布団の周囲には、乱暴に槌がされた法衣と乱暴に脱ぎ捨てた法衣の他に、二人の
帯と私の頭にあった袖頭巾が、乱雑に散らかされていた。
意識の半分近くを失くした状態で肩をゆすり、息を荒く弾ませながら、布団の上
で全裸の身で仰向けになっている私の真横で、竹野もまたぜいぜいと荒い息を吐い
て、まだ汗の残る裸身を仰向かせていた。
ここが寺の本堂という、荘厳で神聖な場所であるということに気づくまで、私は
数分の時間を要した。
身体の疲労よりも、心の中の慙愧と悔恨の思いのほうが強かった私だったが、ど
うにか布団から上体を起こし、ただ黙ったまま鎮座している御仏の視線を避けるよ
うに、周辺に乱雑に散乱している、自分の衣服を手繰り寄せていた私の手を、横で
荒く息をしていた竹野ががっしとわし掴んできた。
「まだ、終わりじゃないぜ」
といって、おぞましい顔を向けてきた。
「は、離してっ」
憤怒の目で竹野に向かっていった私だったが、
「まだもっと、お前のいやらしく不浄な身体を御仏さんに、しっかり見せてやら
ないとな」
と竹野は口元から味噌っ歯を下品に覗かせて、私の身体を引き寄せてきた。
身体と身体が触れ、竹野がまた私の唇を奪いにきた。
逃れようと私はもがいたのだったが、男の力の前には空しい徒労に終わった。
口の中にまた、酒の臭いの混じった口臭を充満させられ、私の舌は水の上の木の
葉のように翻弄され弄ばれた。
ややあって竹野が自分から、徐に身体を離してきた。
目で私の目を誘うようにして、片手を横に伸ばした。
伸ばした手の先を見て、
「ひっ…」
と喉の奥を引き攣らすような短い声を挙げて、瞬時に慄いた。
麻縄の束が布団から少し離れたところに、脱ぎ捨てられた法衣に包まれるように
して置かれていたのだ。
私の気づかれないように、竹野が事前に算段して持ち込んでいたのだった。
この荘厳で神聖な場所で、またっ、と、私の慄きと恐れは見る間に増幅した。
「い、いやっ…」
竹野の顔の前で、私は慄き一杯の目で激しく顔を振り続けた。
しかしその後の私は、ただ、慄き震えた声を出し、藻槌き足掻くだけで、これも
ほとんどが徒労の憂き目にあうだけだった。
手を後ろ手にされ、剥き出しの乳房の上下に挟むように、使い古しのように色褪
せた麻縄を廻され、そのまま私の身体はまた布団に転がされた。
竹野の激しいつらぬきを受けた、私の下腹部の裂け目から流れ出た白濁色のねっ
とりと、布団のシーツのあちこちに、濡れた沁みで残っているのが、何故かこの時
の私の目の中を過った。
無防備な私の乳房の右側に、竹野の武骨な指が這い廻ってきた。
乳首を軽く摘ままれ、私はうっと短い声を挙げて、愚かに反応した。
「ふん、とても御仏に仕える尼僧とは思えないくらいに、淫らな女だな」
蔑むように、竹野が唇を曲げていう。
「…あ、あなたが…こんなに」
「お前の生まれ持っての、淫乱な性分だよ」
侮蔑の言葉を続けて、竹野が徐にその場から立ち上がった。
縄尻を取られていた、私も引かれるようにたつ。
そのまま引き摺られるようにして、私が竹野に押さえつけられたのは、本尊の前
の礼盤の上に敷かれた座布団の上だった。
神聖な御仏を真正面に見るその場所に、緊縛されたあられもない裸身を無残に晒
して、曲がりなりにもこの寺を治める僧侶としての慄きは、どんな表現も値しない
ほどの屈辱だった。
「こ、ここはだめっ」
私は叫びに近い声を挙げて、身を激しく捩らせ、座布団から立とうとするのだが、
竹野も必死の顔になり、力を振り絞ってくるのでどうにもならなかった。
そあいて竹野の責め苦はそれだけではなかった。
私を恥ずかしく拘束する縄尻を強く握り締めて、礼盤に正座する私の前に立ち塞
がってきたのだ。
竹野の下腹部が、私の顔のすぐ前にあった。
竹野が何を要求しているのかに私は気づき、顔を左右に強く振り続け、緊縛の無
体な全身を激しく揺り動かせた。
「お、お願いっ…こ、ここで、そんなことだけは…」
と涙の声で哀願したのだが、場所柄のせいか、竹野のほうもいつもと違う昂まり
の中に陥っているようで、結果は私が屈するかたちになり、荘厳で神聖な場所で、
私は堪えがたい屈辱の行為を強いられることになったのだった。
口の中一杯に、竹野の下品で淫猥な怒張を含み入れさせられた、私に出来たこと
は涙をひたすら流すことだけだった…。
パソコンの画面に長く目をやっていた僕も、正直なところ少し、少しばかり辟易
な思いに陥っていた。
次を読もうという気持ちが失せかけていたのだ。
年齢はまだ大人でもない僕だが、読書は人並み以上は好きだと少々自負している
立場でいうなら、この尼僧の人はナルシスト的な性格の人ではないかと思った。
淫猥な気持ちを抱いて、大学ノート四冊くらいをコピー編集したのだが、この先
は流し読みでいいか、と僕は気持ちを切り替えることにして、もう一つ大いに気に
なっている祖母の問題に気持ちを向けようと思った。
尼僧の人も、背が高く、色白で目鼻立ちのくっきりとした美人だが、そちらかと
いうと決して身贔屓でなく、一人の女性としては、僕は背は小柄でも自分の祖母の
ほうが好きなような気がするのだ。
夏休みも残り少なくなってきていて、実家の母親からも、
「あなた、いつまでそこにいるの?」
と嫌味の電話も入っているのだが、明日からは祖母のことについて、もっと真剣
に考えてみようと、心の中で強く決意して、僕は目の前のパソコンをオフモードに
した…。
続く
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