相変わらず佐々木先輩は俺のもとに付きまとってくる。学食で昼飯食ってる時も「ねえ木村くん」って話しかけてくる。もはや俺は全てを打ち明けるまでは、佐々木先輩から逃れられないのか。
俺はそう思い、一週間経った月曜日の放課後、意を決して、「この間のことで話がしたい」と、佐々木先輩をあの体育館の裏に呼び出した。
「話す気になったんだ。悩みがあるなら教えて?私が何か力になれることがあるかな?」 いつもの元気そうで明るい口調ではなく、とても真面目な口調で佐々木先輩は言った。
一方の俺は少したじろいていた。どこまで秘密を知っているのかわかんない。もし秘密がバレたらと思うと…。
僕は話せずにしばらくその場に立っていた。それでも佐々木先輩はこの場に留まっていてくれた。
何分ぐらい経っただろうか。俺はついに秘密を打ち明けることを決めた。
「いやぁ、バレていましたか。先輩にはかなわないですね。
確かに、闇を抱えているといえば抱えてます。
僕、実はドMで、年上の彼女がいるんですけど、その人によくサンドバッグにしてもらってるんです。とても運動神経が良くて、『運動神経分けてくれ』と言ったこともあります。」
佐々木先輩の反応は意外なものだった。
「なんだ。その程度なら可愛いもんじゃんか。私はてっきり『親にDVされてるのかな』とか『悪い仲間に取り込まれたのかな』とか心配しちゃったよ。」
佐々木先輩はいつもの明るさを取り戻した口調でそう言う。
僕は「ごめんね ありがとう」とこぼしてしまった。佐々木先輩は「でも良かった。部活の後輩が嫌な思いをするのは私だって嫌だ。あなたを心配するのは当然」と言ってくれた。
その日の帰り、いつものように谷口家に寄った。だけど誰もいなかった。俺は宏美が今日大学のサークルの集まりでキャンパスに行くのを完全に忘れていたのだ。朝メールで言っていたが、色々考え事が多すぎて忘れていたんだ。
「そっか。今日は宏美に会えないのか。」
あいつは何を思ったか軽音楽のサークルに入っていて、バンドを組んでいる。漫画研究部も楽しかったし、佐々木先輩という僕のことを心配してくれる先輩にも出会えた。でも、軽音楽部に入っていても良かったかもな〜なんて思ったりもする。
俺は宏美が好きだし、宏美にサンドバッグにされる時間は、はっきり言ってめっちゃ幸せな時間だと思う。
自慢じゃないが俺はそこそこモテる。いや、結構モテる。それでも俺はいつも告白を断り続けてきた。それは俺に宏美という彼女がいるからだ。
宏美の前では普段のクールな雰囲気を捨てて、ドM男でいられる。「本当の俺を見せられる相手」には今日、佐々木先輩が追加された。俺が素の自分でいられる人が、学校での知人にも1人ぐらい居ても問題ないよな。
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