水分補給と尿意の症状を同時に覚えたので、僕は畳から立ち上がり、便所に
向かった。
用を足して台所へ向かい、冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを
取り出し、かなりの量を喉奥に流し込む。
尼僧の長文日記を読むと、若い僕の身体の中の排泄装置が、いつも活発にな
る。
読み出した尼僧の日記の五月二十五日分は、まだ連綿と続く。
流し読みの感じでは、年齢も若く背も高い尼僧のほうが、祖母に甘えていき、
祖母も愛の行為を交わす時々の展開で、尼僧の大柄な身体からの淫靡な愛撫に
屈して、小さな裸身をのたうち回らせられる場面を、かなり具体的に、そして
詳細な表現で描写しているようだ。
冷蔵庫の前で、僕は突拍子もない想像をして、思わず知らずにぞくぞくとし
た気分に襲われた。
祖母と尼僧の二人を、僕が同時に虐め虐げるという、起こりうるはずのない
艶めかしい構図が、ふいに浮かび上がったのだ。
今、身体を動かすとその発想が、どこかに飛散してしまいそうな気持になっ
たので、僕はそのまま冷蔵庫の扉の前の板間に、体操座りをして、ふいに湧き
上がった歪で情欲的な想像に思いを巡らせた。
二人を同時に虐げる場所は、前に尼僧が日記に書いていた、陽も差し込まず、
薄暗い寺のがらんとした本堂だ。
僕の頭の中で淫猥な場面が展開する。
場面設定の理由の説明はいらなくて、僕が古い仏像の前の外陣付近で、淡い
肌色の袖頭巾と、白足袋しか身に付けていない尼僧を四つん這いにして、背後
から荒々しく突き立てている。
僕と尼僧の前の、内陣付近の太い丸柱に、祖母の色白の小さな裸身が、赤い
縄でぐるぐる巻きにされて、悲しく空しげな目で、僕と尼僧の動物的な絡み合
いを見つめている。
無体な裸身の祖母のすぐ前に、男が一人、こちらに背中を向けて座り込んで
いる。
上着を脱いだ、白のYシャツとズボン姿の男だ。
こちらを振り返った顔を見ると、古村だった。
冷蔵庫の前に座り込んだ僕の妄想は、その場面の設定条件までは考えない。
と、僕に後ろからつらぬかれている、尼僧の喘ぎの声を凌駕するような、短
い悲鳴のような声が、がらんとした薄暗い本堂の中に唐突に響いた。
丸柱に括りつけられた祖母の声だった。
古村の顔が、祖母の剥き出しの下腹部に、へばりつくように接近していた。
見ると、祖母の小学校の高学年の少女のようにいたいけない、白い片足が古
村の手で担ぎ上げられ、白いYシャツの方の上に載せられていた。
祖母の恥ずかしく割られた股間の中に、古村の顔が深く沈んでいる。
細い首を激しく左右に揺り動かせて、祖母は空しいのたうちを繰り返してい
た。
「ああっ…も、もう」
声を挙げたのは袖頭巾一つで、僕に細い背中の肌を見せている尼僧のほうだ
った。
「こ、こんなところで…わ、私、恥ずかしい」
尼僧の袖頭巾の端の布地が、背中で止まることなく揺れ動き続けた。
「で、でも…い、いいわっ…とても」
尼僧の背中で揺れる袖頭巾が、ひとしお激しく揺れ出してきていた。
尼僧を我武者羅に突き刺している、僕の胸の鼓動も激しくなり出してきてい
た。
堪えようとして顔を上げた僕の目と、丸柱に括られている祖母の目が、磁石
のような強さで合致した。
「ゆ、雄ちゃん…」
下腹部に古村の執拗な責めを受け、切なげに、悲し気に小さな白い顔を歪ま
せながらも、僕の名を呼んでいるような気がした。
祖母のその後の口の動きが、
「ごめんね…」
といっているように僕には見えた。
祖母の前の古村が急に立ち上がった。
忙しない動作で、穿いていたズボンを脱ぎ、休む間もなく祖母の身体に密着
していった。
祖母の少女のような片足を持ち上げる。
古村の剥き出しになった腰が、妖し気に動いた。
「ああっ…」
細首をこれ以上ないくらいに大きくのけ反らせて、祖母がのたうつような高
い咆哮の声を挙げた。
その祖母の唇を、古村が激しい勢いで塞ぎにいった。
「ううっ…」
祖母は声にならない声を挙げて、陶酔に深く浸かるかのように黙った。
古村の頭でよく見えない、祖母の女の悶えの顔を思い浮かべた僕に、絶頂の
兆しが一気にきた。
思わず尼僧の剥き出しの臀部の肌に、両方の手の爪を突き立てるようにして、
夢幻夢想の境地の渦の中に、声一つ出せないまま埋没した…。
冷蔵庫の前で、我に返ったようなポカンとした顔で、薄暗い空中のどこかを
見つめていた。
体操座りだったのが、いつの間にか胡坐座りになっていて、片方の手が短パ
ンの中に潜り込んで、固形物のようなものを強く握り込んでいた。
ほんの少し前、全身がひどく熱くなり、どこかの部分が暴発しそうになった
のを、僕は思い出し、一人で意味もなく苦笑した。
もう一つ思い出したことがあった。
祖母が隣村に行くといって家を出たのは、確か昼前後のはずだ。
そして祖母は、隣村の駅前で古村の出迎えを受け、親しげに肩を寄せ合って
どこかに消えた。
僕は冷蔵庫の前で立ち上がり、自分の室ではなく、洗濯機のある脱衣室に入
った。
洗濯機の中を覗き込んだ時の僕の目は、多分、発情期の雄犬のようにぎらつ
いていたと思う。
洗濯機のドラムの中には、タオル二枚の他に、白色の小さな布が二つあった。
一つは白のブラジャーで、もう一つが白のショーツだった。
二つの白い布を、僕はわし掴むようにしてドラムから出した。
目の前に翳しただけで、仄かな女そのものの、少し甘酸っぱい匂いが、僕の
鼻孔を襲ってきた。
そのまま白い布二つを顔に押し付けた。
自分は何をやってるんだろう、という思いが頭の中を過ったが、すぐにどこ
かに消えた。
祖母の、女そのもの匂いが、僕の顔面の皮膚に沁み込む。
洗濯機の前に、暫く僕は立ち竦んだ後、両手でブラジャーではない、小さな
布を柔らかな包装紙を広げるようにして、ゆっくりと開いた。
真っ白な柔らかい布地の一部分に、薄黄色く細い線が入っているのが見えた。
難しい言葉でいうと、欣喜雀躍の気分に僕は陥っていた。
僕の鼻孔に漂い残る、女の匂いの根源が、このショーツの黄色い沁みにある
のだと僕は思った。
その二つの小さな布を手にして、僕は自分の室に戻った。
冷蔵庫の前で夢想した興奮が、その時以上に僕の下半身に襲いかかってきて
いた。
目に何か実体的な刺激が欲しいと、僕は思った。
畳にあったノートパソコンに手を伸ばし、一昨日の夜にスマホからコピーし
ておいた、写真画像を、僕は焦り震える手で、画面上に引き出した。
あの竹野が以前に、祖母がいつも行く椎茸小屋の周辺で撮った、何枚かの画
像を思い出していたのだ。
慌てた動作でアップ画面にする。
椎茸小屋の入り口の板戸の前で、絣模様の野良着の片襟を大きくはだけられ、
片方の乳房が露出している画像が、最初にあった。
祖母の片手が、露出した乳房の下に卑猥げに添えられていた。
板戸の前の画像は、もう一枚続いてあって、今度は野良着の下がショーツと
一緒に足首まで引き摺り下ろされ、股間の漆黒周辺が露呈されている。
野良着の上も当然はだけ、乳房の膨らみの丸い輪郭がはっきり見える。
小屋の裏に生えている一本の高い木があり、その木に祖母が縄で括りつけら
れている画像が出た。
板戸の前と同じように、野良着の上ははだけられ、下は足首まで引き摺り下
ろされた格好で、縄で雁字搦めにされている。
最後の二枚は、畑の草むらで祖母が、小便を恥ずかしく垂れ流している画像
だった。
身体の正面から撮った画像に、祖母の剥き出しの股間から、小便の飛沫が飛
び出ているのがはっきり見えた。
それらの画像のどれもが、祖母の顔が無表情で、何か自己陶酔にでも浸って
いるように、僕には見えるのだが。
畳に寝転がり、短パンとトランクスを引き摺り下ろし、手には祖母の黄色の
沁みの付いた白のショーツを握り、もう片方の手を慌てふためくように動かし
続け、数分後、僕は小さな呻き声とともにあえなく轟沈していた。
五時半過ぎに、祖母からメールが届いた。
(ごめんなさい。今夜は帰れません。冷蔵庫と鍋におかず用意してあるので、
温めて食べてください。)
何だよ、始めから泊ってくるつもりだったんじゃねぇか。
声に出して僕は祖母に悪態をついた。
こうなったら、あの古村という男のこと徹底的に調べ、追及してやる、僕は
心に誓い、中途半端な時刻だったが、興奮の後始末を終え、転寝の世界にまど
ろみ込んだ。
あの、古村の野郎、と寝込む前に呟いたかどうかは、僕は知らない…。
続く
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