翌日の朝、眠たい目を擦りながら朝食の場に出ると、もう祖母は座卓の前に
座り黙々と箸を動かせていた。
何となく奇妙な空気を僕は感じて、祖母の顔を盗み見ると、ほんとに黙々の
空気そのままだった。
昨夜の長電話のせいなのだと、僕は勝手に解釈して、素知らぬ顔をして箸を
動かせていると、祖母は目も合わせず、
「あなた、いつまでいるの?」
と、この前母親からあった電話と同じ言葉で、そっくりの声で聴いてきた。
「あ、ああ…二十九日か三十日」
そう応えると、
「そんな夏休みの間際でいいの?」
と今度は少し顔をしかめ気味にして、また問い返してきたので、
「何か、婆ちゃん、都合あるの?」
と箸を止めて祖母に目を向けた。
そういえば祖母はいつもの野良着姿ではなく、真っ白なVネックのTシャツにジ
ーンズ姿だ。
「何にもないけど、ここへ来てあまり勉強なんかしてそうになかったし。この
前もお母さんから、電話でいわれてたんじゃない?」
「今時の高校は宿題なんてないんだよ」
少しむかついた顔で言葉を返すと、
「婆ちゃんはいいのよ。雄一がいたいだけいればいいのよ」
そういって、
「婆ちゃん、今日、隣村まで出かけてくるから。役場も寄らないといけないか
ら、六時の最終バスくらいになるかも知れないから…お昼ご飯は用意しとくけど、
夕方お腹空いたら、ラーメンでもして」
と無表情な声で一方的に話題を変えてきた。
「ご馳走さま」
と僕も無表情な声を返して席を立った時、祖母のVネックのシャツから胸の割
れ目がはっきり見えて、僕は一瞬足を止めた。
木の小枝のように細い身体の祖母だったが、胸の隆起はそれとは不釣り合いな
くらいに豊かで、肌の艶やかさも六十代とは思えないほど際立っている。
室に戻り畳に寝転がり、見るともなしにスマホを弄っていて、何げにSMと入力
して検索ボタンを押した。
これまで一度も見たことのないサイトだったが、無数のアプリが羅列されてい
て、どれを覗いたらいいのかわからなかった。
SMの起源や歴史はもういい。
朝飯を食ったばかりの時間帯だというのに、今しがたの祖母の胸の、妙に艶め
かしかった隆起を目にしたせいか、単純な性格の僕の目は、変にぎらつき何かも
や突いたものを求めていた。
SM画像投稿というサイトが目についた。
無数の投稿画像が限りなくでてくる。
縄、鞭、仮面、蝋燭、器具etc…。
何日か前に、この目で直に生々しいSMショウを見ている僕には、それらのどれ
もがSM写真の一枚というだけでしかなく、あまり興奮を呼び起こさせるものはな
かった。
「雄ちゃん、いってくるわね」
玄関のほうから祖母の声が聞こえたので、僕は大きな声で返答し、畳から上半
身を起こした。
立ち上がり室を出て、つかつかと向かったのは、祖母の寝室だった。
自然に足がそこに向いていた。
女の人の化粧の匂いなのか、それとも祖母の女の身体から発酵して出ている匂
いなのかわからなかったが、さっきの幾枚ものSM写真よりは、はるかに興奮度を
高める、祖母の室の空気に、僕は軽い眩暈のようなものを感じながら、壁の隅の
箪笥の小抽斗の前に立った。
整然とまとめて置かれている、祖母のショーツの幾つかを物色する。
白に近いくらいに薄い水色の、小さな布を手にして拡げて見ると、布の中心辺
りに生地の色とは微かに違う色の、ごく薄い黄色っぽい線が見えた。
この室に入った時点からだったが、微妙に疼いていた僕の下半身がはっきりと
蠢くのがわかった。
白のショーツを手にすると、今のと同じでわからないくらいの薄黄色の線が短
くはっきりと見えた。
少しばかりの思案の後、僕は最初に見た薄水色のショーツを手に取った。
俗にいうオナネタだ。
祖母の室の匂いの艶めかしさというか、香しさが、僕の鼻孔からいつまでも消
えずにいたが、後ろ髪を引かれる思いで室を出て、自分の室に戻る前にトイレに
向かった。
浴室とトイレの前が畳二畳ほどの脱衣室があり、隅に洗濯機が置かれている。
何となく僕の目が洗濯機に向き、洗濯槽の中を覗くと、白いタオル一枚に混じ
って黒の小さな布切れが見え、胸の中が急に波だった。
摘まむようにして手に取ると、それはまごうことなく祖母のショーツだった。
朝、外出する前に祖母が穿き替えていったのだ。
黒の小さな布を広げると、中心部には白と黄色の混じった線が克明に出ていた。
ずきんと音を立てて、僕の下半身が蠢いた。
早々に小便を済ませ、僕は小走るように自分の室に戻った。
自分は一体、何をやっているんだろう?
そういう気持ちが少し頭を過ったが、妖しく生々しげなステッチの入った、黒
の小さなショーツの誘惑には勝てるはずもなく、忽ち雲散霧消していた。
畳にどっかりと座り込み、僕は黒の小さな布地を顔の前に翳した。
十六の僕では形容のし難い匂いが、鼻孔を擽るように漂った。
慌てた素振りで短パンとトランクスを、足首まで一気に下した。
あの日、夜の寺の建物の中で、着物姿で緊縛され、室の鴨居から無残に吊るさ
れている祖母が、僕の目に浮かんでいた。
片足にも赤い縄が這わされ、鴨居から持ち上げられ、着物の裾が大きく割られ、
白い太腿の奥のほうまで露呈されている祖母の姿だった。
短パンを脱いで、それほどの時間を置くことなく、僕の下腹部は不覚にも暴発
していた。
情けなくもあまりに暴発が早すぎて、勿体ない、という念に、僕は恥ずかしな
がら駆られていた。
まだ夜までは長い、と僕は妙な納得をして、取り敢えず台所の冷蔵庫のミネラ
ルウォーターを目指していた。
このまま家の中に燻っているのは、身体にも悪いと思い、僕は昼食を済ませた
後、外に出た。
この村に来てからの僕は、毎日をこんな淫猥な気持ちで過ごしているわけでは
勿論ない。
第三セクター線の駅裏を流れる、幅五十メートルほどの川沿いに作られた小さ
な公園というか、芝生広場の遊び場に、文庫本を片手に二日に一回の割合で来て
いたのだ。
川が浅く流れも緩やかなので、村の少ない子供たちの泳ぎ場にもなっている。
芝生広場以外は何もないところだったが、小学校の頃からこの村に来ると、必
ずここにきて、夏には泳いだりしていて、何がという訳でもなく、僕にはお気に
入りの場所だったのだ。
そこへも行く気でいたのだが、例の雑貨屋の店主にも寺の件でお世話になった
ので、お礼をいおうと思って店の近くまでいくと、すぐに店主のほうから声をか
けてくれた。
「そうかい、調べ物はうまくいったのかい」
「ええ、お陰で助かりました」
「そういえばお盆の時、兄ちゃんとこのお婆ちゃん見たけど、浴衣姿奇麗だっ
たね。とてもこんな田舎の人とは思えないくらいに色が白くってさ。そうだ、あ
の三味線弾く演歌歌手に似てるんだよなあ」
「そうですか。祖母に今の誉め言葉、よくいっときます」
実際は寺の歴史調査は、資料を写真に撮っただけの怠け作業だったので、僕は
少し申し訳ない思いで、何故か川には向かわず、ミネラルウォーター二本を買っ
て家に戻った。
雑貨屋の店主と話していて、ふとあの尼僧を思い出したのだ。
昨夜は長すぎる日記を読まされたせいもあってに、何となく閉口気味だったの
だが、一日でもうそのことを僕の頭は忘れ去ってしまっていた。
家に戻り、最初に脱衣室に向かう。
朝、オナネタにして、また戻しておいた祖母の黒のショーツを、洗濯機から取
り出し、そそくさと室に入り、パソコンをオンにした。
目的のアプリを開け、一度大きく息を吐いて、画面に集中する。
日付の新しい日記を選んだ。
目にしたのは、今年の八月三日だ。
三日前の夜、隣の県に住む妹に久し振りに電話する。
私より三つ年下の妹は婿養子をとって、親から引き継いだ大衆食堂を営んでいて、
子供は高校生の娘一人だ。
私たちの両親は、二人とも早くに他界していて、私がこの村のお寺に嫁いでから
は、人には話すことのできないある事情もあって、あまり深い交流はしていなくて、
正月の年賀状とお盆の墓参りで会う程度だった。
夫が亡くなって私が住職を代行するようになってからは、当然実家の墓参りには
行けない身になったので、電話で墓の世話の礼をいうのが慣行になっていた。
その時に、私はいわずもがなのことを、ついうっかりして妹にいってしまい、今
はひどく後悔し、途方に暮れているのだった。
寺のお守り役が、このお盆前に突然失踪してしまっているということを、うっか
りと愚痴交じりに話してしまったのだ。
あくる日、私の怖れていたことが、すぐに現実の事象となった。
妹からの電話だった。
[お姉ちゃん、うちの人がね、働きにいってる工場が十日も盆休みがあるから、お
盆の間だけでも、手助けにいってやるっていってるから、そうしなさいよ]
これを私は必死になって固辞したのだが、それをあまり頑強にいうと、妹にあら
ぬ不信感を持たせることになるので、私は不承不承に受け入れたのだった。
妹の夫の浩二からその日の夕方に、連絡があった。
「くくっ、久しぶりだなあ」
まるで、獲物を前にしたハイエナが鳴く時の声のように、浩二の声は私には聞こ
えた。
私の夫が他界した時である。
四十九日の法要が済み、三日ほどが過ぎた夜、私は妹の夫であり、義理の弟であ
る浩二に襲われ犯されたのだ。
法要の行事も滞りなく済み、店がある妹は先に帰り、浩二だけがもう少し残った
片付けや雑用の手助けにと、もう一泊泊まった日の夜だった。
庫裏の横にある住家の奥の間に、夫の遺影が飾られ、祭壇に蝋燭の火が点けられ
ていた。
妹たちを送り出した夕方頃から、いや、そのもう少し前くらいから、私の胸の中
に不安で不穏な気持ちが湧き出してきていた。
どこにいても、何かをしていても、誰かの不気味な視線を感じるのだった。
夕食を終え、私が喪服のまま、奥の間の夫の遺影の前に座っていた時に、私が抱
えていた不安が、現実のおぞましい事象となって現れ出たのだ。
背後の襖戸が何の予告もなく、勢いよく開けられた。
自分の肩と背筋が震えるのがわかった。
恐怖と驚きの表情で私が振り返るのと、義弟の浩二の手が喪服の両肩を掴み取っ
てきたのが同時だった。
正座のかたちを私は脆くも崩され、つんのめるように畳の上に這った。
何がどうなって、自分が何されているのかもわからいまま、私の身体は畳の上に
犬のような格好で這わされていた。
喪服の裾が大きく捲られていt、白足袋の上の両足が太腿全部を晒し、着物用に
穿いた白のショーツが丸出しにされていたのだ。
どっかりとした体躯の浩二の動きは早く、そのショーツまで一気に足首から脱
がされていた。
悲鳴のような声を幾度も挙げ、全身を使い、私は激しく抵抗したつもりだったが、
足の両膝と両手を畳について下半身を、明るい照明と祭壇の蝋燭の灯りの前に、無体
に晒したことで、私の全身は屈辱の羞恥にまみれるしかなかった。
義弟の浩二のほうも知らぬ間に、下半身のものを全て脱ぎ払っていた。
女性としては背が高いほうの私だったが、私の背後で膝立ちをして、剥き出しの臀
部を太い指をした両手でわし掴まれているだけで、私は身動きが何一つできないのだ
った。
「あっ、い、いやあっ…」
剥き出しにされた臀部の裂け目のところに、何か石のように固い棒状のものの先端が、
刺すように蠢いてきているのがわかって、私はまた悲鳴を挙げて、身体をどうにかして
動かそうとするのだが、そのどれもが空しい徒労に終わり、棒状の固いものは私の中に
向かって進撃してくるのだった。
本当に肉が引き裂かれ、割られるという感じだった。
そうして、義弟の浩二の固く屹立したものは、私の胎内のかなり深い部分にまで到達
してきていた。
私は涙と汗にまみれ切った顔を激しく振り続け、唇を強く槌んで、声を挙げるのを堪
えていた。
どれくらいの時間が経過したのわからなかった。
「あんた、濡れてきてるぜ」
という浩二の薄笑いの混じった声が、私の耳に聞こえた。
唇を痛くなるほど槌み締めていた歯が、知らぬ間に緩み出しているのを、私は知った。
剥き出しにされ、ずんとした感じのつらぬきを受けている辺りから、血が沸騰し、それ
が速い速度で、胎内を駆け巡ろうとしている兆しを感じ、私は心の中深くで狼狽を大きく
していた。
夫は長い入院生活の上での他界だった。
その間、当然に夫婦生活はあるわけではなく、男性との交接は二年近くなかったのだが、
五十五歳という年齢でも、自分が女であることを思い知らされるように、私は義弟の性の
暴挙に屈しようとしていた。
感じてはならない官能の深い喜悦が、私の身体の内外から湧き出てきているのを、断じ
て拒絶できる理性の気概が、次第に薄れかけてきていることを私は知らされようとしてい
た…。
続く
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