尼僧と名前が出ているスマホの画面を観て、あの人の名前、真野綾子といってた
から直しておかないとな、と思いながら、僕は着信ボタンを押した。
「もしもし…雄一さん?」
ですか?ではなく、まるで恋人でもあるかのようにさも親しげに、名前で呼ばれ
たのが、少しばかりこそばゆい感じがした。
「ああ、綾子さん」
と僕も恋人気取りの声で返答した。
「あら、私の名前しってみえたの?」
「好きな人の名前なら、どんな手段使っても調べますよ」
ここで僕は、思わぬいい間違いを仕出かしていた。
好きな人ではなく、素敵な人といおうとしたのだ。
怪我の功名かどうか、綾子さんの声が急に明るくなり、
「お婆さんに用があって電話したら、あなたがこちらへ来てるって聞いたものだ
から…あ、そういえばお婆さん、お知り合いでご不幸があったみたいで、今日は隣
村で泊まりになるとかで…」
それで僕のスマホに電話してきたのか、と心の中で思いながら、
「こ、この前は…つい調子に乗っちゃってすみませんでした…」
と過日の無礼を詫びると、
「あ、い、いいえ。こちらのほうこそ大人げなくて…」
と恐縮と気恥ずかしさの、入り混じったようなした声で返してきた。
「綾子さん、今お一人ですか?」
僕は声の調子を少し変えて、大人ぶったような声で尋ねた。
「え、ええ…」
「僕も祖母がそんなことでいないので、一人なんです」
会話がそこで少しの間途絶えた。
「あ、あなたもお婆さんと、ご一緒だったんでしょ?…疲れて」
綾子さんのその言葉を遮って、
「あなたの顔見て寝たい」
と僕は切り返していた。
また、尼僧の綾子さんが黙りこくったが、間もなく、
「来て…」
と何かを吹っ切るような声音でいってきた。
僕はというと、つい今しがたに、神妙に反省の思いに浸っていたことが嘘だっ
たかのように、座椅子から勢いよく立ち上がり玄関口に小走っていた。
どういう男なんだ、僕は?
そんなことを思いながら寺への細道を、僅かな月の光を頼りに歩いた。
綾子さんの住家の玄関前に立つと、チャイムボタンを押す前に、中のほうから
灯りが点いた。
細身の人影が摺りガラス越しに見えた。
硝子戸が開いて、いつもの袖頭巾に法衣と羽織り姿の、綾子さんの色白の顔が
少し俯き加減に見えた。
先に彼女に頭を下げられた僕は、慌てた声で、
「こんばんわ」
と返すと、何故か自分の気持ちが急に落ち着き出したのを感じた。
夏休みの時、綾子さんから叱責に近い言葉を浴びた、居間の座卓の前に座るま
で、二人の会話は何もなかった。
「数日前の、妹さんが一緒だった、あの夜のことが、今も忘れられずにいます」
先制攻撃というのでもなかったが、僕のほうから切り出した。
お世辞や嘘の言葉ではない。
予め用意しておいてくれたのか、綾子さんはポットからコーヒーカップに湯気の
立つコーヒーを注いでくれながら、
「あなたには、私の恥ずかしい面ばかりを知られていて、こちらのほうが赤面し
ていますのよ」
座卓を挟んで対面に座った綾子さんは、終始僕とは視線を合わそうとはせず、細
い顎を俯けたままだった。
「今も、あなたを抱きたい一心で来ました」
目の前の相手の表情は無視して、僕は直球勝負でいった。
誰に教わったわけでもなく、僕の思考の中にもない、こういう時の人との対峙手
法が勝手に、こんな若造の自分の口から澱みもなく出てくることに、僕自身が内心
で驚きながらの直球勝負だった。
綾子さんが以前に密かに書き残した、あの長文日記を何度も読み返したりしてい
るうちに、彼女の内面の被虐性を、僕は知らぬ間に自分の記憶装置の中に入れ、若
造なりに都合よく咀嚼しているのかも知れないと、漠然とだが僕は思っていた。
夏にも終わりが見え、夜になると空気も冷え込んだが、室内はエアコンの熱風で
程よく温もった空気が漂っていた。
「綾子さん、ここの襖、開けていいですか?」
コーヒーを一口啜った後、徐にそう聞いたこの時の、僕の顔の表情は、おそらく
意地の悪い眼差しになっていたのだろうと思う。
綾子さんの、口紅を薄赤く引いた下唇が、狼狽えたように微かに動いた。
襖戸の向こうは八畳の仏間だ。
「僕もその気で…あなたを抱くつもりでここに来てます」
彼女の狼狽を助けるつもりで、僕はさりげなくいって、自分から動いて間仕切り
の襖戸を開けた。
薄暗い室の中央に、派手な花柄模様の布団の上下が敷かれていた。
「今夜はこちらに泊めてもらおうと思ってますが?」
元の席に戻って、僕は顔を朱に染めて俯いたままの綾子さんを凝視した。
自分の心の中に二面性性格の、悪い面が出てきていることを、僕は内心で承知し
ていた。
弱冠十六の少年が、知らぬ間に素直な少年でなくなっていくのだ。
「綾子さん、こちらへ来てください。それとも僕がそちらへ行きましょうか?」
僕の声が終わらないうちに、綾子さんはその場から立ち上がり、畳を擦るように
して、僕の横に来て力なく膝を崩してきた。
綾子さんの上品な女の香りが、僕の鼻先を漂い流れた。
「あっ…!」
小さな声で綾子さんが驚きの声を挙げた。
僕の片手が素早い動きで、彼女の法衣の襟の中へ滑るように潜り込んでいたのだ。
潜り込んだ手の先に、綾子さんの乳房の柔らかな感触が直に伝わってきた。
もう片方の手で羽織を着た彼女の肩を掴み取り、自分のほうへ引き寄せると細身
の身体はいとも容易く、僕の胸の中に飛び込んできた。
僕のそれほど広くもない胸の中に包まれた綾子さんが、不安げに慄いた表情の顔
を上げてきたのを狙って、僕は自分の顔を彼女の蒼白気味のかおにちかづけ、その
まま唇を塞いだ。
嗅いだことのある甘い口臭が、僕の口の中にすぐに広がり、同時に下腹部に強い
刺激が走った。
元より尼僧の綾子さんに自分への抵抗心がないことはわかっていたが、悪の思い
の勝った僕の内心では、彼女をもっと辱めたいよいう淫猥な気持ちが沸々と湧き出
してきていた。
綾子さんの法衣の襟に潜った僕の手が、僕のその邪悪な思いを実証するかのよう
に激しく動き、彼女の法衣の襟をさらに大きく乱れさせ、片方の肩の白い肌と、乳
房の片側がが露わになっていた。
お互いが求め合うような雰囲気で、長く重なっていた唇が離れた時、僕から綾子
さんを布団の敷かれている次の間に、顔と目で促した。
彼女は乱れた襟を直しながら従順に従った。
掛け布団をわざと乱暴に跳ね上げて、僕は敷布団の上に綾子さんを座らせたのだ
が、正座ではなく両手を後ろにつき、両足の膝を折り曲げるように指示した。
両足の膝を曲げて立てたことで、必然的に尼僧の法衣の裾は乱れ、白い脹脛や太
腿が露わになった。
僕は彼女の正面に俯せになって、裾の割れた奥の股間に目を向けると、いきなり
漆黒の茂みとその下の肉の裂け目が目に飛び込んできた。
両手を後ろにつき、袖頭巾の下のすでに上気しかかっている顔を妖しげにのけ反
らせている彼女を見て、
「あんた、仏に仕える身のくせに、どうしようもないスベタだな」
と僕は下品な口調で罵るようにいってやった。
「ああっ…は、恥ずかしい!」
「ふん、よくいうよ。俺はここまでの指示はしてないぜ」
僕の性格は完全に裏返り状態になっていて、言葉遣いも下品で粗野になっていた。
「もっと、足を開いて見せろ」
何かに堪えているのか、綾子は歯で下唇を強く噛み締め、細い首を左右に小さく
振っていたが、足のほうもゆっくりと開いてきていた。
やがて乱れた裾の片方が、立てた膝から滑るように下に落ち、白い太腿の奥が陽
が差したように明るく見えた。
漆黒の繊毛の先端部分までが鮮明に見え、その下の薄黒い肉襞が少し割れて、妖
しげに濡れそぼっているような、濃い桜色の柔肉が覗き見えた。
女性のその部分をこれほど間近で凝視することは、僕にとっても初めてのような
気がしていた。
アダルトビデオ情報で、こういうのを視姦とかいうらしい。
概してナルシスト系の女性に効果があるとのことのようだが、この尼僧の綾子に
もそういう傾向がないでもないような気がする。
その視姦行為を暫く続けた後、割れたままの綾子の股間の漆黒の下に僕は片手の
指を突き当てるように伸ばしていった。
濃い桜色の柔肉に指の先端が触れると、綾子の全身がビクンと大きく震えた。
そして綾子の剥き出しのその部分は、確実に僕の指の先に滴りの感触を与えてき
ていた。
「あんた、男なら誰でもいいのかい?」
「ああっ…そ、そんな」
「誰でも来てくださいって、ここが濡れて誘ってきてるぜ」
「そ、そんなことは…」
「女の身体は正直なんだな」
「い、いわないで…ああっ」
「五十五の熟れた女が、まだ十六の純真な少年を誘ったりして、恥ずかしくない
のかよ」
「あ、ああっ…あ、あなたが」
「俺が何だって?」
「あ、あなたがこんなに…」
「あんたのあの日記読んでると、男なら誰でもよかったんじゃないのか?」
「そ、そんなことは…」
「あれでいうと、誰だっけかな?…そうだ、湯川とかいうあのSMショーの主催者
との絡み合いが、すごくよかったのか、かなり細かく書いてあったよな?」
「そ、そんなこと…」
「最初に燃え上った竹野って男も、かなりよかったのかな?…そうするとたかだ
か十六の坊やの俺なんかとのことなんか、屁みたいなもんだな?」
「ち、違うわ!…あ、あなたのこと、そ、そんなじゃ」
「若いだけの俺のヤキモチか?」
いつの間にか俯せになっている僕の身体が前摺りしていて、膝を立てた綾子の足
首のところまで顔が寄っていて、奥に差し伸ばした指の半分以上が、彼女の膣内に
埋まり込んでいた。
こういうねちっこい行為は、あまり僕の好みではなかったが、言葉で責め立てる
のもエロ本か何かで仕入れた情報のような気がする。
「例の中学校の時の教え子とは、今も付き合ってるのか?」
思い付きで出たこの言葉で、僕はもう一つのことを思い出していた。
国語教師の沢村俶子のことだ。
綾子も国語教師の経験があり、いつの日か教師二人を並べて抱いてみたいという、
馬鹿げた発想が僕の頭に漠然と湧いた。
俶子も前に、その尼僧さんに会ってみたいとかいっていたような覚えがある。
これは馬鹿げた発想で終わらせたくないという気が、見る見る僕の気持ちの中で
具現化してきていた。
「どうなんだ、教え子とは?」
綾子の膣内に潜ったままの指先に、少し力を込めて問い質すと、
「ああっ…は、はい。メ、メールだけのやり取りは…」
「ふふん、あんたも忙しいな」
「ね、ねえ…お、お願いですから、もうそんなに虐めないで…」
「ふん、こうしてるほうが楽しいよ。ほら、俺の手見てみろ。あんたから湧き出
る汁でぐっしょりだよ」
そういって僕は、綾子の膣内から抜き出した手を、彼女の顔の前に翳してやった。
嘘ではなく翳してやった僕の手は指だけではなく、手のひらから手首にかけてま
で、手洗いの後のように夥しく濡れ滴っていた。
綾子の淫靡な愛液に濡れそぼった自分の手を、僕自身も目の当たりにして、急激
な欲情が下半身のほうから沸々と湧き上がってきて、勢い任せに彼女の身体に飛び
かかっていった。
彼女の身体の上に覆い被さり、法衣の襟を左右に力任せにおし開き、熟れきった
丸みのある柔らかな乳房をわし掴み、手の指に力を込めて揉みしだいた。
「ああっ…も、もっと強く!」
僕のこの起動を待ち望んでいたかのように、綾子は自分の両腕を強い力で僕の背
中に巻き付けてきた。
片手でジーンズのボタンを外し、トランクスと一緒に足首から抜くと、急き焦る
童貞男のように、綾子の股間の沼地に向けて、僕は自身の屹立しきっているものを
突き刺していった。
「ああっ…こ、これが…ほ、欲しかったの。…あ、あなたの」
「嘘つけ。お前は男なら誰でもいいんだろ?」
「ち、違う、違うわ。…あ、あなたがほんとにす、好きなの!」
「俺の、こんな若い俺の、奴隷にでもなるってか?」
「え、ええ。…な、なるわ。あ、あなたの奴隷に!」
綾子の法衣の帯は解かないままで、僕は彼女の白足袋だけの片足を抱え込んで、
闇雲に突き立てた。
今夜、ここへ来るまでの間に予期せぬ行き掛りで、近所の五十代の叔母さんを抱
くことになり、そこで一戦を終えている僕には思わぬ持久力が備わっていた。
僕の身体の下で五十五歳の綾子は、飢えた牝犬のように、激しく喘ぎ悶え狂った。
同じ態勢で僕がひたすら突きまくっていると、綾子はやがて白目をむいて、その
まま意識を失くした。
それでも僕はつらぬく行為を止めず、綾子の膣内に夥しい白濁を放出して、どう
にか果て終えた。
綾子が意識を戻し、我に返ったのは、十数分ほど経ってからだった。
「わ、私…ど、どうしちゃったのかしら?」
狼狽えたような声でそういって、横で仰向けになっている僕に慄きの目を向けて
きた。
「どうもこうもあるかよ。自分一人だけ勝手に昇天しやがって。興覚めもいいと
ころだ」
本当はそれほどでもなかったのだが、僕は故意的に悪態をついて、慄きの目のま
まの綾子を突き放すように背中を向けた。
綾子は身体を起こし、僕の顔を覗き込むようにして、詫びの言葉を何度も口にし
たが、僕は目を瞑ったまま言葉は一言も発しなかった。
僕は本気で怒っていたのではない。
さすがに若い僕にも、相手と場所を違えての二連戦は少しばかり応えたようで、
睡魔に全身を襲われかけていたのだ。
「眠くなってきたから寝る。…お前がよかったからだ」
心根の優しい僕は、最後にそういってやって、間もなく深い眠りの底に堕ちた。
その夜、見た夢の中に、何故か、この前にスターバックスでコーヒーを僕に奢っ
てくれた、高校の同学年の村山紀子の健康的な笑顔が出てきていた…。
続く
※元投稿はこちら >>