吉野氏は僕の祖母の顔を見た時、一瞬だけ目を開けて、口元に微かな笑みを浮か
べたようだったが、それから間もなく自宅の寝室で息を引き取った。
今の時代なら早過ぎる、六十七歳という生涯だった。
病院から駆けつけてくれた医師と看護師がいて、長く吉野氏に付き添っていた古
村氏と、祖母と僕の他にもう一人、高級なダブルのスーツ姿の恰幅のいい六十代く
らいの男性がいた。
その人が吉野氏の永遠の友だった稲川某氏だというのは、誰に紹介されるまでも
なく僕にはすぐにわかった。
その稲川氏も祖母も古村氏も、吉野氏への深い思い中で、声を啜らせたり、目を
潤ませたりしていたが、自分が薄情なのかどうか、僕だけは何故か涙は出なかった。
三人の大人たちの、吉野氏に纏わる人生の機微の深さや重さが、たかだか十六の
高校生の僕にはわかる道理がなかったのだと思うしかなかった。
これという身寄りのほとんどない吉野氏の、葬儀や今後の処遇については、永遠
の友である稲川氏が全責任を持って事を行うと、自ら申し出て祖母と古村氏はただ
頭を深く下げるだけだった。
祖母にしてみれば、表向きの話でいえば、吉野氏とは男女の交流はあっても、婚
姻とかの既成事実は何もないわけで、女の独り身でそこまでは尽くせないのが現実
の話で、古村氏にしても問い質せば、ただの知人というだけで血縁的な繋がりは何
もないので、男の友情として吉野氏の墓も作らせてもらうという申し出は、まだ子
供の目しかない僕から見ても、それこそ義侠に富んだいい結末だと折った。
吉野氏の葬儀の準備は稲川氏に任すとしても、忽ちの通夜の準備や自宅の整理や
片付けがあるといって、祖母と古村氏が残ることになり、僕と稲川氏の二人はその
家を辞去することになり、駅までの帰り道を稲川氏の車で送ってもらうことになっ
た。
左ハンドルの大きな外車だった。
「君が雄一君というのか？亡くなる前の古村から何度か聞いている」
広い後部座席で稲川氏からいきなりいわれ、
「は、はい」
と僕は緊張しまくりの声で応えるのがやっとだった。
「いい目をしてると吉野はいってたが、あいつの目に狂いはないな。やんちゃな
いい目だ」
僕の背中には汗がどっと噴き出ていた。
「それに君のお婆さん、ほんとに奇麗だな。吉野も目が高い」
汗は額からも滲み出ていた。
駅に着いて車を降りる時、礼をいおうとした僕に、
「女で苦労するのも、男の修行だよ。じゃ」
と唐突にいわれて、僕はポカンとした顔で大きな外車を見送っていた。
あの大親分に、僕は何かを知られているのかな？と、帰りの列車の中で考えた僕
だったが、女性の顔が一度に何人も浮かんできて、収拾がつかなくなったので途中
で止めた。
駅に着き雑貨屋の前に出ると、今日の午前に坂道で出くわした野菜の叔母さんに
ばったりと会った。
向こうが驚いたような顔をして、すぐに笑顔で僕のところへ寄ってきた。
午前と同じ紺の野良着姿だ。
叔母さんの汗の匂いが僕の鼻孔を、いつになく強く刺激してきた。
立ち話になった。
「…そうなの、お婆ちゃん泊ってくるの。じゃ、雄ちゃんは晩御飯どうするの？」
「ああ、ラーメンでも作って済ませますから」
「そうだ。なら、私んちに食べにおいでよ。今日はうちの父ちゃん、農協の旅行
でいないんだわ。一人で食べるより二人のほうが楽しいじゃない。ぜひ、おいで」
二度か三度断りをいったのだが、叔母さんはもう勝手に決めきって、嬉しそうな
顔をして、すたすたと僕から離れていった。
吉野氏が亡くなったという日にも拘わらず、また僕の性格の悪いほうの面が鎌首
を擡げてきていた。
あの叔母さんを抱きたい、という不謹慎で下劣な思いだった。
僕が誘ったんじゃない、あの叔母さんがボールを投げてきたのだ、この二つの思
いを戦わせながら、僕は家への坂道をゆっくり登った。
叔母さんは六時半頃に来いといってた。
作戦はすぐに思い浮かんだ。
叔母さんの家も、祖母の家と同じ平屋建ての農家住宅で、わかりやすい田の字型
の間取りだった。
ノートパソコン一つを抱えて玄関を訪ねると、台所のほうから、オレンジ色のポ
ロシャツと灰色のジャージに着替えた叔母さんが、愛想のいい笑顔で迎えてくれ、
居間の座卓に案内された。
座卓の上には一杯の皿が並べられていて、食べきれないほどの色とりどりの料理
が盛られていた。
味噌汁をよそってくれたり、茶碗にご飯を山盛りに盛ってくれたりする叔母さん
の甲斐甲斐しい動作を見て、ああ、この人も女の人には間違いないのだ、と思いな
がら、僕は精一杯、口と箸を動かせて食べた。
「美味しかったです。ご馳走さまでした」
満腹になった腹を抱えて、僕は叔母さんに心からの礼をいった。
「うちの婆ちゃんがいってたんだけど、叔母さん、歌が好きなんだってね」
これからが本番だ、という思いはひた隠して、何げない口調で僕は叔母さんに尋
ねた。
「あ、ああ…歌うのはだめだけど、聞くのはね」
僕にお茶を入れてくれながら、屈託のない声を僕に返してきた。
「この人の歌が特に好きだって婆ちゃんがいってたから…」
そういって、僕は横に置いていたノートパソコンに手を伸ばし、座卓の上に置いた。
「まあ、そんなので歌が聞けるの？…聞かせて」
僕の斜め前に座っていた叔母さんが、身を乗り出すようにして、他意一つなく寄っ
てきた。
まさか僕の来訪のために、化粧はしてはいないのだろうが、中年女性特有の妙な淫
猥さを連想させる匂いが、敏感になっている僕の鼻孔に風のように吹きつけてきた。
パソコン画面に、三味線を抱えた女性歌手が出てくると、
「そうそう、この人、長山何とかねいう人。あなたのお婆さんに、ほんと顔がそっ
くりなんだよね」
といいながら、流れ出てくるメロディーにうっとりと聞き惚れていた。
「そうそう、叔母さん、この人の歌も好きだって、婆ちゃんがいってたな」
その歌が終わってから、僕はそういって、予め家で用意していた別の歌手のフォルダ
を開いた。
「ああ、そうこの人の歌も好きなのよ」
流れてくるひどくスローテンポなメロディーに、叔母さんはまた無邪気に聞き惚れて
いた。
その曲が終わったところで、
「他にも演歌あるけど聴く？」
前の曲がかかっていた時、僕は自然な動きで叔母さんの片方の肩に、何げに手を載せ
ていた。
その姿勢のままで僕はパソコンを操作していた。
画面が急に変わった。
「あ、間違えた、ごめん」
その変わった画面を、僕は故意的に何秒間か消さずにいた。
その画面を観ていた叔母さんの顔が、それまでとはまるで違う唖然呆然状態に陥って
いるのが、横目で僕には見てわかった。
画面に何秒間か映し出されたのは、所謂、洋モノアダルトビデオの類で、黒人の若い
男に白人の四、五十代くらいの熟女が、全裸で激しく犯されている図柄だった。
これも僕が事前にパソコンに仕込んで置いたもので、操作を誤ったふりをしたのも、
すべて僕の仕込みだったのだ。
「ご、ごめん、お、叔母さんに変なもの観せちゃって」
慌てた素振りで僕はパソコン画面を切り替えた。
「な、何？…い、今の」
叔母さんは喉をごくりと大きく鳴らして、まだ惚けたような目をしていた。
「ぼ、僕も若いから…た、たまにこんなの覗くんだよね」
故意的にバツの悪そうな顔をして、横で固まっている叔母さんの顔を窺見ると、よほ
どの衝撃だったのか、目が点になったまま語いていなかった。
「に、日本のものもあるんだけど…観てみる？」
浅黒い肌なので叔母さんが赤面しているのかよくわからなかったが、少しの間の後、
こくりと首を頷かせてのがわかって、僕は今度は手早い動作で、それまでとは違う画面
を映し出した。
日本モノで、五十代くらいの母親が、自分の息子の悪友たち数人に襲われ、犯される
というストーリーだ。
叔母さんの丸っこい身体がパソコン画面に、恐る恐るというゆっくりとした動きで近
づいてきていた。
画面を叔母さんのほうに向けてやると、叔母さんの身体はさらに前に動いた。
横にいた僕は自分から身を引くようにして、前に乗り出している叔母さんの背中に廻
った。
叔母さんの丸い背中に、僕は自分の胸をゆっくりと密着させていった。
叔母さんの身体に、僕を避けようという動きはどこにも見受けられなかった。
図に乗ったように僕は自分の両腕を、叔母さんの脇の下から前に伸ばした。
画面は数人の若者たちが一人の女に群がって、着ている衣服を剥ぎ取っているところ
のようだ。
襲われている女の悲鳴が、間断なく喩づいていた。
僕の両手がポロシャツ越しに、叔母さんの柔らかい乳房を掴み取っていたが、叔母さ
んのほうに、僕のその手を払い除けようという意識がないのか、ただ画面に目を集中さ
せているだけだった。
叔母さんの柔らかで、膨らみの豊かな乳房をまさぐっていてわかったのは、彼女はブ
ラジャーしていないということだ。
親指と人差し指で、叔母さんの乳房の頂点の乳首を軽く摘まんでやると、彼女は顔を
動かし背後の僕を振り返ったが、乳首を弄り出している僕の手を払い除けようともして
はこなかった。
叔母さんの吐く息が荒くなり出していた。
僕の手はさらに大胆に動いた。
叔母さんのポロシャツの裾から手を中に差し込み、乳房の膨らみを直接に捉え、掴み
取ったのだ。
叔母さんの手はさすがに動き、中に潜った僕の手をポロシャツの上から抑え込んでき
た。
パソコン画面はまだ若者たちの熟女への暴行シーンが続いていた。
叔母さんの初めての抗いはそれだけだった。
僕の手を押さえつけている、叔母さんの手の力は意外なくらいに弱かったので、中に
潜った僕の手は自在に動かせ、同時に二つの乳首を弄ってやると、
「ああん…」
と叔母さんの口から短い喘ぎ声が漏れ聞こえた。
叔母さんの乳房への愛撫を、僕は根気よく丹念に続けた。
間もなくして決着がついた。
ポロシャツの上から、僕の手を押さえつけていた叔母さんの手が離れて、だらりと下
に落ちたのだ。
叔母さんの吐く息が一層荒くなり、深い吐息に変わってきていた。
丸い乳首が飴玉のように固くしこり出していた。
その叔母さんの乳房から僕は両手を離し、その手を叔母さんの肩に廻した。
叔母さんの顔と僕の顔が、二人の息が届く近さで、真正面に向き合った。
羞恥と戸惑いを浮かばせて、目を眩しげに泳がせている。
毎日の畑仕事で肌は浅黒く日焼けしているが、艶のある滑らかさは、叔母さんの乳房
を時間をかけ愛撫した時に、僕は薄々には感じていた。
「ど、どうするの？」
上下左右に目を忙しなげに動かせながら、叔母さんが少し怯えた声で聞いてきたので、
「キスしたい」
と僕はあっさりとした口調でいって、顔をそのまま狼狽の表情を大きくしている、叔
母さんの顔に近づけていった。
僕は躊躇することなく、叔母さんの少し震え気味の叔母さんの唇を塞ぎにいった。
ううっ、と叔母さんはあちこちに泳がせていた目を大きく見開いていたが、手で僕を
払い除けるとかの動きはしてこなかった。
驚きや戸惑いもあってか叔母さんの口は無防備で、僕の舌は苦もなく侵入できた。
女の人らしい嫌気のない口臭を感じながら、口の奥で怯えたように縮まっている叔母
さんの舌を僕の舌が捉え、滑るように馴染ませていった。
片手で掴み取った乳房に力を込めてやると、叔母さんは塞がれた口の中で、ううっ、
と小さく呻き悶えた。
膝を曲げて座っていた、叔母さんの足が開き気味に乱れているのに僕は気づき、乳房
を掴んでいた手を素早く下に下ろし、ジャージの上から彼女の股間を責め立てていった。
叔母さんがまた低く呻いたが、唇を重ねたまま、僕は叔母さんの身体に自分の体重を
載せるようにして、カーペット倒れ込んでいった。
曲げていた叔母さんの膝が伸びたのを、横目で見た僕は、すかさず片手を彼女のジャ
ージの中に滑り込ませた。
ショーツの布地らしい感触が、手の指先にはっきりとあった。
そこで叔母さんは自らの意思で、汗の滲んだ顔を左右に激しく振って、唇を僕から離
し、
「ああっ…」
と余韻の残る喘ぎ声を漏らした。
「ゆ、雄ちゃん…こ、こんなことして…い、いいの？」
不安と動揺の入り混じった表情を露わにして、叔母さんが聞いてくる。
「前から、叔母さんとこうなりたいと思ってた」
叔母さんの耳元に、息を吹きかけるようにして、そういってやると、
「ば、婆ちゃんに知れたら？」
「僕と叔母さんだけの秘密にしたらいい」
「わ、私、も、もう変な気持ち…」
「僕も、こんなだよ」
そういって僕は叔母さんの片方の手首を取って、そのまま自分の下腹部に強引に
引き下げていった。
叔母さんの手を、すでに勃起状態になっている、自分のものに押し当ててやった。
無意識だったと思うが、叔母さんは僕のものを握り締める動作をしてきた。
「もうこんなだよ、叔母さん」
「…………」
叔母さんの無言の顔を、僕は何もかもの許諾の告知と勝手に捉え、ジャージの中
に潜らせていた手を、一気にショーツの下に差し入れた。
ざらりとした繊毛の感触があり、さらに下に伸ばした指先が、しとどに濡れ滴っ
た温かな部分に辿り着いた。
「あっ…だ、だめよ、そこ…ああっ」
叔母さんの両足が慌てたように閉じてきたのだが、それより一瞬早く、僕の伸ば
していた指先は、彼女の濡れそぼった裂け目の、中深くまで潜り込んでいた。
押し入ったそこの指先を、捏ねるように動かせると、叔母さんは汗の噴き出た顔
を左右にうち振らせて、悲鳴に近い悶えの声を絶え間なく漏らし続けた。
カーペットの上に、すでに熱く昂待った気配の、叔母さんの身体を横たえさせて、
僕は彼女の衣服の上下と、ショーツまで一気に脱がした。
全裸の身をカーペットに横たえた叔母さんに、起き上がる気力もなさげなようだ。
叔母さんの顔の近くに立って、僕は自分の着ている衣服を故意的にゆっくりとした
動作で脱いだ。
素っ裸になって、カーペットに横たわっている叔母さんを跨ぐようにして立った僕
は、そのまま自分の身体を下に沈めていった。
仰向けにした叔母さんの膨らみの豊かな乳房を、僕の剥き出しの臀部が抑え込む形
になり、自然に彼女の顔の前に、僕の下腹部の屹立したものの先端が当たっていた。
僕が叔母さんに何を望んでいるのかは、一目瞭然のはずだった。
叔母さんは驚きの目を露わにして、間近にある僕のものを凝視していた。
僕の意をどうにか察した叔母さんは、自分から頭を上げてきて、少しの躊躇いの後、
自分の口にゆっくりと含み入れていった。
女性の身体の本能は男性のそれよりも勝ると、どこかのエロ本作家が書いていたよ
うな気がするが、叔母さんの動きもそれを実証するように、僕が言葉でいわなくても、
自分のほうからそうした感じだった。
そして僕は、灯りの煌々と点く居間のカーペットの上で、叔母さんの少し丸みを帯
びた身体を思いきりつらぬき、その胎内に若い白濁を飛散させた。
「あっ…こ、こんなの初めてっ！」
「ゆ、雄ちゃんっ…わ、私、逝くっ…逝くわ！」
「こ、こんな…ゆ、雄ちゃん、好きっ！」
これ以外にも叔母さんは、たくさんの愉悦と享楽の言葉を履き続け、
「こんなにね…こんなにいい気持で男の人に抱かれたのって、私、ほんとに初めて
よ」
と繰り返すように改めていって、いつも見る叔母さんではなく、熟女そのものの目
線で僕を見つめてきたのだった。
美人ばかりが女ではないな、と僕は思っていた。
そして叔母さんは付け足すように、
「うちの父ちゃんね、長く糖尿患っててて、正直、私も何年振りかだったの」
と恥ずかしげにいって、顔を赤らめた。
「今日のことは、私と雄ちゃんだけの秘密にして…も、もし、また雄ちゃんがそん
な気になったらいってね。おやすみ」
それが叔母さんの家を出た時の言葉だった。
灯りの点いていない家に帰って、居間のカーペットに仰向けに倒れ込んだ僕は、自
分のあまりの節操のなさに、自分自身で呆れ果てていた。
まだ人間としても、平均寿命の四分の一も生きていない分際で、女、女、女に現を
抜かしてばかりで…一体自分はそんな人間になっていくのだろうと、将来のことを考
えてみるのだが、杳として明確な答えが浮かび出てこない。
歴史に名を残している人たちは、絶対に今の自分のような、無節操な生き方はして
はしてはいないだろうというのは、僕にもわかり過ぎるくらいにわかっている。
あの祖母のことを悪くいうつもりはさらさらにないが、もしかしたら血縁的にか家
系的にか、何かの深い愛欲の魔性のようなものに取り憑かれているのかも知れないと
も思ったりもするのだが、あまり物事を深く突き詰めるのが苦手な僕は、今日の今、
こうして悩んでいても、すぐに忘れてしまう悪癖があるのだ。
あの日本最大の任侠組織の会長である稲川某氏に、車中でいわれた、女で苦労する
のも男の修行だよ、という言葉をふいに思い出し、単細胞な僕の気持ちは、やがて間
もなく和らいでいった。
寝転んだ顔の横に置いたスマホが唐突に鳴った。
画面に、尼僧という名前が出て、僕は思わず上体を起こして、足を折り曲げて座り
直した…。
続く
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