…外へ飛び出していった。
自分も帰るつもりで、薄暗い廊下に立ち竦んでいた真由美は、どう対処していいのかわからないま
ま、悄然とした顔で、六畳間に座り込んでいる浩一のほうに目を向けた。
「あーあ、 帰ちゃったたよ。あの人も気が小せえくせに、好きなんだからな。この前のあんたと
のことが、よっぽど気に入ったらしくてな、上司風吹かして、俺に頼み込んできたんだよ」
座卓の前で缶ビールを不味そうに呷りながら、独り言のようにいって、
「気分乗らねえから、あんたも帰っていいよ」
と吐き捨てるように、言葉を足してきた。
「ご、ごめんなさい。私が悪いのだったら謝るわ」
図らずも奇妙な立場に陥った真由美だったが、こちらに岩のように丸くて大きい、岩のような背中
を見せている浩一の後ろ姿に、いつもにはない寂しげな雰囲気が出ていたので、
「私は…あ、あなたがいい」
と真由美は思わず口に出していってしまった。
自分をおぞましい姦計に嵌め、凌辱の限りをし尽くし、今も好き勝手な時に真由美を呼び出し、気
ままに弄んできている浩一だったが、この時の浩一の丸い背中には、女の母性のどこかを擽られるよ
うなうら寂し気な雰囲気が漂っていたのだ。
小さな子供が親の前で拗ねているように、真由美には見えた。
数分後、真由美と浩一の二人は、浩一の寝室になっている六畳間にいた。
真由美のほうから誘い込むようにして、その室に入ったのだ。
敷きっ放しの、饐えた汗の匂いが沁みこんでいる布団に、浩一はバツの悪そうな顔をして、大きな
鮪のような身体を仰向けにしていた。
着ているのはTシャツだけで、下の短パンとトランクスは、真由美の手で脱がされていた。
こんもりと肉の塊が盛り上がった浩一の太腿の間で、黒地のワンピースを脱いだ真由美が、蓑虫の
ように身を屈め、浩一の股間の漆黒の茂みの中に顔を埋めていた。
真由美の口の中深くに含み入れられていた浩一のものが、最初は力なく項垂れていたのだが、真由
美の口と舌の愛撫で、まるで別の生き物のように、膨張し硬度を高め出してきているところだった。
浩一の会社の上司とかいう、坂井という男が目を泳がせてここから退散していった時、真由美も同
じように、浩二から逃げることはできた。
そうしなかったのが何故なのか、当の真由美自身にもわからない行動だった。
真由美自身は気づいていないのだが、最初に犯された時から二ヶ月以上が経過し、その後も週に一
度はここに呼び出され、若さの漲った性の吐け口のように虐げられているうちに、女の本能として、
身体知らず知らずの間に、自分の意思に関わらず、妖しくも馴染んでしまっていて、心が引き摺られ
るように順応してs待っているのだった。、
真由美は自分自身のことは、それほど賢い女だとは思ってはいなかった。
遠い九州の片田舎の、貧しい漁師の家の三女として生まれ、高校卒業してから、当時、まだ多少は
残っていた集団就職のようなかたちで、この街にある大きな紡績工場に就職した。
だがオイルショックや紡績不況で、その会社が倒産してしまい、貧しい田舎に戻ることもできず、
真由美は種々雑多の職業を遍歴して、社会の底辺を生き抜いてきて、知人の女性がやっていた小さな
居酒屋で皿洗いとして勤め出し、本人自身は気づいてはいない、美貌と性格の明るさから、いつの間
にかカウンターの中に入るようになり、酔客の相手をするようになった。
若い頃には働くのに精一杯で、恋愛経験も深いところまでいったことがないままだったのが、タ
クシー運転手をしていた、飲みに来てもあまり騒がない朴訥そうな男性と、同じ九州出身ということ
で、何となく意気投合し、ついに結婚式を挙げないまま、夫婦としての契りを結び、男の子一人が生
まれ、どうにか裕福ではないが、人並みの生活が過ごせるようになった。
これで平凡でも、一生がつつがなく終わればいいと思っていた矢先、人のいい夫が長く友人関係に
あった知人の借金の連帯保証人になってしまい、挙句、その知人は報いを受けたように、車の交通事
故であっけなく他界してしまい、夫のほうに五百万円の連低債務が生じた。
毎月十万円以上返済は、タクシーの給料だけではおぼつくものではなく、夫はタクシー勤務が休み
の時も、近くの建設会社で土工となって働いた。
スーパーのパート仕事に出ていた真由美は、勉強はあまり好きではなかったが一念発起して、社会
福祉士の資格を取り、市内の老人ホームに勤務することになった。
人柄の明るい真由美は、ヘルパーからケアマネを経て、そこの事務所の施設長まで昇り詰めていた。
だが、夫のほうが仕事の無理が祟ったのか病に倒れ、胃癌の宣告を受けてから四ヶ月ほどであっけな
く他界してしまった。
社会福祉士の資格を取るための勉強も、夫と生活のために必死になっただけのことで、真由美は自分
に人並みの教養や知性があるとは微塵も思ってはいなかった。
「ま、真由美…」
真由美の丹念な愛撫を受けていた浩一が、大きな手を身体の下にいる真由美の頭に伸ばしてきて、低
い呻き声を挙げてきた。
「お、お前が…ほ、欲しい。お前のを…み、見せてくれ」
そういわれて、真由美は自分の身体を起こし、自分の下腹部を、大きな山のような浩一の胸と腹を跨
ぐようにして、浩一の顔の前に移動させた。
真由美の顔は、浩一の股間の漆黒の中に埋もれたままだった。
浩一が慌てた動作で、真由美の黒のショーツを脱がせにきていた。
「す、すげえ。真由美、ぐちょぐちょに濡れてるぜ」
浩一の驚いたような声が耳に入ったかと思うと、すぐに分厚い舌の感触が、真由美の剥き出された、
最も敏感な箇所に伝わってきて、
「ああっ…」
という悶えの声と同時に、浩一の身体の下のほうで、汗の滲み出て上気した顔を大きくのけ反らせて
いた。
その強烈な刺激は、真由美の脳髄にまで、まるで電流のように早い速度で伝わってきて、真由美の気
持ちを一気に、発情期の牝犬に変幻させていた。
自分よりもはるか年下の若者の、荒々しい舌の愛撫に、真由美は何度も声を挙げて悶え続けた。
「ね、ねえ…も、もう早く入れて」
せがむように真由美は、細い身体を捩じらせて、浩一に訴えるようにいってきた。
乱暴で荒々しい浩一の愛撫に、真由美は官能の深い奈落へ、瞬く間に滑り墜ちていた。
「お、俺の上に跨れ 」
浩一も興奮の度合いが増してきているのか、息を荒くしながら、真由美に指示してきた。
真由美が細い上体を起こし、身体を浩一の顔に向き直して、細長い足を広げながら、太い腰の
上に跨った。
真由美の股間の真下で、浩一の硬直し切ったものが真上に向かって屹立している。
「は、恥ずかしいわ…こ、こんな」
「自分で入れるんだよ。ブラも取ってな」
「ひ、ひどい人。こ、こんな恥ずかしいことさせて」
「お前が俺を淫乱にさせる」
真由美の両手が背中に廻って、黒色のブラジャーのホックを外しにかかっていた。
細い身体に不釣り合いなくらいに、膨らみの豊かな乳房が零れ出るように露出した。
額や細い首筋に汗の滲み出ていて、赤く上気した顔で、真由美は骨細の細長い手を、大きく開
いた自分の股間のほうに持っていった。
下げ下ろした手の指が、浩一の固く屹立しているものにすぐに探り当てた。
浩一の屹立を握り締め、自分の手で、浩一の唾液と自分の胎内から溢れ出た愛液で、すでに激
しく濡れそぼった自分の箇所へ、その先端を誘って、上体をゆっくりと沈み込ませていった。
「ああっ…」
赤く上気した顔をのけ反らせるようにして、真由美は興奮と歓喜の入り混じったような、熱の
ある声を漏らした。
露わになった乳房が、堪えきれない悦びを告げるように、左右に激しく揺れ動いた。
「そ、そのまま…自分で尻を動かすんだ」
「そ、そんな…は、恥ずかしいこと」
「やるんだっ」
「は、はい」
真由美は浩一の腹の上に両手をついて、突き刺されている臀部を、自らの意思でゆっくりと上
下させてきていた。
白い臀部が上がる時も下がる時も、真由美の口から喘ぎと悶えの声が間断なく漏れ出た。
「いい顔だぜ、真由美」
「ああっ…」
目が霞んだようになって、目に入る何もかもが朧に見えた。
自分より三十以上も、年下の男のものとは思えないくらいの心地のいい刺激が、真由美の全身
を瞬く間に、快感の坩堝に引き入れていた。
それは若い浩一のほうもそうで、分厚い唇を歯で強く噛み締めて、何かに必死で堪えているよ
うだった。
浩一のグローブのような大きな手が、真由美の激しく揺れ動く乳房の両方を掴み取り、握り潰す
ように揉みしだいてきて間もなく、
「ああっ…だ、だめだっ…」
浩一が汗で滴り濡れた、丸い顔をくしゃくしゃに歪めて、喉の奥から絞り出すような低い声で断
末魔の声を挙げた。
真由美のほうも、浩一の一際高い咆哮の声に呼応するように、細く尖った顎と細い首をのけ反ら
せて、間欠的な悶えの声を挙げて、そのまま上体を浩一の岩のように固くて広い胸の上に倒れ込ま
せていた。
短い陶酔の時間に、暫くは浸るのだったが、元々がお互いに好き合っての関係でない分だけ、そ
の余韻は短く、真由美はすぐに慙愧と悔恨の思いに陥るのだった。
暗く沈んだ顔で身支度を整え、玄関口に立った真由美を、Tシャツ一枚だけの身なりで、浩一が
苦笑の表情を浮かべて見送りにきた。
「今日はすまなかったな」
と坊主頭に手をやって、バツの悪そうに詫びの言葉を言ってきたので、
「私、あの人は嫌い。縄で自分を縛って虐めて欲しいとか、ベルトでぶってほしいとか…」
とそれだけを言い残して、空気の少し冷え込んだ外に出た。
人がすれ違うのには、少しばかり幅の狭い階段を、重い足取りで降りる真由美の脳裏に、息子
の雄一と出掛けたレストランでの、思わず息が詰まりそうになるくらいの、驚愕の人物に遭遇し
たことが思い浮かんできていた。
間違いなく、あの男は…真由美にとっては、誰よりも何よりも思い出したくない、今井洋二だ
った。
真由美の細身の身体に、一層の冷気が襲いかかってきているようだった…。
続く
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