吉本今日子は、会社を一度は出たが、帰り間際の久美子と義雄の会話が気になって引き戻って来た。
もう誰も残っていなかったので、会議室のドアの前まで行って聞き耳を立てていた。
断片的に会話が聞こえて来るが、はっきりとは聞き取る事が出来ないので、少しイラつきながら、
「何を話してるのよ。でも、いつもなら久美子(同期なので)の怒声でも聞こえてくるかと思ったら、様子が少し変だわ。」
久美子の声は、いつもと違ってか細く聞き取りづらかった。
「許して?久美子が謝ってる?」
今日子は、益々内容が気になってきた。
もう少し集中しようとしていた時に足音が聞こえてきて、ドアに耳を張り付けて置くわけにもいかないので、会議室の前を通り過ぎる仕草をしたところで、
「お疲れ様です。まだお残りですか?」
見回りの警備員に声をかけられた。
「あ、もう少しで帰りますから。」
「もう、他には残っておられないですね。」
「い、いえ、まだ会議をしてる者が。」
「あ、そうですか。では、最後の方は消灯お願いしますね。」
「は、はい。わかりました。」
今日子は、何とか警備員を追い払うと、再び会議室のドアに耳を付けた。
「ああん、何話してるのかしら。」
上手く聞き取れないままに足音が近付いて来るのを感じ、
「あっ、出てくるわ。」
今日子は、慌ててドアから離れて駆け出していた。
※元投稿はこちら >>