(祖母・昭子 番外編 2)
翌日の朝、少し神経質な面もある幸雄は、栄子より早く目を覚ました。
栄子の家の六畳の客間だった。
日の出前なのか、窓の外がまだ薄暗い感じで、枕元に置いたスマホのボタンを押すと、五時
十二分と出た。
幸雄の真横にはパジャマ用なのか、黄色のTシャツを着た栄子が、鼾に近いような寝息を立て
て眠りこけていた。
幸雄は昨夜の記憶を思い起こしていた。
居間で、深酒でほとんど酔い潰れていた栄子の身体を、幸雄は最初、恐る恐るの気持ちで抱
いた。
衣服を脱がし、ショーツ一枚にしたところ辺りで、酩酊の中にいた栄子が、事態に気づき意
識を戻して、最初に取った行動は、自分の顔のすぐ上にいた、幸雄の首に両腕を廻してきたこ
とだった。
その時はまだ小心な気持ちもあった幸雄は、栄子に拒まれ撥ねつけられた時の、謝罪の言葉
まで用意していたのだが、酩酊状態だったとはいえ、栄子の思わぬ反応に、彼は胸の中で安堵
し、そこから意を強くして、闇雲な勢いで栄子の剥き出しの身体をつらぬき、燃え上った迸り
を彼女の胎内に飛散させたのだった。
「こんなこと、夫はあんなだし、もう二ヶ月以上もしてなかったの」
カーペットからむっくりと起き上がった栄子は、酒で赤らんでいた顔をさらに赤くして、言
い訳めいたようなことをいって、幸雄の顔を窺い見てきた。
「よ、よかったよ、僕も。素敵だった。」
まだ酒の酔いの残る身体を、重たげに起こして、栄子はその後座卓の上の食器類をそそくさ
と片し、客間に僕を案内した。
室にはもう布団が敷かれていた。
「わ、私もここで寝ていい?」
襖戸に手を置きながら、栄子がしおらしげな声でいってきた。
幸雄が首を頷かせると、栄子は口元に嬉しそうな笑みを浮かべて、
「仕事の時以外には、人と話すこともなくて…あなたになら何でも話せそう」
そういって一度室を出ていった。
下着のシャツとブリーフだけになって、布団に仰向けになっていると、間もなくすると襖戸
が開いて、黄色のTシャツとショーツ姿の栄子が、それほど太っているというほどでもない身体
を窄めるようにして、幸雄の横に入ってきた。
室の照明は、天井からの小さな灯りだけだった。
「ごめんなさい、こんな格好で」
しおらしい声でいいながら、栄子は顔を幸雄に近づけてきた。
幸雄の全身が小さく震えた。
布団の中で栄子の手が、いきなり幸雄のブリーフの上に載ってきたのだ。
栄子の顔は、幸雄の唇を求めているようだった。
手はブリーフの上で、妖しげに蠢き出していた。
積極性のあまりない性格的な問題もあって、女性経験はそれほどない幸雄の、下腹部の反応は
自分自身も驚くくらいに早かった。
自然な流れで幸雄は唇を、栄子の口紅を塗り直してきたような唇に重ねていった。
アルコールの匂いに混じって、歯磨き粉のようなミントな匂いが、幸雄の口の中を覆った。
「あなたのお母さんに叱られるかも…」
唇が離れるとすぐに、栄子が申し訳なさそうにいった。
「どうして?」
「だって、こんなに歳の離れた叔母さんなんかと」
「僕は若い頃からずっと、年上の人にしか興味を持てないできた。それは今も変わってない」
「いいの、嫌になったらいつでもいって。」
「いきなりそんなこといわないで」
「ご、ごめんなさい」
そういって、栄子が自分の身体を下にずらしていった。
掛け布団が、幸雄の下腹部の辺りで、大きく盛り上がっていた。
幸雄のブリーフの片方が足首から抜き取られていて、幸雄は自身のものが何かに咥えられたの
を感じた。
幸雄のものは、栄子の口の中で見る間に怒張していた。
「え、栄子のを…僕も」
身体の下から襲い来る愉悦と戦いながら、幸雄は布団の中の栄子に向けていった。
栄子の身体はすぐに動き、幸雄の顔の真上に、薄暗い灯りに照らされた、彼女の丸く膨らんだ
臀部が見えた。
臀部の下の妖しく避けた肉襞と、さらにその下の漆黒が塊りのように、小さな灯りでも鮮明に
見えた。
幸雄は栄子の、白くて柔らかい尻肉を掴み取るようにして、顔を上げ、露わに見えている、欲
情的なその肉襞に押し付けていった。
くぐもったような声が、布団の中から聞き漏れてきた。
さらに幸雄の欲情をそそらせる、女性にしか出せない匂いが、幸雄の鼻孔を強く刺激してきた。
どちらのほうからとでもなく、唾液が小さな波のようになって、ぴちゃぴちゃと跳ねる音が繰
り返し続いた。
掛け布団はいつの間にか横に撥ね除けられていた。
幸雄の下腹部から顔を上げた栄子は、自分の身体の向きを変え、彼の下腹に腰を浮かし気味に
して跨り座っていた。
天井に向けて屹立し、唾液に濡れそぼっている幸雄のものを、栄子は自分の手で誘うようにし
て、漆黒の下に添え当てていった。
栄子の身体が、幸雄のものを呑み込むように、ゆっくりと沈み込んだ。
「あうっ…」
顔を上にのけ反らせて、栄子は悶えた。
栄子は自らの意思で、幸雄の腹の上で腰を上下させていた。
「こ、こんな叔母さんだけど…」
栄子は唇を震わせながら、
「き、嫌いにならないでね…ああっ」
と喘ぎ喘ぎに言葉を続けた。
栄子の乳房の膨らみは豊かで、彼女が身体を上下するたびに大きく揺れ動いた。
栄子の丸みを帯びた柔らかな乳房に、下のほうから幸雄の両手が伸びてきていた。
「き、嫌いになんかなるもんか」
幸雄はそういって、乳房を揉みしだいている手に力を込めた。
「え、えいこ。…き、君を無茶苦茶にしたい」
これまでの幸雄なら、出そうにない言葉が出ていた。
野川の頭の中に、ふいに日光の、あのログハウスでの体験が浮かび出てきていた。
男に虐げられ、悶える女性の顔が浮かんだ。
栄子の姉の尼僧で、幸雄の恩師の裸身だった。
下から栄子の、すでに汗の滲み出ている顔を見上げながら、幸雄の心の中の目は、あのログハ
ウスで複数の人間の、好奇な目に晒され、それでも艶やかな愉悦の表情を浮かばせていた、恩師
の顔を浮かび上がらせていた。
その思いをどうにかして打ち消そうとして、幸雄は自分からも腰を動かせ、突き刺す動作に力
を込めた。
栄子の声の昂まりが、一際大きくなった。
急に浮かび出たログハウスの尼僧の、いや自分の恩師の顔を思い出したせいもあってか、下か
ら責め立てている幸雄のほうに、限界の告知が迫ってきているようだった。
そのことを意識した瞬間に、幸雄の全身は急激な高波に襲われたかのように、絶頂の極みに到
達してしまっていた。
栄子が後始末を終え、布団に入ってきた時、
「ご、ごめん」
と幸雄は素直に詫びの言葉をいった。
「ううん、ちっとも」
年の功の差で、栄子は落ち着いた声で返して、萎れた表情の幸雄の頬を撫でつけてきた。
それから一頻り、栄子は自分のこれからの、娘を抱えての身の振り方を話したあと、意外な方
向に話を持っていった。
「…で、娘を擁護施設に暫く預けて、明後日には私一人で、奥多摩のお姉ちゃんとこへ、避難
するんだけどね、ほんというとあまり気が進まないのよ。お姉ちゃんとは小さな頃から、あまり
仲はよくなかったの」
そう話し出して間もなく、
「お姉ちゃん、今逃げ廻っている私の亭主と肉体関係あってね。…最初はいきなり襲われて犯
されたらしいんだけど、その後も関係が続いたようなんだけど、お姉ちゃんから私への説明は何
もなくて、私がそのことを聞かされたのは、亭主の口からだったの。私の亭主はね、女の人を虐
めて犯すっていう変な趣味あってね。私との時でも、私を縄で縛りつけたり、ベルトで叩いてき
たりしてたの。お姉ちゃんもそうで、亭主がね、私を縛り付けながら、お前の姉貴はこうされる
と悦ぶ女だった。無理矢理犯すと悦んでたが、妹のお前はさっぱりだな、なんて貶されたりして
…それに、顔やスタイルも姉は私と違って、何もしなくても目立つほうだったから…私は劣等感
の塊りみたいな人間なのかも…」
と自嘲的な溜息を何度も吐きながら、遠くを見るような目で長々と喋った。
幸雄のほうは黙ったまま聞いているだけだった。
そんな女性の魅力に惹かれて、二十年も生きてきている、自分を非難されているような栄子の
いいぶりもあって、幸雄から返す言葉が見つからなかったのだ。
栄子のいうことのどこかに、幸雄自身も理解できそうな面もなくはないように思えたが、それ
で尼僧の綾子、または恩師への二十年に渡る、幸雄の思慕の思いは、揺らいだり萎むことはなか
った。
自分の本来の目的の女性は、間違いなく綾子だ。
勇気と積極性が早くからある自分なら、もっと早い時期に、白黒の決着はつけられていたはず
だし、今でも直接的に本人に、二十年間の切なる思いを告げるのは可能なことなのに、敢えて幸
雄は回りくどい手法で、妹を最初に篭絡させ、綾子との関連を持たせようとしている、自分を自
分自身でも愚かだと思っている。
人からどのような誹りを受けようとも、いいも悪いも、これがしかし野川幸雄の人生になるの
だと思いながら、幸雄は布団の中の栄子の手をいとおしむように握り締めた…。
続く
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