婿の茂夫の股間に見えたものは、多鶴子にとってはこの世のものとは思えないくらいの
大きさであり、長さだった。
色白の痩身で、なよっとした茂夫の体型には、まるでそぐわないものが目に入った多鶴
子は、一瞬で喉を詰まらせた。、
六十年間の人生を真面目一途に生きてきて、初めての男性体験が亡夫との結婚初夜の日
で、以降は当然に夫以外の男性を知らずにきている彼女に、男性のその部分の比較をすべ
きものは、何もなかったが、婿の茂夫の身体つきとは、あまりにもかけ離れた巨大さとそ
の長さに、多鶴子の身体の中の血が、ふっと自分の意思に反して、音もなく湧き立ったよ
うな気持になったのだ。
元より娘の婿である茂夫に対して、これまでの生活の中で、男性として意識したことは
ただの一度もない。
はしたないそのことは無論、傍にきた茂夫の前では億尾にも出すことなく、平静の表情
のまま、多鶴子は娘婿を布団の中に迎えた。
添い寝のかたちで布団に身を横たえ、互いの身体を隠すように、掛け布団を頭の上まで
被ったところで、
「いい、演技でも何でもいいから、早く済ませましょ。声も小さくね」
と多鶴子は義理の親らしく、怯え慄いた目のままの茂夫にいい聞かせ、
「は、早く、私を抱いて」
と少し声を詰まらせながらいった。
予期も予想もしていなかった背徳的な状況の展開に、戸惑い慄いているのは、二人とも
に同じだった。
「す、すみません、お義母さん」
茂夫の女性のように細くて白い手が、恐る恐るの動きで、義理の母の多鶴子の乳房に触
れてきた。
婿の茂夫の手の感触だけで、多鶴子は自分の身体の中のどこかが、妙に波打ったような
気がした。
奇妙な微熱のようなものが、全身を駆け巡った感じだった。
慄くような素振りで多鶴子の乳房を、茂夫が柔らかく掴み取ってきた時、今しがたと同じ
ような波が、多鶴子の全身を駆け巡ってきた。
声が思わず漏れ出そうになったのを、多鶴子はどうにか堪えて、奥歯を強く噛み締めた。
婿の茂夫がさらに動いてきて、自分の顔を多鶴子の乳房の膨らみの上に載せてきた。
おずおずとした動きに変わりはなかったが、茂夫の舌が、多鶴子の片方の乳首にいきなり
這ってきた時、
「あ、ううっ…」
と堪えきれないような小さな声が、多鶴子の口から漏れ出て、そのことに彼女自身が気づ
き、慌てて口を噤んだ。
多鶴子自身が気づいていなかったのだが、この少し前に、若い男たち三人から、激しく荒
々しい凌辱を長く受け続けた時の余韻が、彼女の身体の中のどこかに、埋火のように残って
いて、それが婿の茂夫のおどどとした手の動きで、図らずも呼び戻された感じだった。
六十を過ぎた女の自分の身体が、まるで自分の身体ではないように、過敏になっているこ
とに薄々ながら気づいた多鶴子は、内心で激しく狼狽し戸惑っていた。
これまでに男性としてみなしていなかった、しかも娘の婿のおどおどとした拙い手管で、
自分が不覚に、また女として淫猥に反応してしまうことを、多鶴子は怖れたのだった。
その下卑た思いを否定しようとすればするほど、多鶴子の気持ちは焦りをつよくするばか
りになっていた。
目の裏に先ほど目にした、茂夫の下腹部のグロテスクなくらいに巨大で長尺なものが、フ
ラッシュバックのように浮かんでは消え、消えては浮かんできていた。
多鶴子の乳房をまさぐっている、茂夫の手の動きが大胆になってきているのか、彼女自身
の気持ちが、知らぬ間に昂ぶってきているのか、多鶴子は全身に異様な暑さを感じ出してき
た。
茂夫のあまり肉付きのない、痩身の身体が布団の中で動いた時、多鶴子は自分の太腿の辺
りに、固い棒のようなものが当たってきているのを感じた。
その感触を知って、多鶴子の狼狽えはさらに倍加した。
それまで布団にだらりと置いていた、多鶴子の手が意思に関係なく動いて、乳房に顔を埋
めたままの、茂夫の骨だけの肩を抱くように掴んでいた。
掛け布団を被ったままなので、ビデオカメラには映らないのが何よりだったが、その布団
の中で、六十代の義母の多鶴子と、三十代の婿の茂夫の二人は、声も音もないまま、銘々に
心と身体の葛藤を繰り返していた。
多鶴子のむっちりとした全身には、汗が滴り出ていて、細身の茂夫の顔からも汗が滲み出
ていた。
茂夫の顔がいつの間にか、多鶴子の首筋から耳朶に向けて這い出していた。
茂夫の舌を感じるたびに、多鶴子は口を強く噤み、漏れ出そうになる声を殺していたが、
婿の吐く息が、義母の耳朶にかかった時、ついに義母の多鶴子のほうに限界がきた。
「ああっ…」
多鶴子が自ら掛け布団を跳ね除け、大きな息とともに、誰にともなく吐いた吐いた観念の
声だった。
驚いて顔を上げた茂夫のすぐ間近に、白い歯を覗かせて、喘ぐように息を吐いている義母
の多鶴子の汗にまみれた顔があった。
どちらからともなく、顔と顔が寄り添った。
義母と婿の双方が、ほぼ同時に目を閉じ合って、唇を重ね合っていた。
多鶴子の白い腕がゆっくりと、茂夫の細い首に巻き付いていった。
婿の茂夫が男になり、義母の多鶴子が女になり代わっていた。
そこから多鶴子と茂夫の二人は、もうビデオカメラのことも忘れたかのように、さらには
義母と婿という関係も忘れ去ったように、お互いがひしと抱き合い、唇を貪り合って、男は
男を鼓舞し、女は女を晒した。
早く済ませて早くこの室から出る、とお互いに心に決めていたはずが、箍の外れた今とな
っては儚い虚言にしかなっていないくらいに、二人は激しく抱き合い求め合った。
茂夫が多鶴子のむっちりとした両足を、抱え込むようにしておし拡げ、露わになった彼女
の下腹部の漆黒の下へ、舌を這わした時、
「ああっ…い、いいわ。し、茂夫さん…ほ、ほんとにいいの」
「お、お義母さん、僕もほんとはお義母さんが…す、好きでした!」
どこまでが本音で、どこまでが本心なのかわからないくらいに、二人は熱く言葉を交わし
合い、熱く燃え上ったのだ。
「い、入れるよ」
多鶴子の上に覆い被さっていた茂夫が、窺い見るような目でいった。
額に汗の粒を浮かばせた多鶴子が、ここも汗の噴き出ている首を小さく頷かせた。
尖ったものの先端ではなく、何かの大きな塊が、多鶴子のその部分に当たってきたような
感じだった。
茂夫の腰が少し動いた時、
「あっ…な、何っ…こ、これ!」
多鶴子が思わず枕から顔を上げ、下のほうに目を向けた。
鉄の塊のようなものが、多鶴子の股間を裂くように割に来ていた。
その部分の肉が、正しく裂け千切れるような痛みが、多鶴子の脳髄に最初にきた。
「ああっ…い、痛いっ…痛いわ」
多鶴子のその声を無視して、茂夫がもう一度腰を前に進めた。
「ああっ…は、入ってくる…あ、あなたの」
生まれて初めてといっていい、強くて深い圧迫が、多鶴子の全身に襲いかかってきていた。
多鶴子の胎内で、肉がその鉄の塊に圧し潰される感覚だった。
息ができなくなっていた。
「ああっ…お、お願い…う、動かないで。でないと私…」
多鶴子は目を大きく見開いて、茂夫に懇願した。
詰まりかけていた息を大きく吐いた時、これまで一度も体験したことのない、めくるめくよ
うな快感が、一気に多鶴子の全身を電光石火のように駆け巡ってきた。
そしてその快感は、茂夫の身体が静止したままでも、途絶えることなく続き、多鶴子に何に
も例えようのない、喜悦の渦の中に貶めようとしていた。
「し、茂夫さん…ああっ、す、好きよ」
もう間もなく意識を失くそうかという、とろんとした目で譫言のようにいって、
「こ、これからも…だ、抱いてね」
と切なげな表情で哀願してきた。
「こ、これからは、由美がいない時は、多鶴子って呼ぶよ」
と、まだ少し遠慮気味にいう茂夫に、多鶴子は何度となく首を頷かせた。
「た、多鶴子のも…よ、よく締まる。が、我慢が…」
言葉を途中で切って、茂夫が徐に腰の律動をし始めてきた。
「ああっ、こ、壊れるわ…わ、私…こ、壊れちゃう」
自分の胎内の肉を、木っ端微塵にされそうなくらいの強烈な摩擦の熱が、また多鶴子の全身
を自在に駆け巡ってきた。
「ああっ…わ、私、し、死ぬわ…死んじゃう!」
「ぼ、僕もだよ、た、多鶴子!」
あれほど気にしていた、ビデオカメラも声を拾うマイクも、もう二人には眼中になく、煌々と
灯りの点く八畳間に、大きな咆哮の声を挙げてほぼ同時に果て終えた。
長い時間、忘我の境地に浸るように、二人は布団に折り重なるように抱き合っていた。
痺れを切らせたかのように、最初に茂夫を引き連れてきた、スーツ姿の男が室に入ってきて、
「義理とはいえ、さすがに親子だな。結構な盛り上がりで、こちらもいい図柄が撮れたようだ。
おい、息子さんよ、お前のカレシまだいるけど会ってくかい?」
口元に薄笑みを浮かべながら、男は二人を見下したようにいって、茂夫のほうから、
「き、今日は帰ります」
というと、何も言葉を発さないまま、すたすたと室を出て行った。
多鶴子と茂夫は、秋も深まって空気がひんやりとする外に出て、言葉を交わすこと
もなく、駅までの道を並んで歩いていたが、高いコンクリート塀が見えないところま
で来た時、多鶴子のほうが茂夫の腕を掴み取ってきて、夫婦か恋人のように身体を寄
せ合っていた。
茂夫のほうは家で待っている妻の由美には、残業でかなり遅くなると連絡してある。
多鶴子は古い友人との食事会で、これも帰りが遅くなると娘の由美にいってあった。
多鶴子を先に帰宅させ、それから一時間ほど後で、茂夫は駅前のコンビニで買った
缶ビールを一本飲み干してから帰宅した。
由美が疑念を抱く余地はどこにもなかった。
それから三日後、由美が役所の仕事で、隣県に一泊の出張で出かけることになった。
茂夫は定時に仕事を終え、義理の母ではない、もう一人の多鶴子が待つ自宅への帰路
を心をときめかせながら急いだ…。
続く
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