(確実に誰かがいた!)
何者かが私の喘ぎ声を聞いていたことを確信した舞は純平との通話を一旦切り、脱ぎ散らかした服をさっと着用した。
アダルト用のおもちゃをすぐに洗面所で洗い、クローゼットの上段に置いてある、礼服の黒のバッグの中にしまった。
舞のおもちゃの隠し場所はいつもここだ。
(もしかして旦那?今は仕事に行ってるはず・・旦那に浮気してるのがバレる。)
玄関に向かい、恐る恐る覗き穴を覗く。が、すでに誰もいない。
思い切って玄関を開けてみた。が右を向いても左を向いても誰もいない。いつもと変わらぬマンション玄関からの風景だ。
(旦那だったらどうしよう・・・)
駐車場に行ってみると、旦那が通勤にいつも使ってる車はなかった。
舞はペーパードライバーなので旦那以外に運転するものもいない。
一気に緊張感に包まれた舞は純平にメッセージを送る「さっきは急に切ってごめん。外に人がいて私の声、聞かれてたと思う。旦那が帰ってきてたのかも」
純平「大丈夫?」
舞「わからない。でも人は絶対いたと思う」
その日、舞は腕によりをかけた夕飯を作り、ここ1年以上は使ってないと思われる仕舞い込んでいたホームベーカリーでパンを焼いた。
子供は学校から帰るなり、焼きたてのパンの匂いに大喜びし、連れてきた友達たちにもそれを振る舞い良い母、良い妻を心がけた。
いつも帰りの遅い舞の旦那の悠太(48)は、営業畑の人間で、管理職になってもう長い。
正義感が強く少し短気なところがたまに傷だが、基本的にはお人好しで、仕事仲間や、友人を大切にする真面目な男だ。
会社のシステムが大きく変わったこともあり、あまりパソコン作業が得意ではない悠太は土日も職場に行って、システムの移行作業に伴う終わりの見えない業務をこなしていた。
帰りはいつも24時を回ることも多く、家に帰ると舞の作ったご飯も食べずに部屋着に着替えてベッドに入る。
スマホゲームを少ししたら眠りについてしまう。職場で軽く菓子パンなどで腹を満たしているようだった。
当然、子供との交流はなく、子供部屋で舞はいつも我が子を抱きしめて寝ているのだった。悠太が帰ってきた音を聞いても、おかえりとも言わずに、また眠りにつくのだった。
朝になると舞はバタバタと子供を起こし寝ぼけ眼の子供を励ましたり、叱咤したりしながら、口煩く身支度を進めさせる。
悠太は舞の忙しない朝のそれを、うるさそうにしながら起きると、シャワーに直行し、身支度を整えてまた会社に向かうのだった。
完全に夫婦の会話は全くと言っていいほどなく、家庭内別居状態となっていた舞の家庭。どこにでもある不仲な夫婦。
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