…まるで好餌を前にした獣のように、淫猥な視線になっているのに、私は気づかされました。
「肌の色艶は、さすがにモノホンの親子だけあって、そっくりだな」
男は私の身体を、下から上へ、上から下へ何度も顔を上下させながら、満足そうに下卑た声
でいってきて、
「こっちへ来いや」
といって片手で手招きをしてきました。
男と私との間隔は三メートルもないほどでした。
逃れる手立ての何jもない私は、剥き出しにされた乳房を両手で覆い隠しながら白足袋の足
で床を擦るようにして、男の前ににじり寄りました。
「あっ…」
と私が短い声を挙げた時には、胸を覆っていた片手を掴み取られ、強い力で引き寄せられて
いました。
私の身体はあっけなくバランスを失い、男の前に傅いていた息子の洋一の肩に倒れ込むよう
に姿勢を崩していました。
それでも洋一は、私のほうを振り向くこともなく、一心不乱に自分がしていることを続けて
いました。
私を引き寄せた男の手が、無防備になった私の乳房の両方を、がっしりと受け止めるように
掴み取ってきました。
「ああっ…」
ソファーに座り込んだ男の前で、身体のバランスを崩したまま、男の浅黒い肌をした身体に
凭れかかっている私に、咄嗟にできる行動は何もありませんでした。
「ふむ、五十前にしちゃいい膨らみで、弾力も充分だな」
私の両方の乳房を掴み取った男の手が、荒々しく動き廻ってきていましたが、目の前で男の股
間に顔を埋めつくしている、洋一のことも気になり、私の抗いの動きのどれもが中途半端になり、
サングラスの男の胸に包まれたまま、されるがままの状態でした。
やがて男から洋一に向けての指示が出ました。
離れて前で見てろ、という指示でした。
洋一は素直に男から離れ、汗を滲ませた顔を俯かせながら、前のソファに丸裸の身を座らせま
した。
「さ、お母さん、大事な息子の見学する前で、身も知らない男に、たっぷりと愛される気分は
どうだい?」
男は嘯くようにそういって、自分の胸の前で怯えた顔を晒している、私に向けてそういってき
ました。
「お、お願いですから、こ、子供の前でだけは…」
哀訴と哀願の思いのすべてを込めて、もう三十センチもないほど間近にある、男の顔に私は泣
きそうな声で訴えました。
そんな私の哀訴哀願の声など、男は私の顎を手で挟み込んできて、いきなり唇を強引に塞いで
きたのです。
私の切なる願いへの答えがそれなのでした。
お酒と煙草の臭いが、固く閉じた私の歯の周辺に強く漂ってきていました。
男の片方の手は、私の片側の乳房を強い力で掴み取っています。
私の唇を塞いできている男の唇は、長く離れようとはしませんでした。
そして息苦しさで、私が少し歯を開いた時、男はその機を逃さずに、私の口の中へ狡猾に自分
の舌を滑らせてきました。
どうにかして、私は男の顔を突き放そうとしたのですが、細身の引き締まった身体の男の力は
思いの外強く、長い時間、唇を塞がれ続けました。
長いソファで足をばたつかせるだけが、この時の私にできた唯一の抗いでした。
こじ開けられた口の中で、舌を自在に弄ばれながら、目を薄く開けて前にいる洋一に向けると、
何か思い詰めたような強い視線で、私のほうを見つめてきているのが朧げにわかりました。
もう時の経過を待つしかないと、私は唇を塞がれている息苦しさの中でそんなことを考えてい
ました。
そんな考えの中へ、唐突に私の身体のどこかで、小さな炎が弾け出たような気がしました。
本能的に女としての危険が、どこかから湧き出てきそうな、危険な予感めいたものが、私の脳
裏を何の予兆もなく過ったのです。
私は自分で自分に驚いていました。
実の息子のいる前で、こんな卑劣なかたちで凌辱を受けている身に、女としての官能の炎がじ
わりとでも湧き上がってこようとしている、自分自身に私は驚き、忽ちにして戸惑いと狼狽を意
識したのでした。
風船の空気が抜けていくように、私の身体のどこかから力と気持ちが、次第に萎えていくよう
な、そんな思いに襲われ出したのでした。
いけない、いけないと私は心の中で、自分を激しく叱咤して、唐突に湧き出た女としての疼き
のようなものを打ち消そうとしました。
身体の内面の不埒な思いと戦っていた私は、男の片方の手が、自分の下腹部に下りていたこと
に気づきませんでした。
ショーツの上への、いきなりの手の触感に気づいた私は、唇を塞がれたまま、思わず目を大き
く見開いて、身体を揺り動かそうとしたのですが、それも儚い徒労に終わり、男の為すがままの
状況に追い込まれたのです。
ようやく男の唇が私の唇から離れ、
「お母さん、あんた、濡れてきてるぜ」
と最初にいわれた時、私はもうただ狼狽えるしかありませんでした。
身体の中のどこかに火が点いたと感じた私の、その証しが自分のショーツに沁みになって、現
れ出ていることを、私は男の言葉で知らされたのでした。
自分の顔の頬や首筋の辺りが、熱風を吹き当てられたように、赤く染まるのが自分でもわかり
ました。
羞恥を露わにした私の顔の真上で、男が口元を歪めながら、気色の悪い薄笑みを浮かべていま
した。
「息子の見てる前でも、お母さんは女になれるんだな、ふふ。今からたっぷりと、女として楽
しませてやるぜ」
男は勝ち誇ったようにそういうと、いきなり動き出し、
「お母さん、もう余分な手間は必要ねえな」
とそういって、ソファ横たわらされている、私の足元に身体を移してきて、私の足の間に身体
を入れると、乱暴な手つきでショーツを引き剥がしてきました。
休むことなく男は動き、私の両足を手で抱え込むと、いきなりつらぬいてきたのです。
「あっ…ああっ!」
私の身体の中へ突き刺さってきた男のものは、私の内臓を抉って脳髄にまでつらぬき通してく
るような衝撃でした。
傍に息子の洋一がいるということも、一瞬にして忘れ去らせるほどの快感が、私の全身だけで
なく心の中にまで深く伝わってきていたのです。
初めて対面した男で、息子の洋一を散々に甚振り、男子でありながら、その若い身体を女性の
ように犯している非道極まりない男につらぬかれているということを、私は慙愧にも堪えないこ
とでしたが、愚かにも一瞬にして忘却してしまっていたのでした。
男の私へのその一撃は、あなたにも申し訳ない気持ちで一杯ですが、私の女としての人生で一
度も感じたことのない、衝撃のつらぬきでした。
男の強烈極まりないその一撃だけで、私の女としての、いえ、人としての人生は終焉したのか
も知れません。
その後は、憎んでも憎みきれないはずの、男の手練手管の術中に私は深く嵌り、為すがまま、
されるがままの身となり、地獄の紅蓮の炎の中に深く沈み堕ちたのでした。
憎悪と唾棄すべきしかない、男のつらぬきの迸りを何度か受け、私はここに書き記せないほど
に激しく身悶え、愉悦と享楽の境地の渦の中に噎せ返るほど浸りきらされました。
息子の洋一とも男の命令に従い、親子の間を超えて身体を結び合い、その日、最初にエレベー
ターの前で会った、男の配下の者たちにも抱かれました。
そして、本当にミイラ取りがミイラ取りの憂き目になってしまい、その日以降私と息子の洋一
は男たちの奴隷になり、接待用の恥ずかしい見世物になり下がっていったのです。
私を誰よりも大切にしてくれたあなたには、どうしてもこのことを正直に話すことはできませ
んでした。
しかし、真実の神様はやはりこの世にいるようで、いつの日だったか、あなたの仕事の取引会
社の社長さんが、私と息子の洋一の性交実演の場に、あなたが落としていったという手帳を親切
心で、家に届けてくれた時、私は自分の人生の行く末が見えたような気がしました。
あなたが私に何一つ告げようとせず、一人で苦悶の縁を彷徨っていたことを思うと、今でも胸
が張り裂けそうな思いです。
ある日、息子が交通事故で亡くなったと聞いた時、最後まで親らしいことを何もしてやれなか
った私は、自分がこの世から消える時には、せめて息子と同じ状況に合わせてあげたいと思って
います。
吉野氏の重過ぎる一章を読み終えた時、さすがに僕も気が滅入って、パソコンの前から暫く立
ち上がれなかった。
人の人生なあ、と真面目に瞑想の世界へ入ろうとしたら、僕の周囲で今、一番うるさい同学年
の紀子から電話が入った。
「雄ちゃん」
僕が声を出す前に、紀子が名前を呼びつけてきた。
「何だよ」
面倒臭そうな声で僕がいうと、
「雄ちゃん、前に奥多摩で話した時、SMの世界って話したよね?」
「バーカ、お前あじゃないかよ。その話持ち出したの」
「あれ、そうだっけ?」
「お前がさ、憧れの生徒会長さんから、そんな類の本読めなんていわれたっていう」
「ああ、ごめん、私だった」
相手に悪びれた声では少しもないのが、少しイラッときたが、
「それがどうしたっていうんだよ」
と僕は我慢して聞き返した。
「明日行く、叔母さんちね。どちらかがSM愛好者なんだって。昨日、お父さんとお母さんが寝
室で話してるの聞いちゃったの」
「趣味悪いな、お前。親の寝室覗くなんて」
「そんなんじゃないわよ、バカ」
「ややこしくなるの嫌だぜ」
「そうなったら手を引けばいいじゃん」
「あ、そう。じゃあな」
電話は僕のほうから切ってやった。
嫌な予感がしていた…。
続く
(筆者お詫び)
何度も途中投稿になってしまいすみません。
パソコンが古くて、その不具合のようです。
またあるかもしれませんのでご容赦ください。
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