「あ、あなたを…地獄に堕としたくないから…わ、私」
涙の跡を頬に残した、半泣き顔のような顔で、祖母はそういって、僕の首に細く
て白い両腕を巻き付けてきた。
身体には、今は何も身に付けていない。
祖母が色白の顔に、悲しさと切なさを織り交ぜたような表情を浮かべて、観念の
意思表示を見せてから数十分が経つ。
時計の針は午前一時を廻っていた。
襖戸の前から、祖母が全身を竦めるようにして項垂れている布団に戻り、僕が最
初に取った行動は、祖母の両肩を抱き、何げに顔を上げてきた、祖母の唇を僕の唇
で塞ぐ行為だった。
澄んだ瞳に突然の驚きの表情を見せて、力のない両腕で、祖母は僕の胸板を押し
てきたのだが、それが儚く空しい抗いだったということは、着ていたもの全てを脱
がされてしまっている、今の祖母の状況で一目瞭然である。
僕が祖母の唇を、何の前触れもなく塞ぎにいった時もそうだった。
僕が祖母の口の中に差し入れた時も、歯にも舌にも抗う素振りはほとんどなかっ
たのだ。
パジャマの上下を、少し震え気味の手で脱がしにかかった時にも、然したる抵抗
はなかったのだが、さすがに真っ白なショーツに手をかけた時は、二本の足を強く
閉じようとする恥じらいを見せた。
「こんなに奇麗な身体を前に、地獄になんか堕ちるわけがない。」
片手で祖母の乳房の左側の、年齢をまるで感じさせないような、ほっこりとした
張りの感触を、僕は何度も確認するように撫で擦っていた。
十六真っ最中の若者のすばしっこさと、要領のよさをどこで発揮したのか、当の
本人もよく知らないのだが、自分が着ていたTシャツと短パンが、布団の横の畳に
散乱しているのが見えた。
「ね、ねぇ…ゆ、雄ちゃん、こんなことしてて、あ、あなた…、ほんとに後悔し
てない?」
汗の滲み出している小さな顔を、切なげに歪ませて、祖母は下から僕の顔に目を
向けていってくる。
「その話はもうしないって…」
僕が上から睨みつけるような表情をすると、
「ああ、そうね。ごめんなさい。…そ、それとね、雄ちゃん。お願いがあるの」
「何、お願いって?」
「あ、あのね、も、もう今から私のこと、婆ちゃんって呼ばないでくれる?」
「じ、じゃあ、何て?」
「自分で考えて…」
左の乳房を不器用な手つきでまさぐっていた僕の手が、自然に流れるように祖母
の右側に触れていくと、祖母の表情が途端に変わった。
虚ろに閉じ加減だった目が、深く閉じられ、汗に濡れた額に、何かに堪えるよう
な皴が何本か出ていた。
祖母の女の身体の、最も過敏な箇所だというのが、僕にも改めて納得できた。
女性体験が今が初めての僕だったが、祖母が切なげに喘ぎ出した顔の美しさを見
て、僕はまるで一人前以上の男になれたような錯覚に陥っていた。
それはしかし、結果的には、祖母の目の動きや顔の表情や、それとはなしの手で
の誘いに、僕が狼狽えながらも、どうにか便乗でき、形が整ったというのが正解の
ようだった。
そこは優しく触ってとか、優しく舌でとか、キスしてとか、行為の要所要所での
さりげなく、つつましい声掛けで、僕はどうにか焦ることもなく、祖母が恥ずかし
げに開いてくれた両足の間に、身体を向けることができたのだった。
祖母の絹のように滑らかな肌に触れた時から、弱冠十六で、まだ女性を知らない
僕の下腹部のものは、いつ暴発してもおかしくない状況に常時置かれていたのが、
よく堪え凌ぎ、その先端を祖母の身体の中心部に、添え当てるところまで到達して
いた。
だが本当の到達への道はこれからなのだ。
思わず気持ちを昂ぶらせていた僕に、布団に仰向けになった祖母が、
「あ、慌てなくていいのよ。…ゆっくりね」
と目の端に笑みを浮かべて、天使のような優しい声掛けをしてくれた。
[ああっ…]
祖母の余韻のある喘ぎ声が、僕の耳を打った。
僕のものの先端が祖母の身体の中に、最初は少し滑るような感じで、そしてその
後は、温かな湿り気を内包した膜のようなものの中に、きつく締めこまれる感じの
まま深く沈んだ。
僕自身も声を挙げたくなるような、至福感に全身を包み込まれる感じがした。
祖母の胎内に沈んだ自分のものが、早い間隔で脈打っている気がしたが、何か目
に見えない力が作用しているのか、暴発寸前の状態はどうにか保持できているよう
だった。
「ああっ、ゆ、雄ちゃん…いいわ。気持ちいい」
「ばぁ、あ、違った。ぼ、僕もだよ。は、初めてだ、こんなの」
「ゆっくり、優しく、ね」
夢見心地というのはこの時のことをいうのか、と僕は思った。
「いいっ…ほ、ほんとにいいわ」
知らぬ間に自然な動きで、自分の腰がゆっくりとだが、前後に動いているのを僕
はあるところで気づいた。
そしてどれくらいの時間が経過したのか、僕にはわからなかったが、その未知の
激情は、僕の全身を突然に襲ってきた。
正しく怒涛の襲撃だった。
「あっ…ぼ、僕っ」
それが僕の断末魔の叫びで、その時の祖母のことなどは、何一つの記憶がないと
いうのが正直な感想だった。
僕はそのまま、下にいた祖母の小さな身体の上に、沈み込むように倒れていった。
意識までなくしてはいなかったので、両手の肘を布団につけて、自分の体重が祖母
にかからないようにして、姿勢をそのままにしていた。
祖母の温かい息が頬に当たって気持ちがよかったのと、汗がうっすらと滲み出てい
る祖母の身体から発酵してきている匂いが、僕の動きが故意的なほど緩慢になってい
たからだ。
「大丈夫?」
と気遣うような祖母の声で、僕はようやく身体を動かし、祖母の真横に仰向けに寝
転んだ。
「心臓が止まるかと思った」
荒い息のまま、僕は天井に向けて本音を呟いた。
「あなたがね、上にいる時、私、ずっとお祖父ちゃんに抱かれているような気がし
てたの。だって、あなたの何もかもの動作や顔の表情が、お祖父ちゃんと瓜二うな
んですもの。血なのかしらねぇ…」
祖母が薄暗い天井板の、まだ奥のほうを見てるような、虚ろな目をして独り言のよ
うに呟いた。
僕は祖母のそんな感傷的な言葉にはあまり反応は見せず、自分が男になった証の、
今しがたの祖母との、目くるめくような行為の詳細を思い出していた。
祖母の唇の滑らかで柔らかな感触。
折れそうなくらいの細い背中や、さらさらとした新雪の表面のようで、人を安堵
させるような肌の感触。
六十代という年齢を全く忘れさせるような乳房の、小柄で華奢な体型とは不釣り
合いなくらいに豊満で、弾力もまだ充分な感触。
世間どこにでもいる、相応に年齢を重ねた祖母だと思っていた人が、これほどに
女性として魅力のある人だとは、僕は正直思っていなかった。
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