翌朝の祖母との朝食、味噌汁を啜り茶碗を手に淡々と箸を動かしながら、
それとなく祖母の顔の表情を窺い見るのだが、十六の僕には、つつましく
正座して上品そうに口にご飯を運んでいる姿からは、何一つの変化も見い
だせなかった。
僕の、多分当たっている想像だが、祖母は間違いなく、寺のお守り役を
している竹野を訪ねていくのだ。
そしてあのスマホの画像にあったような、淫靡な興奮の坩堝の中へ引き
込まれ堕とされていくのだ。
それも脅迫や恫喝といった、怖い雰囲気があまり感じられない状況で、
祖母は出掛けて行くのに、
「味噌汁のお野菜、残さず食べなきゃだめよ」
と素知らぬ表情で僕を睨みつけてきたりするのだ。
大人ってわからん、と一人ぼそっと呟きながらご飯を掛けこみ、ご馳走さ
まと言葉を返し、僕は室にすごすごと引き込んだ。
夜までの時間が待ち遠しかったが、僕の狡猾な機転がまた目ざとく働いて、
陽の明るいうちに、あの寺の立地状況を明るいうちに調べておこうと思いっ
たったのだ。
寺は祖母の家から、山の斜面に沿った狭い道を二十分ほど歩き、緩やかな
坂道を登った林の中にあり、その周辺に家屋は一軒もない。
子供の頃に祖母に連れられ、何度か遊びに来たことがあり、祖父が亡くな
ってからも墓参りに来ていたので、本堂と庫裏の建物の位置関係は記憶して
いたが、その周辺に平屋風のそれほど大きくはない建物が一棟か二棟あった
ような覚えがあるというくらいで、定かには覚えていなかった。
朝から着ていた白のTシャツを黒いシャツに着替えて、祖母が椎茸栽培を
している小屋に働きに出掛けた後、僕は家を抜け出した。
村の住人に見つからないように、まるで泥棒のように背中を丸く屈めなが
ら小走りに斜面の道を進み、坂道を少し上ると、寺の古びた本堂が見えた。
それほど鬱蒼ともしていない林で、高い杉木立に三方を囲まれていた平地
に、本堂と庫裏が並んで建ち、その横に付属屋的に平屋の瓦葺の建物が、十
メートルほどの渡り廊下で、繋がれるように並んで建っていた。
敷地の前面のほうが普通の住居のようで、山側の建物よりは大きい。
寺に住む人の気配に細心の注意を払いながら、林の杉木立をぬいながら、
奥側の平屋の建物の裏側に廻った。
そのがお守り役の竹野の住まいだと確信したからだ。
建物の裏側はもうすぐ杉木立の林になっていて、建物の腰高くらいに少し
大きめの窓が幾つか並んであった。
この窓のどこかの室で、祖母は竹野という男に縄の甚振りを受け、卑猥に
悶えさせられるのかと、あらぬ想像をするだけで、若い僕の下半身に下品な
反応の兆候が出るのだった。
念のためという軽い気持ちで、僕は寺の住人に見つからないように杉木立
の中をぬって、あの雑貨屋の店主と同級生だという尼僧の人が住んでいると
思われる住居側に行ってみた。
そちらのほうは、杉木立と家の間に竹柵で小さく囲まれた庭があって、大
きさも形も違う石が、芝生のあちこちに不整列に並べ置かれていた。
庭に面するように縁側があり、大きな窓が開け放たれていうのを見て、僕
は咄嗟に中に誰かがいる気配を感じ、少し太めの杉の木の陰に身を潜めた。
息を殺すようにして身を屈めていると、縁側の端から白い袖頭巾に同じ白
の法衣姿の尼僧が、少し早足で歩いてくるのが見えた。
と、そのすぐ後ろを坊主頭の男がのっそりと歩いてきて、何か声を出した。
前を行く尼僧の足が止まるのが分かった。
尼僧は昨日、駅前の雑貨屋で見ていて、女子にしては背が高いのはわかって
いたが、祖母のスマホ画像に少しだけ写っていた坊主頭の男は、意外にも小柄
で細身な体型だった。、
二人がいる縁側と、庭を挟んで木陰に身を屈め潜み隠れている僕との推定距
離は十五メートルくらいだった。
生え伸びたシダ草と杉の幹で、僕の姿は相手には見えないはずだ。
立ち止まった尼僧の法衣の細い肩に、坊主頭の男の両手が掛かり尼僧の身体
の向きが容易く変わるのが見えた。
間髪を置かず坊主頭の男の顔が動いたかと思うと、尼僧と坊主頭の男との唇
が重なっていた。
尼僧のほうに逃げる素振りはないようだった。
唇が激しく重なったまま、二人の顔と顔が左右に激しく動いていた。
僕の喉が一気にカラカラになり、息が詰まりそうになった。
生でこれほどに濃厚な男女の抱擁を見るのは、たかだか十六歳の僕には無論
初めてのことだ。
アダルトビデオで観るのとでは、迫力がまるで違った。
尼僧と坊主頭の貪り合うような抱擁は長く続いた。
目を顔から逸らすと、坊主頭の男の片手が、尼僧の法衣の襟を割って手首の
あたりまで深く沈み込んでいた。
杉の木陰のその場から、僕はもう一歩も動けなくなっていた。
今日までの、まだまだ短い僕の人生の中の驚きで、間違いなく上位にくる驚
愕の光景だったが、この緊張感の中でも、身体の下半身にはしっかりとした男
子の兆候が露われ出ていることにも自分なりに、僕は驚いていた。
尼僧と坊主頭の男の唇がようやく離れると、男のほうが女の身体の向きをま
た前向きに変えたかと思うと、尼僧の着ている法衣の両襟に手をかけいきなり
左右にはだけてきた。
尼僧が恥ずかしげに驚く顔と、色白の両肩の肌と、乳房の丸い膨らみが零れ
るように露呈した。
坊主頭の男の両手がさらに動き、剥き出しにされた尼僧のむっちりとした乳
房を荒々しげに、わし掴むように捉えていた。
尼僧の、いまは蒼白に見える顔が、苦しく切なげに歪むのがはっきり見えた。
坊主頭の男より背が高い感じの、尼僧の剥き出しの白い肩や細い首筋に、男
は下から齧りつくように、顔と口をへばりつかせていた。
坊主頭の男の手が、尼僧の細い腰のあたりで忙しなく動いていて、間もなく
法衣の兵児帯が緩むのが見えたかと思うと、ほとんど同時に、尼僧の両腕から
法衣が滑るように抜け、法衣全部が縁側の床に落ちた。
僕はまた強烈な驚きを受け、目を大きく見張らせた。
尼僧の細身の白い裸身が晒された時だ。
明るい陽射しに晒された尼僧の括れた腰に、真っ赤な色の布地が纏わってい
たのだ。
それが男が穿く褌であることは僕にもすぐにわかった。
細い紐が腰に巻かれていて、ゆったりとした深紅の布地が、剥き出しの股間
を割って長く垂れている。
尼僧の肌の色が白過ぎるせいもあって、その布地の赤い色は、より刺激的で
煽情的だった。
ここで自分の恥をいうのも何だが、若過ぎる僕の下半身は、もうそこに手を
触れなくても暴発寸前状態になっていた。
と、何を思ったか坊主頭の男が、全裸に近くされた尼僧からやおら身を放し、
慌てた素振りで自分が着ている法衣の帯を解き出した。
あっという間に坊主頭の男は、縁側で素っ裸になっていた。
そして両腕で剥き出しにされた肩を抱くようにして、縁側の床に蹲っていた
尼僧の前に、やおら仁王立ちをして、何か強い口調で喋っているようだった。
尼僧がそのままの姿勢で、素っ裸の男の前ににじり寄った。
尼僧の顔の前に、男の剥き出しの下半身があった。
躊躇いも逡巡もなさげに、尼僧は男の下半身から居丈高に突き出ているもの
に、ゆっくりと流れるような動作で、白い指と唇を添えていった。
尼僧が、本来は召使でもあるお守り役の男の発した言葉に、従順な素振りで
傅いていくのだった。
十六歳の、まだ成人もしていない僕の単純でつたない想像の通りに、艶めか
しく淫らな動作を、五十半ばの年齢の熟れた身体を晒した尼僧が、明るい陽射
しに照らされている縁側で、延々と続けた。
数分以上の時間経過があったと思うが、坊主頭の男の低い呻き声が、十五メ
ートル離れた僕の耳にもはっきり聞こえた。
男の片手が、尼僧の袖頭巾を強く抑え込んできている。
坊主頭の男は、もう一度雄叫ぶような呻き声を発して、全身をひどく緊張さ
せ、肌艶のない腰を激しく揺さぶっていた。
ややあって尼僧が、男の下腹部から顔を離した。
その尼僧の唇の端から、白いどろりとした液体が筋のようになって流れ出た
のが、はっきり僕の目にも見えた。
それが何であるのかは、いうまでもないことだ。
二人の大人の男女が、縁側から完全に消えるまで、僕はその場から一歩も動
けないでいた。
予期していなかった巡り合わせで、あまりに強烈で刺激的な出来事を、この
目に深く強く焼き付けられたことで、一歩も身体を動かせなかったというのが、
僕の正直な気持ちだった。
正しく大人同士の肉体の交わりだったことを、思い知らされた体験だった。
今夜また、多分、同じような、いやもしかしたらもっと強烈で、刺激的な場
面に遭遇するかも知れないと思うと、少し尻込みしそうな気持になった。
何といっても僕は、まだたかだか十六歳の少年なのである。
人生八十年として、まだ僕はその四分の一も生きてはいないのだ。
こういう刺激的な体験は、もっと長く人生経験を重ねた上でならと、僕本人
も思うのだが、心のどこか奥のほうで、もっと知りたい、もっと見たいという
恥ずかしい願望があるのも、また間違いのない事実のような気持でいる。
ふらついた足取りで帰宅して、自分の室の畳の上に寝転んだ時、僕の気持ち
は、さらにもっと強烈な刺激を、という淫靡でありながらポジティブな気持ち
が沸々と身体と心のどこかから湧き出てきていることを僕は知った…。
た尼僧は
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