翌日の朝、それほどの神経質でもない僕だが、布団が変わっているせいか、休日の
日にしては珍しく八時前に目が覚めた。
枕の横にジーンズとポロシャツが、奇麗に畳まれて置いてあった。
それを見て僕は、ここが寺の尼僧の綾子の住家だと気づき、昨夜の悦楽の出来事を、
まだ寝惚け気味の頭に思い浮かべていた。
服を着て居間に続く襖戸を開けると、黒塗りの座卓の上に朝食の用意がされていて、
尼僧姿の綾子が、台所のほうから味噌汁の湯気の立つ椀を載せた盆を手にして、居間
に入ってくるところだった。
「おはようございます」
昨夜のことが何もなかったかのような、自然な顔と声で、綾子が僕に挨拶を送って
きた。
「おはよう」
と僕はぶっきらぼうに言葉を返して、座布団に座った。
自分の家では見たこともない数の皿が、幾つも並び置かれていて、僕は少し気後れ
しながらも、若い分だけ箸と口は動かせて腹の中に詰め込んだ。
袖頭巾姿でつつましやかに、箸を動かせている中年女性と、どこにでもいそうなポ
ロシャツとジーンズ姿の、まだどこかにあどけなさも残っていると、たまにいわれる
若者との、この朝食時の光景を、他人が見たらどう思うだろうなと、僕は内心でそん
なことを思いながら、食後のコーヒーもあまり品よくなく啜った。
「雄一さん…」
昨夜のこともあってか、尼僧の綾子が少しおずおずとした声で、僕の名前を呼んで
きた。
返事はせず、顔だけ向けると、
「お婆さん、今日の午後からお葬式だっていってたから、あなたも早く帰ってあげ
ないと」
といわれ、僕は慌ててその場を立ち上がった。
近所の叔母さんの家を出てすぐに届いた、祖母からのメールを僕は思い出した。
(吉野氏の葬儀が明日の二時になったので、十時までに帰ります)
そんな内容だったが、尼僧の綾子にいわれるまで、僕は全く忘れていた。
慌てて玄関口に向かうと、背後から綾子の声がした。
「昨日はごめんなさい。あなたを怒らせてしまって…」
それには返答しないで靴を履き、玄関の戸に向かおうとすると、
「あなたに嫌な思いで帰られるのは嫌…」
とまたいってきたので振り返ると、驚いたことに涙目になっているのが見えて、今度
は僕のほうが狼狽えてしまった。
「怒ってなんかいないよ、綾子」
そう返してやると、悲嘆の表情がすぐに変わり、口紅を薄赤く引いた唇の端に薄笑み
を浮かべていた。
「気をつけてね。お婆さんにもよろしく…あ、それから…私のことも忘れないで」
尼僧の綾子は自分のいいたいことだけいって、指の長い手を振って笑顔で見送ってく
れた。
草だらけの細道を歩きながら、スマホで時刻を見ると、九時少し前だった。
祖母も時々わからない時があるが、今しがたの尼僧の思いがけない涙といい、熟女へ
の対応というのは意外と難しいと思いながらの帰路だった。
「熟女のトリセツ」というタイトルの本が出たら、僕は真っ先に買うつもりだ。
祖母が少し疲れた表情で帰ってきたのは九時半過ぎだった。
台所に立った祖母は、すぐに僕にいった。
「お夕飯食べなかったの?」
「あ、あの、それが…」
「それがって?」
「し、下の家の叔母さんがね。昨日の帰り道の途中で会って、婆ちゃんが これこれで
いないっていったら、晩飯食べに来いって誘われて」
「まあ、吉崎崎さんとこで。お礼ちゃんといった?」
「うん、いったよ」
居間に来ると、
「新聞読んでないの?」
「は…?」
「昨日私が出かける前に置いたそのまま」
「あ、ああ…学校の調べもので、パソコンと睨めっこだったから…ここでそ、そのまま
寝てしまって」
「バカねぇ、風邪引いたらどうするの?」
このままでは僕の寝室もチェックされ、布団を使ってないのがバレると思い、僕は咄嗟
の出まかせをいった。
勘の鋭いのは僕の母親と同じだ。
「私、喪服に着替えて、十一時の電車に乗らないといけないから、お昼は家でラーメン
でもしてね」
「ぼ、僕も葬式行かなくていいかな?」
「その恰好で?…来なくていいわよ、一度は話せたんだから」
「そう」
僕の返答を待たずに、祖母はすたすたと自分の室に入っていった。
冗談抜きに「熟女のトリセツ」が欲しいと、僕は思った。
濃紺のツーピース姿に着替えて、化粧もし直したのかあでやかさが際立って見えた。
両手で少し小さめの旅行用バッグを引き摺っていたので、
「婆ちゃん、それ僕が駅まで持っていくよ」
と僕はすかさずいって、祖母からバッグを取り上げ、そのまま玄関に出た。
祖母の鋭い追及を避けたい思いからだった。
「遅くても最終の列車では帰ってくるから、食べるものちゃんと食べて、家にいてね」
祖母は駅舎の入り口で、ダメ押しのように僕にいい残して、列車に乗り込んでいった。
やれやれという思いで家の玄関に戻ると、スマホが鳴り出した。
祖母が僕に、まだいい足りないことがあってかけてきたのかと、恐る恐る画面を覗くと
同じ高校で同学年の村山紀子からだった。
一年生になって同じクラスになった僕は、彼女と交際していたのだが、ある出来事があ
って喧嘩別れみたいになっていた女子高生で、所謂、元カノだ。
この奥多摩へ来る少し前に、スターバックスのコーヒー一杯で、厄介そうな相談事を僕
は持ちかけられていた。
「おう!」
着信ボタンを押してすぐに、僕は柔道部の部員みたいな少し横柄な声でいった。
「そういう挨拶は、あなたには似合わない」
と紀子は冷静な声で突っ込みを入れてきた。
僕が黙ると、
「また唇尖らせているでしょ?…雄ちゃんは雄ちゃんらしくしてなきゃ」
と追い打ちをかけてきた。
交際当時と同じで、相変らずの小言や減らず口は、半年くらいで直るものではないと思
いながら、
「何だよ」
とぶっきらぼうに聞き返した。
「何だよもないでしょ。今、どこにいるの?」
「ど、どこだっていいじゃないか」
「遠いところにいそうな気がする」
女の勘の鋭さは、どうやら年齢には関係なさそうだ。
「叔母さんをあなたに会わせるのはもう少し先になりそうなんだけど…」
紀子の声は、最初に僕に突っ込んできた勢いとは、まるで違うイントネーションになっ
ていた。
「何だよ、紀っぺ…違った、君らしくないじゃないかよ」
「あ、紀っぺっていってくれた、ちょっと嬉しい」
「暇なん?…部活は?」
「グラウンドがほら、今、土の入れ替えで使えないじゃん。だから休み。あっそうそう、
あなた知ってる?今いった土の入れ替え工事で、大きな水道管を壊してしまって、明日は
学校臨時休校だよ。…でね、両親二人は映画観賞で、私は家で一人留守番中」
「ああ、まだ見てないけど、母親からメール入ってるからそれかな?休みになるのは歓
迎だな。僕ももう少ししたら暇になる」
「何するの?」
「昼飯作りと洗濯」
「あなた、どこにいるの、一体?」
「奥多摩の婆ちゃんち。婆ちゃん、急な葬式で不在になっちゃって」
「私、行ってあげようか?私、料理上手なの雄ちゃん知ってるでしょ?」
「キムチピラフだっけ?」
「洗濯も好きだよ」
「…でも遠いよ」
「奥多摩の何ていうところ?」
思わぬ話の展開から、紀子の強引な申し入れもあって、僕は渋々地名をいわされ、一時半
には雑貨屋のある駅に着くと約束させられた。
そして村山紀子は本当に来た。
薄い臙脂のジーンズと、白のTシャツに濃紺のスタジャン姿で、白のポシェットを肩からかけている。
日焼けした顔から真っ白な歯を覗かせて、雄ちゃん、と大きな声を挙げて、颯爽と駅に降りてきた。
田舎駅のことで人の往来がないのが、僕にとっての救いだったが、タイミング悪く大きな声が特徴の
雑貨屋の叔父さんに見られてしまった。
「やあ、兄ちゃん、また来てるのかい?おや、今度はガールフレンドと一緒かい?羨ましい
ねえ」
と人目も憚らず笑顔で声をかけてきた。
その叔父さんに悪乗りするように、紀子が前にしゃしゃり出てきて、
「雄ちゃんのガールフレンドです、よろしく」
といって、細身の長身を深々と折り曲げて挨拶を返していた。
「バカ、余計なこというな」
家までの坂道の途中で、僕が紀子を半分本気で叱ると、
「はーい」
と素直に謝ってきたかと思うと、
「私、もう一回雄ちゃんのガールフレンドになれる?」
といきなり尋ねてきた。
「長年の夫婦でもな、ヨリを戻すのって大変なんだぜ」
と返してやると、いきなり僕の前に立ち塞がってきて、
「なってやる!」
と断言するような強い口調でいってきて、その後すぐに口元を緩め、健康的な白い歯を覗かせ
た。
農家住宅のどこにでもある玄関から続く三和土に立って、目を大きく見開いて中を一望した後、
「素敵な家!…私、こういうのすごく好きっ」
と本心から嬉しそうな笑顔を見せていった。
今の時代の女子高生の代表のような身なりから、想像もつかないようなしおらしい言葉が出て、
僕は少し驚いたが、
「俺、腹減ってるから、早く何か作ってくれよ。あ、でも、キムチピラフしか出来ないか」
と口からは違う言葉が出ていた。
遠慮のえの字もなく紀子はつかつかと台所に上がってきて、冷蔵庫を開け中を見渡してから、
「キムチの元あったから腕揮える。旦那様は居間で待ってて」
といって、僕を台所から追い出し、遠慮も屈託もないテキパキとした動きで調理を始め、間も
なく座卓の上に、豚肉やハムの細切れやの入ったキムチピラフと、野菜をシンプルに千切っただ
けのサラダが奇麗に並んだ。
学校の陸上競技部で豹のような目をして走り込んでいたり、廊下で女子同士で快活に笑い合っ
ているのからは、想像できないような動きに、僕は唖然とした目のままフォークを動かせた。
食事後の洗濯も、他人の家とも思わないような手際の良さで動き、
「はい、これで私の今日の役目は終わり。お礼は何してくれるの?」
と居間の座卓の、僕が座り込んでいるすぐ横に座り込んできた紀子が、まだ少女らしい悪戯っ
ぽい目で見つめてきた。
「うーん、あげるもの何にもないから、キスでもお返ししようか?」
と僕がほんとに冗談のつもりでいった言葉に、紀子は急に真顔になり、切れ長の少し奥深い目
で、僕に強い視線を向けてきた。
「本当にしてくれるの?」
喉に何かを呑み込むような仕草をして、紀子のその強い視線は長く僕の目から逸れなかった。
着てきたスタジャンを脱いで、家事仕事にけなげに奮闘した、紀子のTシャツの肩に僕の片手が
自然に伸びていた。
当然に二人の距離も狭まり、顔と顔も近づいた。
純真無垢とか清廉潔白とかの言葉しか思い浮かばない紀子の、汚れのまるでない純心そのもの
の顔を、今の自分が見ると、自分の目が潰れてしまうかも知れないというくらいに、ある意味で
は汚れ荒みきっている僕だったが、男女の愛の行為の手順は、目の前で純粋な目で僕を見つめて
きている僕のほうが、おそらく数百倍も長けている、というつまらない自信と自惚れだけでだけ
で、僕は彼女の視線の強さに堪えていたのだ。
紀子の細く少し骨っぽい肩が微かに震えているのがわかった。
それでも僕は、純真無垢な紀子よりもはるかに卓越したキャリアを生かして、そのまま彼女の
唇に唇を静かにゆっくりと重ねていった。
若い汗のようないい匂いが、僕の鼻先についた。
触れた唇の感触の弾けるような柔らかさに、僕は内心で少し驚いたが、一度軽く離した後で、
今度は彼女の唇のかたちを変えるくらいの強さで塞ぎ、舌先を彼女の閉じている歯にノックする
ような柔らかさで当てた。
がちがちと紀子の歯が、小さく震えて鳴っていた。
紀子の両肩に僕の手がかかり、細い骨の手が僕の胸に触れてきたが、無論、跳ね除けようとす
る力はどこにもなかった。
僕の歯のノックに応えて、紀子の歯が小さく開いたのを逃すことなく、僕の舌は素早く彼女の
口の中に侵入していた。
細かな分析はわからないが、シソとハッカの入り混じったようなミントの匂いが、紀子の口か
ら僕の口に心地よく伝播してきていた。
紀子の口の中で僕の狡猾な舌は、いとも容易く彼女の怯えたような舌を捉えていた。
されるがままに紀子は自分の舌を僕に委ねてきた。
紀子の細い肩に置いていた僕の片方の手が、彼女の細身の身体を撫でるようにして下に降り、
彼女の胸の付近で停止した。
弾力の強い柔らかな感触が、そこに触れた僕の手全体に伝わってきた。
同時に緊張感の只中にいるはずの、紀子の細い上半身が電流を受けたようにひどく震えた。
そしてここでも僕の経験が生きた。
気持ちと意欲はここでこのまま流れに乗って、彼女の全てを征服したいという思いに駆られ
ていたが、こいつとはもっと違う場所と場面で感動的に終わらせたいと、僕は自分の意思で自
分の理性を引き出していた。
その場所がどこで、どういうシチュエーションなのかということは、この時の僕にはまだわ
からないでいたのだが、今の自分の理性の縁のようにも思える彼女を大切にしたいという、ら
しくない思いが、身体と心のどこかで発芽したのだ。
「ごめんな」
唇を離して、紀子の目を見て第一声でそういうと、
「どうして、ごめんよなの?」
と彼女はこちらの気持ちも察せず、小さな不満と微かな怒りを滲ませた不足の表情で言い返
してきた。
短絡的に僕は、最後までやっておけばよかった、と悔やんだ。
「ねえ、この村って何もないの?有名なお寺とか…」
ほんとにこいつは、人をどきりとさせることばかりいうと思いながら、
「何もないよ。ないから都会人にも荒らされずにいられるんだ」
と切り返してやった。
今の棚の上から紀子が、簡易の写真アルバムみたいなものを持ち出してきて、
「ね、この人が雄ちゃんのお婆さん?」
と僕の目の前に差し出してきた。
それは祖母が暇に任せて整理した写真集のようで、僕も見るのは初めてだった。
「すごく奇麗な人!」
紀子がひどく感嘆したような声でいいながら、一枚を僕に差し出してきた写真を見て、今度は
僕のほうが驚いていた。
一人の品のよさげな紳士と、東京駅の煉瓦の建物の前で、肩を並べて濃紺のツーピース姿の祖
母が、上半身だけの接写で映っている写真だった。
その写真を見て僕が驚いたのは、ハンチング帽を被った紳士の顔が、先日に他界したあの吉野
氏だったということだ。
いつの日にこんなことがあったのかは関係がなく、祖母が白い歯を覗かせて明るく笑っている
のと、吉野氏も顔一杯の笑顔を向けていることにも、僕は何故か心を打たれた。
「横の人ってお祖父さん?」
案の定、紀子は無邪気な顔で聞いてきたが、無論、二人の関係の真実は、目の前の紀子には口
が裂けてもいえないことだった。
他の何枚かの写真を見ても、紀子から出てくる言葉は同じで、美しいと奇麗の形容詞ばかりだ
った。
「ほんとあなたの目、お婆さんそっくりね。」
「女の目に似てるっていわれてもなあ」
「一度会ってみたい」
「今日は遅くなるっていってたから、またな」
「え、またここに連れて来てくれるの?」
「機会があれば」
「私、作ろっと」
夕方の五時の列車で帰る紀子を見送るのに、二人で家を出た僕は、駅前の雑貨屋でミネラルウ
ォーターの小さいのを二本を買って、彼女を駅近くの川の公園のベンチに誘った。
列車の時間までまだ一時間近くあった。
夏休みにはここへよく来て、川の水の流れる音を聞いたり、文庫本を読んだりしたと僕が話す
と、紀子は羨ましげな目で聞き入っていたが、話が少し途切れた時、
「私の話していい?」
と少し遠慮気味にいってきた。
川のほうに目を向けながら、
「あなたと交際してた一年の時ね、今思うと私の完全なミスチョイスなんだけど、あなた以外
の人のところへ走ってしまった自分の愚かさにね、私、まだそれから抜けきれないでいるの…」
「何だい、急に?」
「あの時、あなたという大切な友達がいるのに、私は違う人の魅力に取り入れられて、そこへ
闇雲に走ってしまった」
「あの生徒会長さんか。学校始まって以来の秀才で頭抜群に良くて、大きな会社社長の御曹司
で、顔も美男子っていう人だったな。今は東大生なんだろ?…僕なんか敵う相手じゃなかったよ
な」
「ううん、違うの。私、あの頃太宰治に夢中になってたの知ってるでしょ?」
「ああ、そうだったかな」
「あの人、その太宰文学にものすごく詳しくて、人間失格なんかは三十回以上読んでいるとい
うことで、太宰のことなら何でも知ってたわ。その人が、私が図書室で、走れメロスを読んでた
ら、声をかけてきたのがきっかけだったの」
「そう、それは聞いてないな」
「私がいっても、あなたはいつも上の空だった」
「そうだったかな」
「図書室で何度か太宰で話し合っていたら、学校の噂になり、彼が自分の家に来たら、太宰の
全集あるからって誘われて…」
「ふむふむ」
「ふざけないで聞いて。そうしてたら、彼が私の目の前に一冊の洋書を置いてきたの。マルキ・
ド・サドって人の本。スケベな雄ちゃんだから知ってるでしょ?」
「読んだことねえよ」
それに近い実践はしてるけど、といいたかったが止めた。
「ソドム百二十日とか美徳の不幸とかいう、難しそうな本だったけど、太宰をあれだけ知って
いる彼の推奨だからと思って読み出したけど、私はすぐに嫌になり投げ出した。それから少しし
て、絵の才能もある彼に、君の裸婦像を描かせてほしいと、切羽詰まったような声で頼まれた時
に、私は彼から逃げ出したの」
「そのマルキ・ド何とかって、女の人を裸で縛ったり恥ずかしく虐げたりするやつなんだろ?」
「やっぱり知ってた。スケベ」
「ま、まあ、世の中にはそういう特殊な世界があるってことを、知っただけでもいいんじゃない
かい?」
背筋に少し汗をかきながら、僕が慰め顔でいうと、
「好きな人の命令だったら、私もするかも」
「俺を好きになって」
「私を縛りたい?」
「ちょっとだけ」
「バカ。…でも今日は思い切ってここにきてよかった」
「頭はちょっと悪いけどハンサムな雄ちゃんに会えたしな」
「私にはあなたぐらいが分相応なのかな。ありがとう」
駅のホームで紀子に手を振って見送ってやったら、彼女の片手が目の下をぬぐっているように見え
たが、あれは愛する人との、別れの涙だったのかどうかはわからなかった…。
続く
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