(祖母・昭子 番外編 4)
茂夫が六時過ぎに帰宅すると、義母の…いや、今は義母ではない多鶴子が、以前からお
気に入りだといっていた、黄色のワンピース姿で玄関口で迎えてくれた。
妻の由美と結婚して、同居生活を始めて数年来、娘の由美を迎えに出ることはあっても、
婿の茂夫を迎えに出たことは、多鶴子は一度もなかったのにと、茂夫は内心で苦笑しなが
ら靴を脱いだ。
リビングのテーブルの上には、いつもとは明らかに違う豪勢な料理が幾つもの皿に盛ら
れていて、ワインの瓶とワイングラスまで置かれているのを見て、茂夫の頭にふいと、い
つもの自分らしくない思考が浮かんだ。
「多鶴子、折角のお似合いのワンピースに申し訳ないけど、ワイン一口飲んだら、無性
に君の裸が見たくなってきた。着ているもの全部脱いで、僕の前に来てくれないかな?」
テーブルに向かい合って座っている多鶴子の目を正視して、茂夫は逸る気持ちを抑え冷
静な声でいった。
多鶴子は当然、驚いた顔で茂夫を睨むように見つめてきたが、すぐに思い直したように
穏やかな表情になり、いつもより口紅が濃いめな感じの、口元に笑みを浮かべて席から立
った。
茂夫の思うところでは、婿養子の自分からこんな破廉恥な要求を出されたら、すぐに元
の少しばかり気位の高い、義母に戻るかも?と考えていたのだが、少し予想が外れたこと
で、この前の暴力団組長宅での、あの思いも寄らない出来事は、義母の多鶴子の人間性に
まで相当に大きな影響と衝撃を与えていることを、茂夫は改めて確信し、改めて慨嘆した。
それは自分自身についてもそうで、ジェンダー志向の若い組員に、男でありながら女と
して犯され、その屈辱に死にたいほどの思いでいたのが、ある日、その若い組員に抱かれ
て唇を重ねられていた時、突然変異的に男への思慕の思いが湧き、覚醒してしまった自分
と、義母の多鶴子は同じ位置にいると、茂夫は理解したのだった。
若い組員に呼び出され屈辱の行為を強いられる時、茂夫は相手への言葉使いや、態度素
振りを完璧に女とし、て通す。
それを若い組員が茂夫に求めるからだった。
同じことを茂夫は今、義母の多鶴子に要求しようとしていた。
そこには、一方で若い男の力に屈し、男としての屈辱を味合わされている、茂夫にしか
わからない鬱屈した怨念のような思いがあった。
「こ、こんな明るいところで、恥ずかしいわ…」
リビングのソファの横で、首筋や顔を少し赤らめながら多鶴子はそういいながら、黄色
のワンピースの前ボタンを、ゆっくりと外しにかかっていた。
多鶴子は痩せてもおらず、太ってもいないという、普通の体型をしている。
肌の色の白さが年齢をかなり若く見せていて、目鼻立ちもそれなりに整っている。
「うむ、奇麗な肌だよ。この前もそう思ってた」
ワンピースが多鶴子の肩から床に落ちて、スキャンティとブラジャーだけの上半身にな
った時、僕がそういってやると、
「こ、こんなことってほんとに初めてだから、す、すごく恥ずかしい」
多鶴子のその声は茂夫の耳をほとんど素通りしていて、茂夫は別のことを思っていた。
自分より十近くも年下の、屈強な身体つきをした若いジェンダー志向の組員に、男であ
りながら、茂夫は女として無残にも尻穴をつらぬかれ犯された。
無論、普通の社会人として生きてきた茂夫には、生まれて初めての屈辱以外にない体験
だった。
男同士や女同士の性の交流の世界があることは、茂夫も当然に知ってはいたが、別の次
元の話だと自分では思っていた。
しかし、その男に二度目に呼び出され、同じように屈辱のつらぬきを受けた時、茂夫の
心のどこかで、自分でも信じられない覚醒が起きた。
男の無慈悲なつらぬきを受けながら、身体と心のどこかに、ほぼ同時に妖しげな色をし
た火のようなものが点いた。
男に犯されているという、屈辱と苦痛の思いがどこかへ消え去ろうとしてきていた。
これまでの人生で一度も感じたことのない、背徳的で欲情に満ちた快感が、茂夫の全身
を一気に駆け巡ったのだ。
自分をつらぬいている男への、隷従と屈服の始まりがそこだった。
茂夫は自分のそんな鬱屈した思いの裏返しを、義母の多鶴子にぶつけようとしていた。
あの夜、多鶴子は自分のつらぬきを受けた時、間違いなく義母という立場も忘れ、一匹
の飢えた牝犬になっていた。
「し、茂夫さん…す、好きよ」
と同じ言葉を何度も繰り返していた。
多鶴子のその気持ちを確かめたくて、茂夫は彼女に、服を脱げなどという突飛な命令を
下したのだった。
そして多鶴子は、婿の茂夫の命令を従順に聞き入れた。
スカートまで脱ぎ下ろした多鶴子の羞恥の思いは、パンティストッキングとショーツだ
けになった、むっちりとした太腿をこれ以上ないくらいに窄めて、どぎまぎとした表情で
目を俯かせている素振りに明白に現れ出ていた。
椅子から立ち上がって、茂夫は多鶴子の前に、声も出さず近づいた。
「多鶴子、僕ももうこんなだ」
そういって、茂夫は多鶴子の半裸状態の身体のすぐ前で、忙しなげにズボンのベルトを
外し、ブリーフと一緒に足元まで脱ぎ下ろした。
多鶴子の驚きの目は自然に、剥き出されて露わになった茂夫の下腹部に向いた。
茂夫の色白で槌身な身体とは全くそぐわない、異様に巨大な生物のようなものが、上に
向かって跳ね上がるようにして現れ出た。
多鶴子の驚きの目は、もっと上の驚愕状態になっていて、大きく開いた口を両手で塞ぎ
込み、思わず後ずさりしていた。
片手でネクタイを緩めながら、もう一方の手を多鶴子の肩に置いた茂夫は、
「た、多鶴子」
と名前だけ短く呼んで、肩に置いた手に力を入れた。
驚愕の表情のまま、意思を失くしたように多鶴子は足の膝を折り、茂夫の前にひれ伏す
ように座り込んでいた。
男のその部分の比較がどういうものなのか、夫一人しか男性を知らずに生きてきた多鶴
子に、無論、わかるはずもなかったが、とにかく並の人間のものではないというのは、朧
げにも多鶴子にもわかった。
ここで今、茂夫が自分に何を求めているのかも、薄々に察知した多鶴子は、本当に恐る
恐るの思いで、手をゆっくりと茂夫のものに添えていった。
太い鉄棒のような感触が最初にあって、その中で太い血管がドクンドクンと波打ってい
る感じがあった。
もうそれだけで、多鶴子の頭の中に、暴力団組長宅での、この前の茂夫との背徳の抱擁
の場面が思い起こされてきて、全身の血が熱くなり出していた。
自然な流れのように多鶴子は唇を、茂夫の巨大としかいいようのない、固いものに近づ
けていき、口の中に含み入れようとした。
口一杯に開いても、茂夫のものはその長さの半分も入らなかった。
そのものの巨大さで口が忽ち密閉状態になり、息苦しさに何度も多鶴子は噎せ返り、咳
き込んだりしたが、今の今はもう婿ではない、茂夫への思いの深さを届けるために、ひた
すら懸命に愛撫を繰り返し続けた。
「多鶴子の寝室へ行こう」
元より茂夫自身も、まるで悪夢のようなこの事態に遭遇するまでは、多少はひ弱な外見
でも実直で勤勉な社会人として過ごしてきて、女性との性の経験も妻の由美ぐらいしか知
らずに生きてきたこともあって、男子として快感を長く持続するという術もわ、まだよく
わからずにいたので、多鶴子を寝室に誘ったのだ。
「多鶴子…」
衣服の全部を脱ぎ捨てて、茂夫は多鶴子の寝室のベッドにいた。
多鶴子のほうも全裸になっていて、仰向けになった茂夫の胸に、甘えるような素振りで
顔を載せていた。
室に入ってすぐに、茂夫は多鶴子をベッドに押し倒してきた。
待ち望んでいたように、多鶴子もそれに応え、婿と義母の二人は、お互いがお互いを求
め合うように、激しく抱き合い求め合った。
茂夫の異様に太くて、異常に長いものを、胎内に迎え入れた時、数日前のあの夜、最初
に感じた、肉が圧し潰されそうな痛みがなくなっていて、ひどく心地のいい圧迫が、多鶴
子の全身を忽ちにして包み込んできたのだ。
獣が泣き叫ぶような、多鶴子の咆哮の声が絶え間なく続き、それに呼応するように茂夫
の腰も激しく動いた。
「だ、だめ!…し、茂夫さん…私、ほんとに死んじゃう」
「ぼ、僕もだよ、多鶴子!」
いみじくも、数日前に二人が熱く激しく抱き合って、絶頂を迎えた時に発した言葉と同じ
言葉を、茂夫と多鶴子は申し合わせでもしてあったかのように出し合って、絶頂の極致に
到達したのだった。
そういえば妻の由美と結婚して以来、婿養子の茂夫が多鶴子の寝室に入ったことは一度も
なかった。
「この室は、僕にとっては伏魔殿だった」
感慨を込めて茂夫が独り言のようにいうと、
「そんな風に思ってたのだったら、ごめんなさいね」
と多鶴子が申し訳なさそうな声で返してきた。
「気にしなくていいよ。…でも、僕たちってこれからどうなるんだろうね」
「え…?」
「僕も多鶴子も、そして妻の由美も、家族全員が汚れてしまった。元の生活に戻れるだろ
うか?」
「……………」
「ん、どうした?」
「も、戻らなければいけないのはわかってる。私はともかく、あなたたちはまだ若いんだ
から、きちんと普通の社会生活ができるようにしないと。…でも」
「でも何?」
「私、茂夫さんと…あなたとは元に戻りたくない」
「義理のお義母さんと婿養子の関係でいいじゃないか、と僕もそう思うんだけど、実をい
うと、僕自身、自分で自分のことが、今、わからなくなってしまってる」
「ど、どういうこと?」
茂夫は二人の会話が、どうも違う方向に向きかけていることを意識し出していたが、かま
わずに、
「多鶴子も薄々は気づいていると思うけど、僕はあそこの組員の一人に、男でありながら
犯されている。初めは恥ずかしくて死にたいくらいだった。…でも、ある頃から、そんな屈
辱的な行為に、信じられないような快感をね、僕は感じてしまったんだ」
と思いきったことを口にしてしまっていた。
「こんな話、嫌だったら止めようか?」
多鶴子の顔を窺見るようにして、茂夫はいった。
「ううん、話せるのだったら聞かせて…」
義理の母ではなく、実の母親のような目で、多鶴子は茂夫に優しい声でいった。
「僕よりもずっと歳の若い男なんだけどね。最初に暴力的に犯された時はね、殺したいほ
どそいつが憎かった。…でも、二度目にね、そいつに呼び出されて、駅前のシティホテルの
シングルルームに行った時にね、最初の時のような暴力的な面は、一つも見せてこないで、
僕を優しく抱いてきて、キスをしてきた時、僕の身体の中の血が急に逆流し出したようにな
って、そのまま、またお尻をね、つらぬかれたんだ。その時にすぐに快感のようなものが湧
き上がってきて、僕はその男の女になった。…男の人を性の対象にするなんて、今までただ
の一度もなかった僕がだよ。あっけなく陥落してしまっていたんだ」
そこまでを一気に喋って、茂夫は大きな息を二度ほど吐いた。
さすがに義理の母である、多鶴子の目を見ては茂夫は話せなかった。
多鶴子は黙って茂夫の話を、ただ聞くだけだったが、茂夫の苦しげな告白を聞いた後、
「その男の人と、あなたは離れることができないの?」
と茂夫の胸から顔を起こし、目を彼の目に向けて聞いてきた。
「今の僕の気弱さじゃあ、どうなんだろう。別れたいのに別れられない。何だかメロドラ
マみたいないい方だな、ふふ」
茂夫は自嘲的な笑みを浮かべて、力のない視線を天井に向けた。
「私があなたを立ち直らせて見せるわ。恋の鞘当てっていったら変だけど、あなたは私の
傍にいて欲しい。あなたを男なんかに取られたくない」
多鶴子は真顔でそういって、茂夫の顔に顔を寄せていき、自分から唇を塞ぎにいった。
ベッドの上で激しく揉み合うように、二人の身体は重なり、重なり合った唇は長い間離れ
なかった。
二人の口から、妻であり娘である由美の話は、遂に一度も出ることはなかった…。
続く
、
※元投稿はこちら >>