「雄一さん…」
との向こう側からの声は、間違いなく祖母の声だった。
もう少し前の、あの突然ここにやってきて、悪意のない痕跡を残していき、そのことで
僕を諫言した時の声質とは、まるで違う響きの声だ。
「もう、寝たの?」
もう一度聞いてきた、その微かにハスキーな声は、祖母の声に違いはなかったが、僕の
祖母としての声ではなかった。
「起きてる。…入れよ」
そういった僕の声音も、少し変わっていたかも知れない。
戸が静かに開いて、スタンドだけの薄明るい灯りの向こう側に、白地に紺の花柄模様の
寝巻姿の祖母の、肩の細い小さな身体が膝を折って傅いているのが見えた。
室に畳に足を踏み入れ、丁寧にまた膝を曲げて、僕に背中を見せ、祖母は襖戸を閉めた。
戸の前から祖母は、暫く動いてはこなかった。
祖母の身体よりも先に、化粧のそれではない芳醇な女の匂いが、僕の鼻先に心地よく漂
い流れてきた。
「眠れなくて…」
主語のない言葉をまた一言いってから、祖母は楚々と身体を起こして、僕の布団の横に
正座してきた。
「入れよ」
掛け布団を片手で上げながら、僕がいってやると、祖母はまるで若い小娘のような、純
朴なはにかみの表情を見せながら、嬉しさを隠そうともせず、僕の横に、寝巻の裾を少し
気にしながら潜り込んできた。
スタンドが近くになり、明るいところで見ると、祖母のかたちのいい唇に口紅が赤く引
かれているのがわかった。
僕の目がそこに集中したことに気づいたのか、祖母の白く小さな顔がほんのりと朱に染
まっていた。
「どうして寝れない?」
布団の上で、お互いが横向きで顔と顔を見合わせていて、その間は三十センチの定規ほ
どもない。
「うーん、やっぱり人を見送るって…幾つになってもね」
「吉野さんか…」
向き合っていた祖母の目が、一瞬だけ逸れて違うところに向いた。
「お、俺もね、今、吉野さんの書き残したものを読んでた」
「そういえば、あなたからあの、何とかメモリーの中味のこと、まだ詳しく聞いてない。
何が書かれているの?」
祖母の視線は、また僕に戻っている。
「半分は昭子のことばかりだよ。妬けるくらい」
「は、恥ずかしいこと書いてない?」
「その恥ずかしいとこ読んでたら、昭子が来た」
「まあ…」
ほんのりとした朱色だった祖母の顔が、さらにその色を濃くして、細い首筋や見えてい
る耳朶にまで派生していた。
「私、こんな歳なのに恥ずかしいことばかり。吉野さんと一緒に死ねばよかった」
「昭子、俺が一度でも、それで昭子が嫌いになったとか、軽蔑したことをいったか?」
祖母は、大人に諭されている小娘のような目をしていた。
「まだ若過ぎる俺がいっても似合わないけど、性分なんだと思うよ。いいか悪いかじゃ
ないと、俺は思う」
そんな偉そうな御託をいった僕は、いきなり祖母の顔に顔を近づけていき、赤い紅の引
かれた唇を塞ぎにいった。
祖母の寝巻の両手が、まるで僕のその動作を待っていたように、僕の首に巻き付いてき
た。
口の中で祖母の舌のほうが先に動いて、僕の舌を捉えにきた。
顔と顔だけではなく、胸と胸までが密着した。
これまでの経験の賜物かどうかわからなかったが、僕の片手は器用に動き、祖母の寝巻
の細帯を解いていて、寝巻の襟も苦にすることなくはだけられていた。
長く重ね合った唇がどちらからともなく離れ、僕の唇は休む間もなく祖母の首筋から、
乳房に向けて這い下りていった。
手と舌の両刀遣いで、僕は祖母のまだ若い娘のように、かたちを丸くしっかり残している
乳房への愛撫に、僕は励んだ。
豆粒ほどもない、桜色の小さな乳首だったが、反応は素早く、僕の舌の愛撫に敏感に応え、
その証しを硬度で僕の舌に伝播してきていた。
「ああ…ゆ、雄一さん…き、気持ちいいわ」
吉野氏の記述にもあったが、それが癖なのか、祖母は手の指を唇だけで噛むようにして、
襲ってきている愉悦に堪えていた。
祖母の乳首への愛撫は右側が最初だった。
頃合いを見て僕の舌は、唐突に左側に移行した。
「ああっ!…だ、だめっ…そこ」
僕と深く重なり合っていた祖母の小さな身体が、電流を走らせたかのように激しく波打
って震えた。
そこは祖母の身体の最大の弱点だった。
左側の膨らみに手を添えても、祖母の反応は同じで、リピートするかのように同じよう
な喘ぎの声を漏らした。
多分顔のほうもそうなのだろうが、祖母の細い首筋や乳房の丸く膨らんでいる肌に、生
温かい湿り気のようなものが滲み出してきていた。
左側の乳房の膨らみの始まりの地点にある、小さな黒子に僕が舌を這わした時も、祖母
はそれに気づいたかのように、身体を揺らし声を挙げて強く反応した。
襲いきている官能の愉悦に、全身での反応を示した祖母の寝巻は、片側の肩に辛うじて
かかっているだけで、ほとんど原型を残さずに、祖母の身体から離れていた。
掛け布団を払い除けて、僕は自分の身体を祖母の身体の下のほうに移し、血管の青筋が
見えるほどに白い、祖母の両足を割り拡げて、僕はその間に顔と身体を置いた。
顔を上げて祖母の顔を下から覗き見ると、また手の指を唇で噛んでいた。
祖母の剥き出された足の付け根が、僕の顔のすぐ下にあった。
以前にあの吉野氏から剃毛を受けたという、祖母のその部分は、毛というほどの長さは
まだほとんどない状態で見えたが、その下の肉の淫猥な裂け目は僕の目にもはっきりと見
えた。
右手の人差し指を、肉のその裂け目の真ん中辺りに、添えるように置いてみると、
「あっ…!」
と僕の頭の上のほうから、短い声がふいに挙がった。
肉の裂け目に添えた指先に、圧す力を少し加えると、指の先端がその裂け目の中に微か
に沈んだ。
沈ませた指先に、生温かい滴りのようなものを感じて、僕はもう一度祖母の顔に目を向
けた。
唇で手の指を噛んだままの祖母の顔が、声を堪えるように、枕の上で大きくのけ反るの
が見えた。
「感じているのか、昭子?」
肉の裂け目に沈ませた指を小さく動かせながら、僕は祖母の顔に向けて尋ねた。
最初は細い顎だけを幾度も頷かせていた祖母だったが、僕の指の動きが止まないのに屈
したのか、
「と…とても…い、いい」
と唇を震わせ気味にいった後は、堰が切れたように、喘ぎか悶えかわからない、余韻が
妖しく残る声を間断なく漏らし続けてきた。
祖母のその部分からの滴りは、一時のものではなくて、祖母の身体の内側から止まるこ
と溢れ出ているようで、僕の手全体に夥しい濡れを齎せてきていた。
当然に若い僕のものは早くから屹立を開始していて、臨戦態勢は整い過ぎるほどになっ
ていたので、祖母が切なげな声で、
「お、お願い…も、もう入れて」
と哀訴してきた時には、僕の固く屹立したものの先端は、しっかりと照準を定めた位置
にあった。
僕のものを押し返そうとする少しの抑止力と、包み殺そうとする柔らかな圧迫感の中を、
僕のものは動きを緩めた人間ドリルになって、祖母の胎内に侵入した。
「ああっ…!」
まるで歌でも歌っているようなくらいに、祖母は口から白い歯を見せて、襲ってきた快
感に堪え忍ぶように歪めた顔を、枕の上で大きくのけ反らせていた。
祖母の胎内に侵入した、僕の屹立したものの先端が何かに突き当たったような感触があ
った。
それが何で、女性の身体のどこの部分なのか、僕にはわからない。
自分のものが祖母の胎内の、何か決められた金型に嵌ったような感覚があったが、それ
に拘ることなく、僕は自分の腰を本能的な動きで、上下になるのか、前後になるのかわか
らないままゆっくりと律動させた。
「ああっ…う、動かないで!」
祖母の口がそういった。
美しい顔だと僕は思った。
その顔をもう一度見たいと思って、僕の腰はさらに動いた。
「ああっ…だ、だめ!…う、動いたら」
「動いたら?」
祖母に尋ねながら、腰の律動は止めずにいた。
「わ、私…死、死んじゃう!」
「これだけで?」
「い、いいの。こ、これだけで…」
「先はまだ長いよ」
祖母の身体や気持ちは無視して、僕は腰の律動に徐々に力を込めていった。
祖母の白い額に汗の筋が何本か見えた。
その汗に祖母の前髪が濡れて、額にへばりつくようになっていた。
僕の腰が早く強く動くたびに、祖母は嗚咽のような声を間欠的に漏らし続けていた。
寸止めとか何か、アダルトビデオの知識で、そんなテクニックがあったような気がする
が、それに関係なく、僕は唐突に祖母の胎内に侵入していた自分のものを抜き、最早、青
息吐息状態で仰向けになっている祖母の身体を起こし、布団の上に四つん這いにした。
身体の部分部分に弛みがあったり、肉感から張りが消えていたりするのが、年齢を重ね
た女性の止む追えない特徴だが、僕の股間の前に突き出している、祖母の臀部の尻肉はま
だ、若い娘のように白く、熟女特有の垂れ皴もなかった。
祖母の胎内から発出した愛液にまみれた自分の屹立を、僕はゆっくりと舌動作で槍で米
俵突き刺すように、祖母の臀部の下に突き刺していった。
祖母のそこの部分は、まるで僕の槍の到来を待っていたかのように、柔らかく包み入れ
てくれた。
「ああっ…」
布団に伏せていた祖母の顔が、犬が遠吠えする時のように上がり、妖しげな余韻の残る
嗚咽の声を高く挙げた。
若い僕の体力は時間の長さにも屈することはなかった。
逆に少なくとも僕よりは経験に長けた祖母のほうが、繰り返し繰り返し襲い来る快楽と
悦楽の、僕からの波状攻撃に、陥落の一歩手前くらいまで追い詰められているようだった。
「お、お願い…も、もう、ここで…逝かせて」
そんな祖母の哀願の声に委細かまわず、
「昭子の顔が見たい」
僕はそういって、あるところでまた祖母の身体を動かせた。
「ああ…わ、私…こ、これが一番恥ずかしい」
祖母が自分の顔の置き場がないように、忙しなげに目を至るところに動かせながら狼狽
えていた。
布団の上で僕は胡坐をかいて座っている。
祖母の小さな身体が僕に正面を向いて、跨り座っていた。
当然に二人の顔と顔は接近し、裸同士の胸と胸は密着する。
互いの吐く息や吸う息の音も聞こえる。
何よりも目と目が否応なしに合ってしまうのだ。
密着は身体の下もそうだった。
足を開いて僕に跨り座ってきている、祖母の下腹部の無防備な箇所に、まだ猛々しく屹
立している僕の者が突き刺さった状態なのだ。
「これで昭子の顔がよく見える」
そういって僕は祖母の両脇を挟むように掴み取って、身体を上下に揺すると、祖母は下
からくる衝撃に顔を切なげに歪める。
その顔を見られまいと、激しく上半身を揺り動かす。
するとまた下からの刺激が、上半身に伝わってくるという、祖母にとっては悪循環の繰
り返しになるのだった。
執拗さと熟練さには少しばかり欠けるが、若さ頼みの長く丹念な僕の責めに、祖母はも
う落城寸前だった。
葬儀やら僕の間抜けな行いへの心配やらで、祖母の気心も相当に疲れているだろうと思
い、僕はそのまま身体を前に倒していき、下腹部を繋げたまま、布団の上で最初の時の体
型に戻った。
祖母の小さな身体を上から包み込むようにして、僕は最後の力を振り絞ってつらぬき続
けた。
「ああ…や、やっぱり…あ、あなたが…い、一番いいっ!」
祖母は泣きそうな声でそういって、僕の背中に小さな爪を立てて、愉悦と享楽の渦の中
に深く埋没していった。
無論、僕も追随した。
あくる日の朝、一緒に添い寝して寝たはずの祖母は、もう起きていて、台所のほうから
味噌汁の匂いが、寝ぼけ眼の僕の鼻先にまで漂ってきていた。
顔を洗いに出る前に、枕元に置いたスマホに目を通すと、女難の相か何かみたいに、女
の名前ばかりの着信とメールが五、六件届いていた。
メールの最初の一人は母親からで、今日が臨時休校になったとのあっさりとした報せ。
後は高校同学年の村山紀子と、国語教師の沢村俶子の二人で、俶子のほうは会いたいと
か、寂しいとかの泣き言ばかりだったが、紀子からのメールは、
(例の叔母さんが会ってくれるって。来週の土曜の午後。時間は未定)
というものだった。
紀子からのメールがもう一件あった。
(返信できないことしてるの?キスさせてあげたのに、バカ)
僕は昼過ぎの列車に乗って奥多摩を出た。
駅のホームで、また祖母に泣かれた…。
続く
(筆者後記)
数々のご提言やらご諫言、ありがとうございます。
また励ましのお言葉も心に染み入っています。
自分なりにもう少し頑張ってみようと思ってますので、
ご意見なりございましたら、ぜひ書き記してください。
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