玲
「ここの大家さんも今の方を気にって下さり、審査もOKですって。」
「契約書を今日持っていくよう言ってあるんだけど。」
浩二
「えっ、別に明日でもいいじゃん?」
「なんでそんな急ぐ必要があるの?」
玲
「別件で家の売却を検討されている知り合いがいると言っていたから、その情報も伺った方がいいかなと思ったんだけど…。」
会社のスケジュール板をチラッと確認する…
玲
「家の売却の話だし、あなたに行ってもらった方がいいと思うけど大丈夫?」
浩二
「ダメダメ。朝言ったじゃん。夕方は、この間購入した競売物件の管理組合の集まりがあるんだよ。」
「情報だけ聞いといてよ…」
「あの大家さん話し長いし、玲が行った方が早く終わるよ。」
玲
「うん。分かった。情報だけもらっておくね。」
もちろん、予想通りの返答だった…
旦那の予定も、あの大家さんは話し好きで時間がかかるのであまり会いたがらないのも知っていた。
玲は、あえてやんわりと自分も行きたくないオーラを出して、旦那にお願いしたことで
自分がこの後、やむを得ず外出して遅くなることを印象づけるためにした会話だった。
玲は娘の元に歩み寄る。
玲
「ひまりちゃん、ママまだお仕事終わらないから、ジィジとバァバの言うことちゃんと聞くのよ」
「今度の連休は、みんなでお出かけしようね。」
ひまり
「うん。分かった」
玲
「では、義父さん宜しくお願いします」
玲の心の中
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「ダメなママでごめんね…」
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そう言い残して、急いで外に出た…
車に乗り込むとショートメッセージを入れた…
「近くだと誰かに見られる恐れがあるので、2つ先の駅のロータリーに行きます。」
そう入れて車を走らせた…
しばらくすると、ご主人様「了解」とメッセージが入ってきた…
玲は、2つ先の駅のロータリーに到着した。
頭の中ではあの音声データのことがグルグル回っていた。
到着した旨と場所をメッセージ入れ、しばらく待った。
するとご主人様が助手席側の後部座席に乗り込んできた。
一瞬で玲に緊張が走る…
誰に見られるか分からないので、すぐにでもこの場を離れたかった。
ご主人様
「社用車で来ると思っていたから一瞬分かりませんでしたよ。フフッ」
「いい車に乗っているのですね。フフッ」
遅くなることを覚悟して、そのまま直帰することを考え、普段玲が乗る車で来ていたのだ。
旦那の趣味であろう、奥さんにとっては大きすぎる高級外車のSUV型の車だった。
まるで高級ホテルにでも来ているような高級感が溢れる内装。
通常は7人乗りできる仕様を4人乗りと贅沢な仕様にカスタムされており、
後部座席も広々空間が広がっていた。
玲は、真っ先に先程の音声のことを聞きたかった…
でも、グッとこらえていた…
玲
「先に大家さんに契約書を渡しにいきます…」
そう伝えると、無言で車を走らせる…
ご主人様もあえて、会話をせず、音声データにも一切触れなかった…
大家さんのマンションに到着し、玲は契約書を持ち大家さん宅に1人向かった。
ご主人様もあの大家さんは話好きだから、しばらく待つことを覚悟していたが、
すぐに玲は戻ってきた…
ご主人様
「思いのほか早かったのですね。フフッ」
「話好きな方だから長くなるかと思ってましたよ。フフッ」
玲
「えぇ、何か手が離せない用があったみたいで良かったです。」
小さい声で答えた…
でも、本当は違った…
玲は嘘をついて断ったなのだ。
お茶を用意するから上がりなさいと言われることは分かっていたので、
大家さんからその言葉が出る前に、玲は先手を打っていた。
「先ほど、保育園から、子供が熱を出したから早く迎えに来てほしい」
と連絡があった旨を伝えた。
流石に、その理由だと引き留める訳もなく
契約書を渡すだけで逃れてきたのだった。
再び、無言で車を走らせる…
どこに向かっていいか分からなかったが、とりあえず急いでマンションから離れたかった…
ようやく、ご主人様が口を開いた…
ご主人様
「フフッ、何をそんなに焦っているのですか?フフッ」
「あなたの頭の中は、さっきの音声データの事でいっぱいなんでしょうね。フフッ」
「それでも、自分から中々切り出せないって感じですか…」
まさにその通りだ…
ルームミラー越しに、ご主人様と目があったが、咄嗟にそらした。
ご主人様
「フフッ、分かりやすい人ですね。」
「あなたが知りたいこと教えてあげますね。フフッ」
「私は人間観察と人の心を読むのが趣味なんですよ。フフッ」
「先ほども説明しましたが、義理の両親と同居、子育て中…。」
「このワードを聞いた時点で、笑顔が素敵な奥さんが、どんな本性を隠し持っているのか興味を持ったんですよ。」
「最初から連れを辱めるのが目的でなく、あなたを辱め、その反応をみるのが本当の目的だったんですよ。フフッ」
「だから私は、ずっとあなたを観察していたんです。フフッ」
「ここまでは、さっき話した通りです。」
「あの日、私たちの変態行為を前に、欲求不満な奥さんは、私の予想通り、間違いなく興奮していた…」
「むしろ私の予想を超え、人のセックスを覗き見し、仕事中にオナニーまでしていました。フフッ」
玲は、顔を真っ赤にして俯いていた…
玲
「そ、それはもう聞きました…」
ご主人様
「フフッ、早くしろという催促ですか?フフッ」
「まぁ、いいでしょう」
「覗き見している最中に突然携帯が鳴り、オナニーは中途半端に終わってしまった…」
「その時、私は思いました。」
「ド変態な奥さんが、このまま不完全燃焼のままで満足するのかな?って」
「でも、家には保育園の娘さんがいて、2世帯住宅で義理の両親とも同居し、自分の自由になれる場所がない…」
「夫婦の営みも、相手があることだから確実に発散できる訳ではない…」
「では、この欲情してしまった欲求不満の体を、一体、どこで発散するのか?フフッ」
「私は内見中、ずっと考えていました…フフッ」
「そして助手席に置いてあったあなたの大きいバッグからネックピローが見えていました」
「きっと、奥さんはリラックスできる時間を日常的に車の中で作っていたのかなと推測しました。」
「ご自宅も職場も常に家族がいますからね。」
「だとすると、きっと欲求不満の発散場所も車かなと推測したんです。」
「そして、内見終了の時間から1回会社に戻って、また車に向かうのは怪しまれる…」
「であれば、内見が長引いたなどの理由をつけて、興奮が残っている間に、この車で続きをすると予想したんです。フフッ」
「だから、この車にスマホのボイスレコーダーをONして、降りる際に運転席の座席の下に隠していきました。フフッ」
「そして、翌日、連れにスマホを失くしたので探させてほしいと取りに行かせたんですよ…」
「ちょうど、旦那さんが対応してくださったみたいですよ。フフッ」
「それが、あなたのオナニーの音声データの秘密です。フフッ」
玲は、びっくりと言うより、あまりの推察力に怖さを感じるほどだった…
まさしく、その通りだった…
一人になれるリラックス空間は車の中だった…
仕事の合間とか、時間が少しできた時に有効に使っていた…
玲は言葉が出なかった…
しばらく、沈黙が続いた…
玲
「そ、それで呼び出した、用件はなんですか?」
平静を必死に装っているが、玲は緊張していた…
どんな言葉が返ってくるのか…
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