「…き、気持ちいいっ…」
古村の背中越しに、半分ほど顔が見える祖母の汗に濡れたような小さな
顔が、まるで子供がむずかるように左右に激しく揺り動いているのが、僕
の目にどうにか見えた。
半開きになって濡れそぼったような、かたちのいい唇から白い歯が覗き
見え、その歯と歯の間にとろりとした唾液が、二本ほど細い線になって垂
れているのまで、若い僕の視力は捉えられた。
「そうか、気持ちいいか?」
祖母にそう問いかける古村の顔は僕には見えていないが、おそらく最初
の頃とは雲泥に違う、冷ややかな表情で祖母を見下ろしているのだろうと
いう推測は出来た。
竹野と吉野の傍観者二人は、完全に豹変した古村の毒気に当てられて、
声の一つも出せないまま、ポカンとした顔を前に向けているだけのようだ
った。
「…お前、しょんべんでもしたか?」
少し驚いたような古村の声に、僕はまた慌てたように目を布団のほうに
向けた。
「びしょびしょになってきてるじゃないか?」
当然に祖母からの応答はなく、ただ顔を左右に振り続けるだけだった。
「ま、お陰でこちらの滑りもよくなってきたがな」
含み笑いをするような声でいう、古村の腰の動きが、僕にもわかるくら
早くなり始めていた。
「い、いいのっ…いいっ」
左右に激しく揺り動く、祖母の顔を覗き見ると、責め立ててきている古
村の身体への呼応と順応の姿勢は明らかだった。
古村と祖母の、男女二人だけの世界が出来上がりつつある、とほとんど
この場では部外者である僕はそう感じた。
古村自身も、自分の背後にいる竹野と吉野のことなど、もう眼中にない
かのように一度も振り返ってはいないし、窓の外の余分な侵入者である僕
のことなど知るはずもなく、ただ祖母の身体一つを征服することに集中し
ているだけなのだ。
祖母のほうは、古村という男の強烈無比な武器による攻略で、すでに陥
落寸前の憂き目に遭ってしまっている。
完全に、窓の中の室の空気は、最初の時とは一変してしまっている。
どこからだったのかよくわからない、古村という四十代半ばの男のいき
なりの豹変と変心に、部外者の僕は勿論のこと、竹野と吉野の驚きと、そ
の後の奇妙な萎縮ぶりは、完全に室の中の空気の流れを違うものにかえて
いたのだ。
祖母の足首を掴み捉えていた古村の両手が離れ、背中がゆっくりと前に
折り曲がっていくのが、少しの間ポカンとしていた僕の視界に入った。
前に倒れ込んだ古村の首筋に間を置くことなく、祖母の白くて細いたな
よやかな両腕が、冬のマフラーのように巻き付いてきていた。
それまで半分ほど見えていた祖母の顔が、古村の背中のせいで、まるで
見えなくなってしまっていた。
僕は思いきって覗き見の位置を変えた。
前に三歩ほど進んだだけで、古村と祖母の顔が覗き見えた。
竹野と吉野の視線が少し気になる位置だったが、二人の目線は惚けたよ
うにぼんやりとしていて、陸に上がった鰹のよう目になっていたので、用
心しながら僕は前に視線を向けた。
古村と祖母は人目も憚ることなく、お互いの唇を貪り合っていた。
それは、まるで何かの理由で長く会っていなかった恋人同士が求め合っ
ている時のように見えた。
そういえば最初の頃、それまでの竹野からの縄の拘束を解かれた後、古
村と吉野が交互に、祖母へのキスを許された時があり、その時も二人は激
しく抱き合っていた。
そしてその時も僕は、二人が恋人同士であるかのように、ふと思ったの
だった。
少し目線をずらすと、二人の重なり合った下半身が見えた。
祖母の、鹿のように細くて白い二本の足が、掴みどころのない宙を頼り
なげに彷徨っている。
そこの間を深く割るように、古村の腰が、これも深くのめり込んでいて、
その下で二人の身体と身体が強く密着しているのが、窓の外の僕にも窺い
知れた。
祖母と古村の唇と唇が、離れては重なり、重なっては離れたりを繰り返
しているのが見える。
唇が離れた時、古村が祖母に話しかけているようだったが、声が小さく
てよく聞き取れなかった。
そして密着した古村の腰が動くたびに、祖母の、今はもうはっきり見え
る汗を滲ませた顔が、切なげに歪むのだった。
「…キスした時の、君の吐く息が好きだ」
古村が優しくそういった声が、ふいに聞こえた。
つい何分か前の、豹変した時に吐いた強圧的で侮蔑的な声とは、明らか
に違っていることに、僕は驚きを大きくした。
(な、何なんだ、このおっさん…)
二重人格者なのか、とも思いながら、僕は用心のため斜め後ろの二人を
見やったが、相変らずまだぼんやりとした視線のままだった。
古村の上体が起きた。
そして手際よく祖母の身体に手を伸ばし、布団の上に四つん這いにした。
祖母の身体は、古村の動きに従順に従っているように見えた。
高く突き上げられた、祖母の剥き出しの臀部の前で、古村が膝立ちをする。
僕も含めた三人の男たちの度肝を抜いた、古村の下半身のものはまだ真横
より上に向けて、雄々しく黒々と屹立していた。
何かに水のようなものに濡れて光っているようだった。
「はうっ…あっ…ああっ」
祖母の小さな顔が、布団に突き刺さるように埋まり、喉の奥深くから絞り
出すような短い悲鳴に近い声が、静まり返っていた室の中全体に響いた。
古村の下腹部のものの半分近くが、ずぶりと祖母の下腹部の肉の裂け目に
埋まったのだ。
と、竹野が徐に動き出したので、僕は一旦急いで窓から顔を隠した。
祖母の女の生々しい悶えの声が、僕の頭の上を通過して、まだ虫の鳴き声
のする杉木立ちに消えていった。
少し間を置いて、僕は窓の上に顔を恐る恐る出した。
縮のシャツとステテコ姿の竹野が、祖母と古村の横に来て両手をついて、
深く繋がっている二人の下腹部を見入っていた。
僕からは竹野の顔を見ることはできなかったが、おそらく涎くらい垂らし
て目をぎらつかせて見ているのかも知れなかった。
白髪の吉野は、年の功で落ち着いているのか、同じ場所に座ったままだった。
竹野がさらに動いた。
我慢しかねたような動作で這うようにして、古村につらぬきを受けて、喘ぎ
と悶えの声を間断なく上げ続けている、祖母の顔の前までいくと急くような動
作でステテコと一緒にトランクスを脱ぎ捨てていた。
太さだけが妙に目立つ、怒張したものを自分の手に添えながら、竹野は祖母
の髪の毛をひっつかむようにして顔を上げさせ、手に添えたものの先端を突き
出していった。
喘ぎと悶えの最中にいた祖母だったが、竹野の思いがけないその行為を拒絶
することなく、ゆっくりと自分の口を近づけていった。
苦笑のような表情を浮かべながらも、古村は腰の律動は止めてはいない。
祖母の口が竹野のものを含み入れていた。
乱れた髪の下の小ぶりの顔を小刻みに動かし、古村のつらぬきにも汗に滲ん
だ小柄な身体を、痙攣のように震わせ反応しているのだった。
僕はたまに見るアダルトビデオとは、まるで比較にならないくらいの生々しい
刺激と興奮に、思わず身を乗り出しそうなくらいになっていたが、ここで見つか
ったら何もかも台無しになると思い、自分の下腹部を破裂しそうになるくらいま
で興奮だけさせるしかないと、十六ながら腹に決めて、改めて目の前の光景に目
を向けた。
祖母が黙々と咥えている竹野のものは、歪な形で怒張していて、僕は以前いど
こかで見た蓮根を思い出したのだが、当の竹野のほうは、何を思っていたのかそ
の表情が急に変化し、いきなり、むむっという低い呻き声を挙げて、自分でも予
期していなかったかのように、祖母の口の中に熱い迸りを放出させてしまったよ
うだった。
祖母の口の端からどろりとした、白い液体が零れ出たのが僕にも見えた。
竹野が如何にもバツの悪そうな顔で、祖母の顔の傍から引き下がっていた。
竹野の思わぬ粗相にも動じることなく、古村の祖母へのつらぬきは続いていた。
古村自身は平然としていたが、単調にただつらぬかれている祖母のほうの表情
に、昂まりを示唆するような声が漏れだしてきていた。
「ね…ねえ…わ、わたし…も、もう」
と喘いだり、
「お、お願いだから…い、一緒に逝ってっ」
と甘えるような声を頻繁に出してきているのだった。
「俺が欲しいか?」
と問い返す古村の声が、またそこで豹変しているような響きになっていること
に僕は気づいた。
「それならな…俺を悦ばせるような、汚い言葉を一杯いえっ」
「…ど、どんな言葉?」
「普段は、お前は真面目な働き者の女らしいな?」
「…………」
「そのくせ、裏ではこうして男に犯され、虐げられるのを悦んでいる。それが
俺の癪に障る」
「ああっ…ど、どうすれば」
「牝ブタになれ」
「は、はい…な、なります、牝ブタに」
「そうか。…今、俺に突かれているところは?」
「…お、お…マンコ…です」
「突いているのは?」
「あんっ…お、おチンポ」
「上品にいうなっ」
「ああっ…チ、チンポ」
「チンポ、好きなのか?」
「は、はい…す、好きです」
「いってみろ。私はチンポが大好きって」
「わ、私は…チンポが大好きですっ…ああっ、早く…早く一緒にっ」
「ふん、どうしょうもないスベタだな、お前は」
この二人の淫靡な会話が始まる少し前、僕はあることに気づいていた。
背後から冷静な顔で無表情に、飽くことなく祖母をつらぬいていた古村
の顔がちらりと、背後でおし黙っていた白髪の吉野のほうに向けられ、顎
を小さく頷かせるのが目に入ったのだ。
何かの合図のように、僕には見えた。
まるで芝居ごとのような二人の会話が始まる。
僕が吉野のほうをそれとなく見ると、彼は少しだけ顔を俯けるようにして、
薄く目を開けていたのだった。
吉野は耳だけを研ぎ澄ませている、と十六の若輩ながらも僕はそう思った。
これはもしかして、年配の吉野からの指示のもとに、若くて勢力盛んな
古村が動き、祖母を辱めるような詰問をしているのではと、僕はない頭で推
測したのだ。
六十代の吉野と若い古村との間には、仕事上か何かの上下関係があるよう
だったのも、僕の拙い推測上の一助になった。
恥ずかしい事態を、自ら墓穴を掘るように引き起こしてしまった竹野は体
裁が悪かったのか、何かを思い出したような顔をして室をでてしまっていた
のだ。
でもそんなことは、部外者の自分にはどうでもいいことだったので、僕は
また祖母と古村の、長い絡みの場面に目を移した。
いつの間にか絡み合う二人の体位が変わっているのに気づき、窓の外で思
わず目を擦った…。
続く
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