた。
自分のベットに飛び込む様に倒れこむ貴子。
「ごめんなさい。立花さん・・・」
スカートを捲り上げショーツの中に指を入れる。そこは十分すぎるほど濡れていた。
「立花さん・・・」
シーツを噛み少女のころからそうしているように声を押し殺し自慰を始める貴子。クチュクチュと淫靡な音と貴子の荒い呼吸の音だけがしずかに部屋に響く。
一方、そのころ立花はベランダでタバコを吸っていた。時計の針は12時をまわり3本目のタバコに火をつける。ひどく失恋した気分だった。上手くいってたのに最後で獲物に逃げられた犬か猫の気分だった。
「なんやん一体・・・くそっ!」
貴子への憤りの言葉ではなかった。なにか自分に貴子が失望した。その何かに気が付かなかった自分の憤りだった。
「だいたい・・・どうけい?ってなんやねん!」
「初めて聞いたわ・・・北海道の警察の事か?絶対違うな・・・」
スマホで”どうけい”と検索してみる 憧憬{あこがれること。 心が奪われ、うわのそらになること}
「なんやねん!しるか!」わかるか!」
もう知らん・・・ベットに入り布団をかぶっても頭をよぎるのは貴子の事ばかり、最初、ビクビクしながら電車で隣に座ってきたとき。やがて嬉しそうに隣に座るようになった時 今日のスーツ着てる俺を見たとき・・・
頭の中から貴子が消えない。
「ああっっ!もう!」
時刻は午前3時を回っていた冷蔵庫を開け缶ビールを取り出し一口すする。酔える気がしないが少し落ち着いてきた。
「しかし・・・いったいなんやったんや・・・」
上気した顔、うるんだ目で見つめる貴子の光景が鮮明に思い出される。手を後手に組み胸を反らした貴子が思い浮かぶ。
次に両手首を頭の上で重ねた貴子が思い浮かんだ。
(あの格好・・・まるで縛られてるような・・・あっ!!)
「それかぁ!?マジかて・・・絶対わからんて・・・貴子ちゃん・・・」
言ってくれたら・・・違うな。言えるわけない・・・だから、ああゆうポーズ・・・身体で示したんや・・・
「ワシもまだまだ修行が足りんな・・・」
職人である立花が仕事で失敗したときの口癖が思わずでる。そうと分ければ明日から次の勝負や・・・
「知らんけど・・・」
考えが当たってるかどうか、わからないために思わず「知らんけど」と言ってしまったが立花の目は輝いていた。
つづく
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